まらしぃ「marasy piano world 88」特集|アンパンマンからYOASOBIまで、老若男女を魅了する最新カバー集

まらしぃのピアノカバーアルバム「marasy piano world 88」が2月4日にリリースされる。カバー作品集「marasy piano world」シリーズの実に8年ぶりとなる最新作に収録されるのは、まらしぃにとって思い入れのある楽曲の数々。YOASOBI「夜に駆ける」「アイドル」、米津玄師「Lemon」、Mrs. GREEN APPLE「ライラック」といったヒットチャートをにぎわせた近年のポップソング、交流のある二宮和也(嵐)のソロ曲「メリークリスマス」、幼少期から親しんできた「アンパンマンのマーチ」など、老若男女が楽しめるラインナップだ。

聴き応え抜群の1枚を掘り下げるべく、音楽ナタリーはまらしぃにインタビュー。「FUJI ROCK FESTIVAL」初出演、ikura(YOASOBI)こと幾田りらとの「THE FIRST TAKE」共演などトピックの多かった2025年を振り返ってもらいつつ、「marasy piano world 88」を通して見えるピアニスト・まらしぃの“現在地”を探った。

取材・文 / 倉嶌孝彦

想像の500倍盛り上がった初フジロック

──昨年はまらしぃさんの「FUJI ROCK FESTIVAL(フジロック)」出演のニュースに驚きました(参照:「フジロック」に山下達郎、RADWIMPS、Suchmos、Creepy Nuts、TOMOO、まらしぃら)。見出しの並びもびっくりですけど。

僕自身も驚きの出来事でした(笑)。オファーをいただいたとき、僕も最初は何を言われているのかわからなかったんですよ。「フジロックって、あのフジロックのことですよね?」と聞き返してみたら、やっぱり苗場の「FUJI ROCK FESTIVAL」のことみたいで。めちゃくちゃびっくりしました。

──これまでいろんなイベントにも出演してきたまらしぃさんですが、基本的にはネットカルチャーに根ざしたイベントが多いので、フジロックはかなり“アウェイの現場”だなとも思いました。

そうだと思います。フジロックは日本の音楽フェスの中でも耳の肥えた人たちが集まるイメージを持っていたので、そこに自分が行ってどんな反応がもらえるのか、あるいは全然反応がもらえないのか、最初はイメージが湧かなくて。ある意味シビアな場所だろうから、出演すべきか迷いましたし、ステージに立つと決めたあとも心配はありました。

──迷いながらも出演を決めた理由は?

ピアニストとしてフジロックのステージに立たせてもらうなんて、一生に一度あるかないかのことだろうと。最初は「フジロックに来る人たちは、どういう曲が好きなんだろう」と考えて寄せにいこうとしていましたが、途中からそれもなんか違うよなと思うようになって。普段の自分のライブとかパフォーマンスを知って声をかけていただいたのだろうから、普段の自分らしく行こうと決めて本番に臨みました。

まらしぃ(撮影:Lestat C&M Project)

まらしぃ(撮影:Lestat C&M Project)

──実際にステージに立ってみてどうでしたか?

想像の500倍くらい盛り上がっていただいて、すごく気持ちよかったです。特に印象的だったのが「ネイティブフェイス」を弾いたとき。僕がまらしぃとして初めて弾いた曲なので、「きっと元ネタの同人ゲーム(『東方Project』シリーズ)のことなんて誰も知らないだろうな」と思いながら弾いてみたら、あの場にいたみんなが「東方」のことを知っていたんじゃないかというくらい盛り上がってくれて。あの日僕が弾いた曲の中で一番反応がよかった。SNSには「『東方』の曲がフジロックで聴ける時代が来るなんて」みたいな投稿もあって。

──想像以上に自分の好きなカルチャーが浸透していることに気付かされたわけですね。

はい。ひと昔前まではゲーム音楽やネットで流行している曲ってサブカルチャー的な要素が強いものでしたが、ここ5年くらいでインターネット出身のアーティストがメインストリームで活躍する時代になって。今ではTikTokのような場所で流行が生まれているわけですよね。自分たちの好きなカルチャーがアンダーグラウンドにある、みたいな認識は僕が勝手に抱いていた幻想なのかもしれないと思わされました。それくらい、あの場は盛り上がったので、イチ東方ファンとしてすごく幸せな瞬間でした。

──フジロックでは兜を被ってステージに立っていましたが、あの兜の衣装はどういう経緯で身に付けることに?

