音楽ナタリー Power Push - YUKI
“暴れたがっている”自分の本性を歌ったニューアルバム
函館弁で歌い直した上京の歌
──「こんにちはニューワールド」では、「自分がどこまでやれるかは自分次第」だと自分自身をけしかけて、最後に「I am"Y"and"U"and"K"and"I"」と宣言しています。
自分で自分を自由にして、どんな歌も責任を持って歌うんだという覚悟がそこに出ましたね。
──この曲では、ゆるやかな打ち込みのリズムに乗せて、YUKIさんがところどころでラップを披露しています。KAKATOとコラボした「波乗り500マイル」(「FLY」収録曲)での手応えが、この曲につながっているのでは?
彼らとのレコーディングはとても楽しくて、そこで新しい自分に出会えたことがとてもうれしかったんです。「こんにちはニューワールド」のゆったりした、おしゃべりのような歌い方やラップは「私がやるんだったらこういう感じになりますよ」という。このような歌唱ができたのも、「波乗り500マイル」を経たことが大きいと思います。
──「こんにちはニューワールド」は、YUKIさんが上京した頃を思って歌詞を書いた「汽車に乗って」(17thシングル)の続きのような歌だなって思いました。
私もそう思いました。「こんにちはニューワールド」の歌詞にも上京した頃の自分が登場しています。東京に出てきてから初めて暮らしたアパートで、私は窓を開けてよく歌の練習をしていたので、隣の部屋の人に壁を蹴られたり、1階の八百屋さんに怒られたり……しましたね(笑)。
──歌詞に書いてあることは実話だったんですね。
そのアパートの近くには神社があって、なぜか大きな声で歌っても大丈夫だろうと思って、窓を全開にして歌っていました。この曲のレコーディングでは標準語で「なんでもできると思ってたでしょ?」と歌っていたんですけど、当時のことを歌っているのになんかスカしている自分がいるなと思って、歌入れのときに「せば何でもできると思ってるっしょ?」「約束だべ?」と函館弁で歌い直しました(笑)。「どこまでも終わらないような夢の中で 後ろめたさばかりなの 何故?」のところはレコーディングの終盤で歌詞が出てきたんですけど、これも、すごく言いたかったことを書くことができました。函館から東京に来てから、当たり前なんですけどいろいろな方たちにお世話になって、支えられて今の私があるんです。一緒に上京してきた友達の中にはデビューできなくて帰った子や、東京にいるけど音楽活動ができなくなってしまった子もいて。そういう人たちからも私は力をもらっていたのに、あの頃の私は自分本位で、人に対して失礼なことをたくさんしていたなという後ろめたさもあって。今は、そういう人たちにも幸せでいてほしいという気持ちと、自分本位は私の強みでもあったから、そこをもう少し取り戻したいという思いの両方をこの歌詞で言えたことがすごくうれしかったです。
自分の声も楽器として鳴らす面白さ
──アルバム収録曲のタイトルに「無敵」と名付けてしまう潔さも、とてもカッコいいと思いました。
“無敵”というワードは、このアルバムのレコーディングが始まった早い段階から自分の中にあって。暴れたがっている自分の中の爆発を、より焚きつけるようなワードでしたね。無敵感って特別な感覚ですし、私の、思い込みが激しくて強気な感じはとても極端な部分ではあるけれど、そこを出すことや、出せることを自分が楽しいと思えるのならば、やっていこうと思いました。その覚悟を「無敵」で歌うことができて、「怖くないぞ」と自分も背中を押されています。「この歌詞を書いている19、20歳の頃に横浜までRed Hot Chili Peppersを観に行ったなー」とか、当時のことをすごく思い出しました。当時はまだデビューは決まっていなかったけれど、バンドで歌っていた頃のあの無敵な感じも思い出します。
──「名も無い小さい花」は打ち込みで構築された楽曲だそうですが、生バンドっぽい音を響かせているロックンロールナンバーですよね。
「これ、生音じゃないの!?」って驚きますよね。最近の私の音楽の嗜好が、音数の少ないものでもあったりするので、できるだけ音数を少なくして曲を作っていただきました。あとやっぱり、少ない音数の生音に反応しながら、自分の声も楽器として鳴らす面白さを「tonight」で知ることができたことも、そういったサウンドにつながっていると思います。「名もない小さい花」の歌詞はラブソングとしても聴けることを目指しながら、「何か新しいものがまだあるはずだ」「私はまだまだこれからなんだ」という気持ちで書きました。
バスガイドの経験から歌詞を書いた「バスガール」
──「レディ・エレクトリック」はライトなポップソングです。
アルバムのバランスを考えて「ライトに聴ける曲も入れたいな」と思っていたら、早い段階で作曲家さんからこの曲のデモが届いたので、「引き寄せられた!」と思いました(笑)。歌詞も軽やかな内容にしたかったので、あまり深く意味を持たせずに、リズムに寄せて気持ちよくなるように書いています。
──映画「ポケモン・ザ・ムービーXY&Z『ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ』」の主題歌として書き下ろした「ポストに声を投げ入れて」(参照:YUKI「ポストに声を投げ入れて」インタビュー 函館時代の友人を思う「ポケモン」主題歌)は、このアルバムに入ったことで新たな発見がありましたか?
