ナタリー PowerPush - 凛として時雨

TK、345、ピエール中野が語る4thアルバム「still a Sigure virgin?」

神懸かり的な楽器のチョイス

──前作でも12弦ギターは使用されていましたよね。

TK 「Tremolo+A」のときに借りたんですけど「すごく好きな音が出るな」と思って、買っちゃいました。クラシックギターも。だから今は同じようなものが3本あります(笑)。

──今回はその要素が増えているように思えたのですが。

TK そうですね。(12弦やクラシックギターのフレーズは)いろいろと挟んでいます。あと曲を作るときに手の届くところにあるものを使うクセがあって、たまたまそうなったということがよくあるんですよ。神懸かった(楽器の)チョイスをすることもあるので(笑)。

345 ベースのラインもギターで作ったりしますよね。

歌詞は書くのでなく歌う作業

──音楽としての色彩に富んだアルバムの中でも、静と動の落差が大きい「this is is this?」は新しい時雨サウンドの引き出しを開いた感じですよね。

TK この曲は歌詞がすぐできて、歌詞もサウンドもデモ段階から一切変わらなかったんですよ。タイトルも含めすべての音に対していつもと違う意思みたいなものが入っている感じがしていて、だからこそ録り直すのがすごく難しかったですね。曲はできているのにデモを超えられないという状態が続いていて、何がいけないのかもわからない。で、いろいろとやってみて、やっと超えられた瞬間がやってきて、そのときはエンジニアとハイタッチでした(笑)。

──逆に歌詞が変わっていった曲は?

TK 「Can you kill a secret?」と「a symmetry」ですね。テイクごとに歌詞が違うんですよ。だから歌詞起こし(※時雨の場合、レコーディングで歌われたものをTKが聴き直しながら歌詞カード用の言葉を起こしていく)が本当に大変で。例えばこっちでこう言っているのに、こっちでこう言っているとか(笑)。僕と345とで同時に歌っているのに歌詞が違うところも結構ありますし、脈絡よりも感覚的に選ぶことが結構多かったです。だから歌詞カード作るのって難しい……。

──歌っている瞬間だけが真実ぐらいの気持ちで?

TK いいこと言いますね(笑)。ライブも結構(歌詞が)違いますし、普通に忘れることも多いです(笑)。レコーディングのときもテイクごとに違うものを後で書き下ろす感じですから。結構、僕はそのときに何を歌おうとしてたのか自分でもわからないときがあるので。

──TKさんにとっての瞬間瞬間が焼き付けられているという意味では、写真にも通じる感覚で?

TK そうですね。レコーディング中に歌詞が変わっていくのは345に対しても一緒で「こっちに変えてほしい」と、瞬間瞬間で変えていきます。そのときに何を意図したかは後ではっきりとわからないんですけど……だからレコーディングのときに歌詞カードがあること自体、あまりないですね。

──例えば、歌詞の中にたびたび表れる紫などの色彩が、TKさんの瞬間瞬間に感じるものとつながっていたりするのですか?

TK 僕の場合、歌詞を書く作業というのが歌う作業になっているので。紙に言葉を書いて、それを構築する感じではないので、色彩感覚とかが明確に見えているのかというのさえわからないんです。ただ、メロディを作ったときに歌った言葉が、どうしても他の言葉に置き換えられないことがあって、文脈が多少おかしい……いやおかしいことが多いんですけど(笑)、それでもその言葉を使うことが多いですね。

──紙に書かれる以前の、歌われる言葉こそがTKさんの中では最も重要であると。

TK 言葉も楽器という感覚が、もしかしたら強いのかもしれませんね。

ニューアルバム「still a Sigure virgin?」 / 2010年9月22日発売 / 2800円(税込) / Sony Music Associated Records / AICL-2174

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CD収録曲
  1. I was music
  2. シークレットG 
  3. シャンディ
  4. this is is this?
  5. a symmetry
  6. eF
  7. Can you kill a secret?
  8. replica
  9. illusion is mine
凛として時雨(りんとしてしぐれ)

TK(Vo,G)、345(Vo,B)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めている。