ナタリー PowerPush - 凛として時雨
TK、345、ピエール中野が語る4thアルバム「still a Sigure virgin?」
前作「just A moment」発表から約1年間にわたり、計3回のワンマンツアーと初のイギリスツアーを行ってきた凛として時雨。だがそこに特別な句読点は存在せず、4thアルバム「still a Sigure virgin?」も自然な成り行きの先に生まれることとなる。
意図や計画が存在しない作品誕生のプロセスは、瞬間瞬間の意味することに敏感な凛として時雨ならではのものと言えよう。そして、言葉になりきらない感情を音像に託し、文脈になりきらない言葉を歌に託す──激情の瞬間から生まれる音楽は、「真の瞬間を写す」という意味で、曲作りからミックスまで手がけるTKのもう1つのライフワークである写真にも似ている。
取材・文/安部薫
大きな空間をライブハウスと同じ使い方で
──前作「just A moment」(2009年)発表後に「last A moment」「Tornado Z」「I was music」と、計3回のツアーを行いましたが、それらを通して作品に対して何かしらの決着をつける感覚はありましたか?
TK(Vo,G) 僕の中で「ライブと音源は別」という意識は変わってないので、そういう感覚はありませんでした。「1枚のアルバムに対して何回ツアーをやる」という普通の回数がわからないんですけど、イベンターさんとかからは「時雨はかなり多いほう」と聞くんですよ。「1枚アルバムを出してから3回ツアーをするバンドはあまりいない」と言われて……たまたま3回目のツアーが終わったときに(今回の)アルバム発売という流れになったんですけど、「I was music」ツアーがアルバム前の最後になるというのは、ツアーを企画した段階ではわかっていなかったので、もしアルバムが完成していなかったら、何の違和感もなく4回目のツアーに入っていたかもしれません(笑)。
──「I was music」ツアーのファイナルとなった4月のさいたまスーパーアリーナ公演は、ライブハウスと同じような近い距離感で3人がプレイしながら、ライティングなどにはアリーナらしいスケール感がうかがえたのですが、プレイしている側の意識にスペシャル感みたいなものはあったのですか?
TK 時雨らしいセットとか、スタッフの意見なども参考にいろいろ考えたんですけど、議論が1周したところで「何もないほうがいいんじゃないか」という結論に達したんです。まずどうしたいも何も、ステージの規模もわからなかったので宙に浮いてる感じで(笑)。逆にそこから削ぎ落としていって、結果的に求めていたステージになったというか、「あの大きな空間を時雨らしい使い方ができたかな」という実感と同時に、「想像していなかった景色が見えた」という手応えも残りました。やってみて「ああ、こういうことだったのか」というのがすごく多かったライブでしたね。
ロンドンのライブはゼロからスタートする感覚
──5月には初の海外公演となるイギリスでのツアーを経験したわけですが、さいたまスーパーアリーナ公演とは対照的にある意味アウェイな場所で、ほとんどが初めて時雨を観に来る人たちに向けてのライブは新鮮だったのではないでしょうか。
TK そうですね。箱もすごく小さなところから、それなりに大きいと思えるところでもやりました。最初にやったときは人があまりいなかったんですけど、気持ちとしてはゼロからスタートする感覚で行っていたので、逆に欲しかった感覚というか、初日から人がないところへ音をぶつけて演奏中に人が増えていく感じはすごく新鮮でした。
ピエール中野(Dr) プレイしているときの感覚は日本で時雨をやり始めた頃と似ていましたね。反応も同じで、日本と変わらない。演奏とか音楽とかしっかりしていれば、きちんと返ってくる感じで、それはどの会場でも感じましたね。プレイ自体も(最近のライブとは)変わった感じになりましたし。ウェルカムな状態で叩くのと、アウェイの状態で叩くときって、気持ちも違いますし、それがプレイに出るんですよ。イギリスでは自分の中と外とのバランスがすごく良くて、結果いいプレイになったと思うんですけど、それをこれからのライブで出せれば面白いプレイになるのかなと、今日(ライブのリハーサルを)やっていて思いましたね。またいいライブをすると、対バンの人から声をかけられるんですよ。それも日本と一緒です。その意味で、しっかりとやれば広めることができることを再認識しました。
CD収録曲
- I was music
- シークレットG
- シャンディ
- this is is this?
- a symmetry
- eF
- Can you kill a secret?
- replica
- illusion is mine
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vo,G)、345(Vo,B)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めている。