バンダイナムコエンターテインメントとブラウニーズがタッグを組んで制作した完全新作のアクションアドベンチャーゲーム「トワと神樹の祈り子たち」が9月18日にリリースされる。
「トワと神樹の祈り子たち」は、8人の祈り子(キャラクター)から2人を選び、“見下ろし型アクション”でダンジョンを攻略するハイスピードアクションアドベンチャー。2人の祈り子を同時に操作しながらダンジョンに挑むアドベンチャー要素や、攻略で使用する刀を自作できる刀鍛冶システムなど、どこか日本的な空気を感じさせる世界の中で良質なアクションと骨太なストーリーを堪能することができる。本作の音楽は「ファイナルファンタジータクティクス」「十三機兵防衛圏」といった数々のゲーム音楽を手がけてきた崎元仁が担当。純和風のサウンドを避けつつ、プログレやテクノといったRPGらしいサウンドや、東南アジアの民族音楽の要素を取り入れ、ゲームの世界を彩っている。
音楽ナタリーでは本作の発売を記念して、ゲームの全楽曲を手がけた崎元へのインタビューを実施。和風のようでいてどこかオリエンタルな世界を感じさせるゲーム独自の世界観を崎元はどのように音で表現したのか。ゲーム音楽制作の醍醐味などを交えながら、たっぷりと話を聞いた。
取材・文 / 倉嶌孝彦
「トワと神樹の祈り子たち」
バンダイナムコエンターテインメントとブラウニーズがタッグを組んで制作した完全新作のアクションアドベンチャーゲーム。物語の舞台は諸悪の根源マガツの力で“マナ”が枯渇したシンジュの里。神の子トワと祈り子たちは里の平和を取り戻すため、マガツ討伐のダンジョンへ挑む。
ガムランを用いたゲーム音楽を
──バンダイナムコさんから「トワと神樹の祈り子たち」の音楽制作についての依頼を受けたとき、ゲームに対してどのような印象を持ちましたか?
いただいた資料を最初に見たときのゲームの印象は完全に“和風テイスト”なタイトルだと思ったんですよ。しかしよく話を聞いてみると、全体的にアジアンテイストがちりばめられていながら、その中で日本人ならではの死生観、価値観が大事にされているんだな、と理解しました。
──打ち合わせではどのようなお話を?
まず「完全な和風サウンドにはしないでほしい」と伝えられました。これはゲーム全体のテイストに共通していることでもあったので、すぐに合点がいきました。いくつかお話をしていく中で印象に残っているのは「ガムラン(インドネシアの伝統的な舞踏音楽。銅鑼や打楽器をいくつも用いることから青銅のオーケストラとも呼ばれる)を多用してほしい」ということでした。
──ゲーム音楽において「ガムランを多用してほしい」というオーダーは珍しいですよね。
そうですね。ある特定のシーンでガムラン的な音楽が用いられることはありますが、今回のように「多用してほしい」というオーダーは珍しい。幸い僕はバリ島の音楽マニアで、現地に足を運んでいるのはもちろん、CDもたくさん持っていたので、ガムランをどうゲームに落とし込んでいくかの見当はつけられました。ガムランで表現できる音楽の幅はそう広くはないので、ドラマを網羅するためのサウンドトラック全般に使うのは相当難しい、とも思いました。
──崎元さんはガムランという音楽のどういうところに惹かれていたのでしょうか?
