楽曲を具現化するときの変わらない部分、新しい部分

──そのイギリスで感じたことも反映されたという4thアルバム「still a Sigure virgin?」ですが、曲が形になっていく過程で、ある程度完成したものをバンドに持ち込む、もしくはヒントとなるようなものから積み上げていく、のどちらに重きが置かれたのでしょうか。

TK　セッションをしながら作ったのは（今回は）たぶん2曲ぐらい……かな？ 僕の中ではスタジオで作った曲は、自分たちの手の中や頭の中にあるものでしか構成されなくなってしまう気がして。そうしたいときはセッションで作るし、そうじゃないときは完成したものを持っていきますね。外から見たらそんなに違いはないかもしれないんですけど（笑）作り方もそのときの思いつきで変わったりするので。だから、（アルバムは）僕が家で作ってきた曲とセッションで作った曲が混在している形になっています。もともと時雨として曲を作り始めたときからそうなんですけど、多少ドラムとかが打ち込みで入っていて、僕がそこに歌をつけていって、それを3人で具現化するというスタイルは今も変わっていませんね。

──3人で具現化する際、曲が形になるにつれ何らかの新しさを感じていたのでしょうか？

ピエール中野　それは毎回のことで、新しい感じはありますよ。「これ叩けってか（笑）」というのが余裕でありましたから。

──中野さんのTwitterで「叩けなかったフレーズが叩けるようになった」と記されていましたが？

ピエール中野　実は叩けなかったところを、フレーズを変えて叩けるようになったというのが真相なんです（笑）。（TKが）普通に「変えていい」と言ってくれたので、変えたものをまた練習して叩けるようになりました。1曲だけですけどね。

TK　「illusion is mine」だね。

ピエール中野　それがまたいい方向に向かっていくことがこのバンドではよくあるので、今は結果的に良かったと思っています。

──345さんの中でトライした部分は？

TK　歌が難しくなったかもね（笑）。

345（Vo,B）　ベースはベースでトライする部分がありつつ、その後の歌録りのときに現場でメロディと歌詞を伝えられるので、（1曲が）全部できたときに「あれを弾きながらこれを歌うの？」というのが結構ありましたね。

TK　超絶バンドへの道みたいに（笑）。

345　なので（ライブに向けて）これからトライすべきことがたくさんある感じです。

ピエール中野　それは俺も同じ感じで（笑）。

──今回は中野さんのギターデビュー作でもあるとのことですが。

TK　「eF」という曲で。中野君はもともとギタリストなんですよ。

ピエール中野　そうです。15年ぶりぐらいで（笑）。

TK　（レコーディング中は）中野君があまりにも動かなかったので、その様子をコントロールブースから見ていたみんなの中で「あれ、写真なんじゃないか」という話になっていました（笑）。

ピエール中野　本当に手が震えて、最後の最後のチョーキングでミスってしまったり、大変でした。本当、ライブに向けてしっかり練習しておかないと。

──ドラムレスな分、ギターの音が明確に出てくるわけですが。

TK　僕は12弦ギターなんですけど、誰よりも中野君の音を前面に出しましたよ。ちなみに彼のギターだけ2本重ねました（笑）。

弾き語り状態の曲に3人が向かっていく感覚

──デモの段階で中野さんが弾いているイメージはあったのですか？

TK　全然なかったです（笑）。デモの段階では1人の弾き語りだったので。そのときちょうどエディットが多い曲を結構やっていて、「曲の本質はどこにあるんだろう？」という気になっていたんです。で、「いろんなものを削ぎ落として弾いて歌ってみたものが人にどれだけ響くのか」と、僕が1人の弾き語り状態で歌ったものを持っていったら、みんなが「いいね」と言ってくれて、そこから「じゃあ3人でどうやろうか」という話になっていった感じです。だから345がベースで、中野君がギターというのも考えていなくて、一度ドラムを入れたこともあったんですけどハマりませんでした。そもそも1人の段階で完成していたので「それでいいんじゃないか」という意見もあったんですけど、僕の中で「1人」っていうのはピンと来なくて……。だからドラムが入っていないにしろ、彼が何もしない曲を出すのはしっくりと来なかったんです。聴いている側からしても、345と中野君が出している音を耳で聴くことで初めて「凛として時雨」として鳴るんじゃないかなと思っていて。またそれで曲の聴こえ方も、歌詞の聴こえ方も絶対変わってくると思うので。今は1人でやった弾き語りとは違うニュアンスのものができたと思っています。実際、3人がそこに向かっている感じがしていて良くなったなと思いますね。