ナタリー PowerPush - TVアニメ「ピンポン」

湯浅政明監督×牛尾憲輔 “劇伴作家 牛尾憲輔”の誕生

4月よりフジテレビ木曜深夜のノイタミナ枠でオンエアされているテレビアニメ「ピンポン」。言わずと知れた松本大洋のベストセラーマンガを原作に持つこのアニメーションの監督を務めるのは「マインド・ゲーム」「四畳半神話体系」などで知られる湯浅政明、そしてサウンドトラックを手がけているのはagraphこと牛尾憲輔だ。

今回ナタリーでは「ピンポン」放送開始を記念して湯浅と牛尾の両名を直撃。アニメ作品全編の音楽を制作するのは初めてと語る牛尾に湯浅が白羽の矢を立てた理由から、2つの才能は超ビッグタイトル「ピンポン」をどのように料理したのか。話を聞いた。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 小坂茂雄

 
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牛尾憲輔サウンドの“深さ”

左から湯浅政明、牛尾憲輔。

──今回、アニメ「ピンポン」を制作するにあたって、音楽担当に牛尾さんを起用した理由は?

湯浅政明 言ってしまえば運がよかったからなんだと思います。

──「運がよかった」?

湯浅 これは「ピンポン」に限らずなんですけど、作曲家さんって必ずしも僕が指名しているわけじゃないんですよ。僕ももちろん音楽は聴くんだけど、その曲を作ってる人の名前をあんまり把握してないので。だから例えば「マインド・ゲーム」や「夢みるキカイ」のときにはご一緒した渡辺信一郎さんから「この人どう?」って勧められて山本精一さんや竹村延和さんに音楽を作っていただいていて。たいていそういう選び方をしてるんです。「Kick-Heart」のときのオオルタイチさんも、ある人を介して紹介していただいてお願いした感じでしたから。で「ピンポン」の場合は、実写映画もすごく人気があったし「じゃあそういうタイトルの音楽にはどんな曲がふさわしいんだ?」ってプロデューサーと考えあぐねまして。探しに探した結果、牛尾さんの音にたどり着いた感じなんです(笑)。

牛尾憲輔 最初にお話があったときはまだ本決まりの段階じゃなかったんで、実はまあ通らないだろうなって思ってました(笑)。ビッグタイトルだし、実写映画版の劇伴もすごく人気があったし、とにかく栄えあるタイトルだから、まさかその音楽を自分ができるとは思ってなくて。マネージャーから「『ピンポン』の音楽の話が」って言われてたときは話半分以下ぐらいで聞いてました。「またまたー」って(笑)。

湯浅 聴いてすぐに「いいな」って思いましたけどね。選んだ理由はそれだけといえばそれだけなんです。僕は音楽に詳しいわけじゃないから専門用語なんかはわからないんだけど、なんていうか、音が深い感じがしたんですよ。同じ打ち込み音楽であっても、いわゆる打ち込みって言われるものよりもクオリティも志も高い。なんか卓越した人なんだろうって感じがしたので「この人がやってくれたらいいな」ってことでお願いさせてもらいました。

アニメ「ピンポン」第1話のワンシーン。

──牛尾さんは選ばれた理由を自己分析できたりします?

牛尾 監督のおっしゃる通りのような気はしています。僕がソロ名義でやってることはダンスミュージックではない電子音楽。ひとりぼっちで作ってひとりぼっちで聴くような音楽だから(笑)、そこに一般的な電子音楽とは違う、監督の言う深さみたいなものを感じていただけたのかなあって。

湯浅 そのひとりぼっちで聴くための曲って自分で聴いていても気持ちいいものですか? 僕はもちろん聴いていて気持ちいいんですけど。

牛尾 気持ちいいですね。最終的にはもちろん、皆さんにお金を出して買っていただけるような音楽に仕上げなきゃいけないんですけど、自分のためのお散歩サントラを作ってる気持ちは多分にあるので(笑)。

普段とは違う形で違う人々に音楽が届く喜び

──その“お散歩サントラ”が「ピンポン」という作品を通じて、いわゆる音楽ファン以外の層、湯浅監督やアニメ視聴者に届くことについて思うところは?