生で聴くと迫力がすごいんですよ。金属を叩いて出す音には可聴帯域を超えた高周波が出ているから、それを何人もの演奏者が出すとすごい迫力がある。ただ、それを収録するとなるとマイクで録って、さらにスピーカーから出さないといけないので、そうするとおいしさは半減どころか激減してしまう。なので、本場のガムランをそのままゲーム音楽に落とし込むような正攻法ではなく、ガムランと同じような金属打楽器をガムランの奏法で音を出してみたり、あくまで“ガムラン風の音楽”にすることで、バリエーションを豊かにしています。
──今お話しいただいた「正攻法ではない」というアプローチは、ガムラン以外の音楽制作においても共通しているように感じました。
おっしゃる通りで、今作では和のテイストを色濃く出したくても和楽器をなるべく使わない、というアプローチをしています。和楽器というのはすごく“強い楽器”で、世界中の民族楽器や小楽器の中でもすごく“味が強く”出てしまう。不思議なもので、一発鳴らしただけでも和を彷彿とさせてしまう力が強すぎて、今回のように「完全な和風にはしないでほしい」というオーダーに応えるために、和のテイストをどう抑えて出すかは難しい課題でした。
──とはいえ、まったく和楽器を使っていないわけでもないですよね。
はい。和楽器を使う場合はできるだけ和楽器の奏法を使わない、逆に和楽器以外の楽器で和楽器の奏法を使う、といったアプローチでバランスを取っています。ストーリー的に日本のような要素はあるけど、過去の日本ではなくて、まったく新しい世界を描いているわけなので、そこに日本の音楽がそのまま乗ってしまうと違和感がある。そこは少し軸をズラさなきゃいけない、という暗黙の了解みたいなものは開発中にありました。
カレーにドバッと砂糖を入れるような曲作り
──「トワと神樹の祈り子たち」のボス曲は、操作するキャラクター“祈り子”に合わせてBGMが変わるという仕組みになっています。個性豊かな祈り子たちに合わせて、各楽曲をどのように作り上げていきましたか?
一風変わった見た目の祈り子もいるので、どうバリエーションを付けるかは1つ大きな課題でした。ボス曲なので基本的には真面目でシリアスなものにしたいけど、このキャラクターの場合は少しコミカルなイメージを交えないとな、みたいな。戦いの深刻さと真逆な要素を混ぜるのはかなり実験的な試みだったので、「本当に大丈夫?」と思いながら作っていました。
──ゲームプレイで聴けた楽曲は一部ですが、祈り子の性格を反映させたようなBGMで楽しみながらプレイできました。
それを聞いてひと安心しました。カレーみたいにごはんが進むものを作るはずなのに、最初にドバッと砂糖を入れるような作業だったので不安だったんですよ(笑)。最終的な評価は実際にユーザーの皆さんにプレイしていただいてからなので、まだ油断はできませんが。
──「トワと神樹の祈り子たち」は物語の進行に合わせて里が発展していく、もっと言えば時代が進んでいくのも1つの特徴です。BGMも集落の発展とともにアレンジが施されています。
時の流れをどうBGMで表現するか、ですよね。発展していくにつれてにぎやかになっていくのが基本的なアプローチではありますが、ここが集落のBGMであることは忘れてはいけなくて。騒がしくなりすぎない範囲でにぎやかな刺激を入れたアレンジを施しています。それと、雰囲気をガラッと変える一番簡単な方法は編成を変えたり楽器を変えたりすることなんですけど、それもあまりやらないようにしています。
──それはなぜですか?
BGMを大きく変えてしまうと、別の里に来てしまったんじゃないか、別の地域にたどり着いてしまったのではないか、という印象を持たれてしまうからですね。あくまでこのゲームは1つの里を舞台にした物語なので、里のBGMでは基本的なメロディや全体を取り巻く空気感には共通のものが感じられるように意識しています。
──崎元さんが手がけた楽曲の中で一番印象に残っている楽曲はどれですか?
こういうプロジェクトで一番時間をかけて作るのは間違いなくテーマ曲なので、トレイラーでも流れる「祈り子たち」ですね。そのゲームの世界を表すものですし、メロディであったりモチーフであったり、いろんなところでその曲の片鱗を使うことになる。認識されやすい印象が強いもので、かつ変形させても元の原型が残るものじゃなければいけないので、今回もテーマ曲に一番時間をかけました。「完全な和風ではない」という話をしましたけど、僕はこの作品にはそこはかとなく“日本人の心”が根底にはあると捉えていて。それを楽曲に落とし込むのにはすごく苦労しました。最初のうちはあまり面白い旋律を作れなくてすごく困っていたんですよ。
──その課題をどうブレイクスルーしたんでしょうか?
すごく細かい話ですが、自分が「こういうものを作りたい」と思いついてしまうと、ある程度縛られた旋律にしてその思いを形にしようとしてしまうんですよね。でもうまくいかないときはその制限が足枷のように働いてしまって、面白いものにならない。うまくいくときって、その制限すらも楽しめるんですよ。今回の場合、最初は足枷に感じていた制限を少しずつなだらかにしていき、そのうち最初に自分に課したルールを少し崩してみる、といった作業の繰り返しでなんとか目標を達成できた感覚です。かなり試行錯誤しました。
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体感速度がダイナミックに変わる体験