やっぱりいい曲だと思いました(笑)。この曲では自分の癖を出さないように歌ってみるということをしたんですけど、こうして改めてアルバムの中に入ったこの曲を聴くと、自分がやったことは正しかったんだなと思えてうれしくなりました。
──「本日はご乗車ありがとうございます」というナレーションから始まる「バスガール」は、遊び心がたっぷり詰まった曲になりましたね。
私が函館にいた頃、少しの間だけですけどバスガイドをしていたことがあったんです。歌詞を書いていて、「バックオーライ」という言葉が出てきたことがきっかけになって、このストーリーで歌詞を書いてみようと思いました。当時、バス会社の就職試験に歌のテストがあって、私が「帰ってこいよ」(1980年発表の松村和子のデビューシングル)を歌ったらみんながざわついて(笑)。
──なぜざわついたんですか?
テストなのに声が大きすぎて、本気すぎるって(笑)。採用後の研修期間中に、「あなた、大きな声で歌っていた人よね」って言われるくらいインパクトが強かったみたいです(笑)。
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- ニューアルバム「まばたき」 / EPICレコードジャパン
- 2017年3月15日発売
- 初回限定盤 [2CD+DVD] / 5616円 / ESCL-4837~9
- 通常盤 [CD] / 3240円 / ESCL-4840
- 2017年3月29日発売
- 完全生産限定盤 [アナログ] / 3780円 / ESJL-3088~9
- 完全生産限定盤 [カセットテープ] / 3888円 / ESTL-4
収録曲(共通仕様)
- 暴れたがっている
- さよならバイスタンダー
- こんにちはニューワールド
- 無敵
- 名も無い小さい花
- レディ・エレクトリック
- 私は誰だ
- tonight
- ポストに声を投げ入れて
- バスガール
- 2人だけの世界
- 聞き間違い
- トワイライト
初回限定盤付属CD収録曲
「YUKI LIVE "commune of ten"」
- コミュニケーション
- ありがとう
- ファンキー・フルーツ
- あおぞら
- ミス・イエスタデイ
- 恋人よ
- スウィートセブンティーン
- 君を束縛したいのです
- あの娘になりたい
- 集まろう for tomorrow
初回限定盤DVD収録内容
- 「YUKI LIVE "commune of ten"」ダイジェストムービー
YUKI concert tour "Blink Blink" 2017
- 2017年4月29日(土・祝)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2017年5月13日(土)福岡県 マリンメッセ福岡
- 2017年5月14日(日)福岡県 マリンメッセ福岡
- 2017年5月20日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2017年6月7日(水)愛知県 日本ガイシホール
- 2017年6月8日(木)愛知県 日本ガイシホール
- 2017年6月24日(土)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
- 2017年7月1日(土)神奈川県 横浜アリーナ
- 2017年7月2日(日)神奈川県 横浜アリーナ
- 2017年7月8日(土)大阪府 大阪城ホール
- 2017年7月9日(日)大阪府 大阪城ホール
- 2017年7月22日(土)北海道 函館アリーナ
- 2017年7月23日(日)北海道 函館アリーナ
YUKI(ユキ)
1993年にJUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年のバンド解散後、2002年にシングル「the end of shite」でソロ活動を開始した。2012年5月にはソロ活動10周年を記念して東京・東京ドーム公演「YUKI LIVE "SOUNDS OF TEN"」を開催し、約5万人を動員。JUDY AND MARY時代にも東京ドームでライブを行っていることから、バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行った初の女性ボーカリストとなる。2017年2月にソロデビュー15周年を迎え、テレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマを表題曲としたニューシングル「さよならバイスタンダー」を発売。3月には約2年半ぶりのオリジナルアルバム「まばたき」をリリースした。