フジロックの1週間前に、ロンドンで開催された「HYPER JAPAN Festival」というイベントに呼んでいただきまして、そのときに何か日本らしい被り物をしてステージに立とうと考えていたんですよ。そこで思いついたのが兜。前から兜はカッコいいと思ってたし、いい機会だからと被って演奏してみたら思いのほかしっくりきて。フジロックには配信もありましたから、撮られる前提でこういう被り物が1つあると便利だなと思い、最近は兜を被って人前に立つ機会も増えています(参照:まらしぃが大村秀章知事を表敬訪問、兜姿で「あいち県民の日」テーマソング演奏)。

「THE FIRST TAKE」はマジの一発撮り

──もう1つ、昨年末には幾田りらさんと「THE FIRST TAKE」に出演したことも話題になりました(参照:幾田りら×まらしぃが「THE FIRST TAKE」でコラボ、一発撮りで「恋風」パフォーマンス)。

「夜に駆ける」や「アイドル」は何度もピアノで弾かせてもらっていましたが、YOASOBIのお二人と直接コラボをしたことは一度もなくて。実際にお会いしたのも「MTV Video Music Awards Japan」のときにご挨拶したときくらいで、まさか「THE FIRST TAKE」のような晴れの舞台に呼んでいただけるとは思っていなかったので驚きました。

──かねてからコラボをしている相手というわけではなく、「THE FIRST TAKE」の収録が幾田さんと息を合わせる最初の機会だったわけですよね?

はい。幾田さんの歌声って、本当に“口からCD音源”という感じで完璧なんですよ。だからこの収録がうまくいくかどうかは僕次第だ、と思い……。

──まらしぃさんが日頃行っているライブもやり直しのきかない緊張感があるものだと思いますが、「THE FIRST TAKE」の収録にはまた違った緊張感があるわけですね。

「THE FIRST TAKE」は日本の音楽コンテンツの中でも特別な意味を持っていますし、この動画で僕のことを初めて見る人や「ひさびさに名前を見る」という人もいるはずなので、「ピアノのせいで台無しになった」と思われちゃいけないプレッシャーがありました。

──噂通り、本当に一発撮りでしたか?

本当にマジの一発撮りでした。なので、めちゃくちゃ緊張しました。別に悪いことをしているわけではありませんが、この日は日頃の行いを悔いて、祈る思いでピアノを弾きました。

アンダーグラウンドだったものがメジャーに

──ニューアルバム「marasy piano world 88」は、まらしぃさんがこれまで発表してきたカバー作品集「marasy piano world」の最新作となります。今回はどんなことを考えながら収録曲を選びましたか?

コンセプト自体は2014年リリースの「marasy piano world」、2018年リリースの「marasy piano world X」と変わりませんね。普段の配信や動画投稿を通して思い入れの強い曲、もう一度弾きたい曲を選ぶ、というコンセプトです。今回の「88」ならではの要素として言えるのは、CMソングやゲームの楽曲で、僕がピアノ演奏で参加させてもらった曲をピアノアレンジして弾いているところですね。

──J-POPの楽曲はもちろん、ボカロやアニソン、ゲーム音楽、クラシックまで入っているという選曲の軸は過去の作品と変わらない中、今作を聴いてJ-POPの定義がすごく変わったなと感じました。「夜に駆ける」「アイドル」「Lemon」といったネット出身のアーティストによる楽曲がJ-POPとして広く聴かれているわけですから。

それは僕も感じました。昔だったら「この曲はアニソンで、この曲はJ-POPかな」みたいな住み分けがあったような気がするけど、今やアニソンがJ-POPのど真ん中として世の中に広まっている。フジロックでの「東方」の話にも通じますが、アンダーグラウンドだったものがいつの間にかそうではなくなっている感覚はすごくありますね。