牛尾憲輔

牛尾 音楽って発表しちゃうと自分だけのものではなくなると思ってるので、普段から「自分の曲はこう聴け!」みたいな感覚はあまりないんですよ。特に劇伴の場合は、監督やスタッフの方がその映像作品に似合うように僕の曲を編集してくれるので、観る方の中にも僕の曲をそのまま聴くのとはまた別の感覚が生まれるはずですし。だから自分の曲がいろんな人に聴かれること以上に、多くのアニメスタッフの手を介することで、普段とはまた別の形で自分の音楽が広がってくれることのほうがうれしかったりはしています。好きなことはソロでやればいいわけですし。

湯浅 映像も一緒で、観られてなんぼというか、観られて完成する気はしますね。観てもらって、その人の頭の中に残ってもらって初めて形になるっていう感覚はあります。で、牛尾さんはその劇伴作家的な仕事に対してすごく積極的なんですよ。「こんな曲作ってみたんですけど」「こういうふうにやってみたんですけどどうでしょうか」「この前の曲、テンポを変えて別のシーンでも使えるようにしました」ってすごい勢いで曲を持ってきてくれて。

牛尾 アニメ大好きですから(笑)。劇伴を作れることがすごくうれしくなっちゃって、つい……。

──あはははは(笑)。

湯浅 ただもらった曲をそのまま使うわけではないから「第1話のダビングに立ち会いたい」って言われたときには「何か言われるんじゃないか」と思ってビクビクしてたんですけどね。でも全部の作業が終わったとき牛尾さんが言ったことはダメ出しじゃなくて「こんな曲のアイデアもあるんですけど、必要だったりします?」(笑)。

牛尾 で、2曲作って昨日納品するという(笑)。

湯浅 「あっ、こんな作曲家さんもいるんだ」ってビックリしました。

TVアニメ「ピンポン」

4月10日より毎週木曜24:50~
フジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送中

そのほかの放送局・時間については公式サイト

TVアニメ「ピンポン」

キャスト
  • ペコ/星野裕:片山福十郎
  • スマイル/月本誠:内山昂輝
  • ドラゴン/風間竜一:咲野俊介
  • アクマ/佐久間学:木村昴
  • チャイナ/孔文革(コン・ウエンガ):文曄星
  • オババ:野沢雅子
  • 小泉丈:屋良有作 ほか
スタッフ
  • 原作:松本大洋(小学館 ビッグスピリッツコミックス刊)
  • 監督:湯浅政明
  • キャラクターデザイン:伊東伸高
  • 音楽:牛尾憲輔
  • 色彩設計:辻田邦夫
  • 美術監督:Aymeric Kevin
  • 撮影監督:中村俊介
  • 編集:木村佳史子
  • 音響監督:木村絵理子
  • 制作:タツノコプロ
  • オープニング・テーマ:爆弾ジョニー「唯一人」 (キューンミュージック)
  • エンディング・テーマ:メレンゲ「僕らについて」(キューンミュージック)
雑誌「SWITCH 2014年5月号」/ 2014年4月20日発売 / 837円 / スイッチパブリッシング
特集・HEROES ヒーローを待ちながら

巻頭20Pで「ピンポン」特集を敢行。表紙&特別付録のオリジナルステッカーは、松本大洋描き下ろしのペコ&スマイル! 特集には松本大洋+湯浅政明監督の対談別バージョンをはじめ、アニメ版の詳細メイキング8ページ、ピンポン名言集を収録。またアニメ版音楽を担当した牛尾憲輔と、かつて実写版で主題歌を担当した元スーパーカーの中村弘二の対談など盛りだくさんの内容だ。
なおSWITCHオンラインストアで購入すると、表紙と同じ描き下ろしのポスターが付く。

agraph(あぐらふ)
agraph

牛尾憲輔のソロユニット。2003年よりテクニカル・エンジニアとして石野卓球、電気グルーヴ、RYUKYUDISKO、DISCO TWINSの音源制作やライブをサポート。2007年に石野卓球主宰レーベル・platikから発表されたコンピレーションアルバム「GATHERING TRAXX VOL.1」にkensuke ushio名義で参加し、2008年にはagraph名義として初のソロアルバム「a day, phases」を、2011年には2ndアルバム「equal」をリリースする。その一方でナカコー、フルカワミキ、田渕ひさ子とともにLAMAを、ミト(クラムボン)とアニソンDJユニット2 ANIMEny DJsを始動させたほか、CMやアニメ作品などに楽曲を提供するなど多方面で活躍。2014年4月には「ピンポン THE ANIMATION」のサウンドトラックも手がけている。

湯浅政明(ゆあさまさあき)

1965年福岡県生まれ。大学卒業後、亜細亜堂に参加。その後、フリーランスとなり「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」などを手がける。2004年、映画「マインド・ゲーム」で初監督を務め、第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第59回毎日映画コンクール大藤信郎賞などを受賞。2010年に監督を務めたTVアニメ「四畳半神話大系」でも文化庁メディア芸術祭大賞アニメーション部門大賞を受賞した。