「しんぱい」は「恥ずかしいソング」

──「しんぱい」のアートワークの制作はどういうふうに始まったんですか？

たむらぱん　えーと、最初の打ち合わせのときは、私から楽曲のコンセプトを話すっていうのがメインだったんですけど……あの、今回の曲はホントにストレートで、私の中では「恥ずかしいソング」なんですよ。ホントに恥ずかしいくらいベタなんですけど、そういうものって世の中にとって大事なんじゃないかなって。そういう話をさせてもらいました。

吉田ユニ　そうですね。

──「しんぱい」は「大丈夫だよ 心配しないでね 体だけは大きくなったけど ありがとうの言葉」という歌詞で始まります。たむらさんの言う「恥ずかしいソング」をこのタイミングでシングルにしようと思ったのはどうして？

たむらぱん　この曲を作ってたのは1年以上前で、特に大きな理由があってこういう歌詞を書いたわけでもないんです。当時から「こんなことを歌うのは恥ずかしい。感謝にあふれすぎてるし」っていう感じだったし。まあいろんなタイミングが重なってシングルとしてリリースすることになったんですけど、やっぱり大きい出来事があったから「（震災を）意識したんですか？」って訊かれることは多いですよね。

──なるほど。

たむらぱん　世の中の出来事によって作品の意味が浅くなったり深くなったりするのは、しょうがないかなとも思っていて。ただ、この曲だったら世の中の雰囲気によって意味深になったとしても、それが悪い方向には行かないんじゃないかなって。私なりのエンタテインメントをやっていく上で「不快感がない」っていうのはいつも考えていることで。そういう意味でも「しんぱい」はいいんじゃないかなって。そういう話は打ち合わせのときにもしてましたね。

生々しさがファンタジーになればいい

──ジャケットのアートワークにはやはりたむらぱんさんの思いも反映されてるんでしょうか？

吉田ユニ　そうですね。ジャケットでできることってなんだろう？ということも含めてアイデアを考えました。タイトルが「しんぱい」だから、深刻な感じに取られちゃうかもしれないって思ったんですよね。だからちょっとした「はずし感」というか、そういうものがあったほうがいいなって。

たむらぱん　そうそう。生々しさとかリアルな感じが、いい意味でファンタジーになればいいなっていう。

──シリアスなだけじゃなくて、クスッと笑える感じがあるっていう。まさにそういうジャケットですよね、これは。

たむらぱん　そうなんですよね。音よりも先にこっちを見る人もいると思うんですよ。そのときの印象もすごく大きいだろうし。バランスがいいなって思いますね。

吉田ユニ　バランスみたいなものはいつも考えてますね。自分が面白いと思ってないとダメだけど、それだけだと自己満足になってしまうので。いろんな人に伝わった上で、面白いって感じてもらえるっていう。今回の場合だと、まず「ストレートな気持ち」っていうのがあって、それをちょっと崩しながら表現するというところですよね。もちろん、たむらぱんさんらしさも残しつつ。

たむらぱん　だからプロなんですよ（笑）。ホントにね、「あー、ちょっと違うんだけどなあ」っていうところが一切なかったんです。ユニさんもそうかもしれないけど、いろんな仕事をしていく中で、「いいんだけど、ちょっと違う」ってことがあると思うんですよね。「間違ってないけど、正しくもないんだよな」とか。そういうのって、やっぱり後に残っちゃうんですよね。

──特にたむらぱんさんは、自分でイラストも描くし、デザインワークも手がけるタイプのアーティストですからね。

たむらぱん　今回は「なくてもいいけど、もうひと盛り」みたいな微妙なニュアンスも含めて、ユニさんとは安心してやりとりができましたね。

「このくらいでいいか」っていうのが全然なかった

──撮影の現場はどうでした？

たむらぱん　楽しかった、っていう記憶しかないですねえ。

吉田ユニ　そうですね。たむらぱんさんも、ずっとこのままの感じで（笑）。

たむらぱん　お菓子の話とかしてたような気がしますね。あ、そうだ、ひとつ思ったのは、ユニさんってこっちの話をとりあえず拾ってくれるんですよ。ほかの現場だったら流されるような話も、とりあえず受け止めてくれてちゃんと返してくれるというか。

──それはもしかして「アーティストが言ってることだし、流すわけにもいかないなあ」という意識とか……。

吉田ユニ　いえ、そういうことではないです（笑）。

たむらぱん　きっといろんなことに敏感なんですよね。あと、こだわりもすごいんですよ。うちのマネージャーがひっくり返るような提案を何度もしてくれて、深夜までいっぱい話し合いとかもして。「じゃあ、このくらいでいいか」っていうのが全然なくて。

吉田ユニ　やるからには、とことんっていう。

たむらぱん　それが大変じゃなくて楽しいんですよね。お互いに仕掛けあってる、みたいな感じで。