YUKIが2年2カ月ぶりのニューアルバム「Terminal」を4月28日にリリースした。
西寺郷太(NONA REEVES)や前野健太など、YUKIが敬愛するアーティストと作り上げた「forme」、CharaとのボーカルユニットChara+YUKI名義でリリースした「echo」など、近年はさまざまなアーティストとのコラボレーションで作品を発表してきたYUKI。ほかのアーティストとの共同制作により「自分の知らない世界をもっと知りたい」という思いが強くなってきたという彼女は、奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、今井了介、LASTorderといった初顔合わせの面々を制作陣に迎えて新作「Terminal」を作り上げた。
この特集では、コロナ禍で制作がストップしつつも完成した「Terminal」についてYUKI本人にインタビューを実施。各楽曲のイメージや「Terminal」というテーマが決まった意外なきっかけなどを聞いた。
取材・文 / 松浦靖恵
「forme」を経て自分の知らない世界をもっと知りたくなった
──10thアルバム「Terminal」は前作「forme」以来およそ2年2カ月ぶりとなるオリジナルアルバムですが、制作がスタートしたのはいつ頃ですか?
2020年初頭には新しいアルバムに向けて動き始めていました。自分の知らない世界をもっと知りたいという思いから制作が始まったアルバムです。
──そのような思いになったきっかけはなんだったのですか?
自分が敬愛するアーティストの方々から提供していただいた楽曲の中で、私はどんな歌詞を書き、どんな歌を歌うのだろうという試みをした9thアルバム「forme」で新しい自分を見つけることができ、歌手としての可能性を信じられたんです。また昨年リリースしたChara+YUKIのミニアルバム「echo」では、Charaと一緒に行った制作の中で、ダンスミュージックの在り方やメロディとリズムの関係性など、たくさん勉強することができました。その2作品の制作で、私は自分からは出てこない曲に自分の言葉を乗せて歌うのが好きなんだなと改めて思い、自分の知らない世界をもっと知りたくなりました。
──今作の編曲クレジットに、奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)さん、今井了介さん、LASTorderさんなど、タッグを組むのが初めての方たちの名前が多く並んでいるのはそういう思いがあったからなんですね。
奥野さんがこれまで手がけられた作品は以前から聴いていて、いつかご一緒できたらいいなと思っていて。奥野さんに編曲していただいた「灯」では、奥野さんにレコーディングメンバーも集めていただきました。今井さんは著名なアーティストの作品を多く手がけていらっしゃるのでお名前は存じ上げていました。リモートでの打ち合わせで初めて顔を合わせたんですが、結果的に「Terminal」収録曲のうち、5曲は今井さんのチーム(TinyVoice, Production)と制作することになりました。
半径5メートル以内の人たちに笑顔になってもらえたら
──2020年初頭からスタートした新しいアルバムに向けた制作活動は、新型コロナウイルス感染拡大の影響でしばらく中断をすることになったそうですね。
はい。いつレコーディングを再開することができるのかわからない状況の中ではありましたけど、自分の心を解放させてくれて、時間が過ぎるのも忘れてしまうくらい没頭できることはなんだろうと考えたときに、メロディに乗せて歌詞を書き、それを歌うことが私にとって一番の“自由”なんだと思ったんです。そして私の自由は誰にも止めることができないとも思いました。自分の思いを止めずに前に進むために今できることを最善のやり方でやろうと決めて、昨年6月から制作を再開しました。
──今作には「good girl」とタイトルをつけた楽曲が収録されていますね。
アルバムタイトルにしてもいいかなと思っていたくらい気に入っている曲です。あるドキュメンタリーを観たことが出発点になってできた曲なんですが、その映像にはどんなに名声や地位があっても、どんなにお金持ちになっても、いつも満足できなくて、愛されたい、わかってほしいともがいている人たちの姿がありました。彼らの姿を見て、私自身もいつもナイスではいられないんだと思うと同時に、自分がやれることで自分の半径5メートル以内にいる人たちに笑顔になってもらえたら、その笑顔がどんどん広がって最終的にはきっと世界がよくなるんじゃないかとも思いました。
──「Sunday Service」には、“Additional Drums:YUKI”とクレジットされていますね。楽しそうにドラムを叩いているYUKIさんの姿が目に浮かんできました(笑)。
今回のアルバムは打ち込みの曲が多いですけど、生バンドの曲もやりたいと思って「チューインガム」と「Sunday Service」は前回のツアー(「YUKI concert tour "trance/forme" 2019」)のバンドメンバーとレコーディングしました。私がドラムを叩いた「Sunday Service」は、エンジニアの渡辺省二郎さんと一緒に音作りをしていく作業がとても楽しかったです。
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「あつ森」の“ターミナル”で出迎えられて