ナタリー PowerPush - キリンジ

堀込兄弟 17年目の転機

キリンジ通算10枚目のフルアルバム「Ten」は、堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の「兄弟バンドとしてのキリンジ」にとって最後のアルバムとなった。アルバム発売に前後して行われている全国ツアー「KIRINJI TOUR 2013」を最後に、弟の泰行がグループを脱退。今後は高樹がキリンジを継承し、泰行はソロとして活動する。

兄弟最後のインタビューとなる今回は、シンプルに研ぎ澄まされたサウンドが印象的な新作「Ten」の制作エピソードをじっくり語ってもらいつつ、2人の今後の活動についても話を聞いた。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類

 
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コンパクトで小気味のいいアルバムに

──ここ最近はだいたい2年に1枚ぐらいのアルバム制作ペースだったキリンジが、ここにきて過去最速のブランク4カ月半という事態にまず驚きました。そもそも前作「SUPER VIEW」と今回の「Ten」の制作は同時進行だったんですか? それとも別々に?

左から堀込高樹(G, Vo)、堀込泰行(Vo, G)。

堀込泰行(Vo, G) 作業は別々ですね。とはいえ2枚出すことは決まっていたので、「SUPER VIEW」の制作と同時進行で「Ten」用の曲を書き溜めなきゃいけないというのはあって。

──そうすると、アルバムごとの色分けはどのように?

堀込高樹(G, Vo) 「SUPER VIEW」は普通のアルバムを作ろうと思ってたんで……。

──普通のアルバム(笑)。

高樹 それなりにスケール感があったり、手の込んだ曲が多いですけど、そのあとすぐ出すアルバムが同じようなテイストだと違うよなと思って。「Ten」は比較的コンパクトで小気味のいいアルバムにしたいよね、みたいな話をしてたのかな。あと、いつもだったらアルバムを作るときはまず先行シングル曲になるものが先にあるんですけど、今回はそういう曲がないんですよ。

──タイトルも通算10枚目のアルバム、10曲入りで「Ten」という、非常にシンプルなネーミングで。サウンド面も含めて全体的に“普通のアルバム”とは違う肌触りの、もっと素朴でネイキッドな感じというか。

泰行 確かにいつもの我々からしたら、シンプルかもしれないですね。比較的こう、ざっくりしているというか。バンドで一緒に音を出してたりもするから、あんまり縦にキチキチと合わせてくみたいなのは考えなかったですね。

──ではレコーディングの方法自体も、いつもとは違う感じだったんでしょうか。

泰行 今回はまず制作期間が短いから、2人ともいつものようにコンピュータでデモを作り込んだり、シンセの音色を吟味したりすることが状況的に難しいというのがまずあって。それで、音はできるだけ生で録って、それらを混ぜることで音像的な説得力を持たせようと。打ち込みで土台を作り込まずに極力生でやる、音数は少ないけれどフレーズはしっかりしてて……みたいなことは話してましたね。

──具体的に作り込んだアレンジをサポートメンバーに渡すのではなく、一緒に作り上げるような。

泰行 はい。僕が作った曲は、それがより顕著だったかもしれないですね。いつも以上にざっくりしたデモを聴かせて。いつもならもっと具体的なデモを聴いてもらって「ここをこう演奏してください」って伝えるんですけど、今回はとにかく雰囲気を伝えて、メンバーから出てくるアイデアに僕らも乗っかってみて。いつも完全に指示を出しているわけじゃないですけど、今回は僕のほうから「どうですかね」「これとこれなら、どっちがいい」と投げかける機会がいつもより多かったです。

──サポートは基本、最近のライブで一緒に演奏しているメンバーなんですよね。ライブで一緒だからこそやりやすい部分も?

泰行 うん、それはありましたね。昨年のレコ発ライブ直後にレコーディングに入ったというのもあって。

高樹 ライブ終わって1日置いてすぐ作業だったんですね。だからちょっと親密な感じがあって、それがいいほうに作用したなと思いますね。

──キリンジの歴史としては「記念すべき10枚目のアルバム」だし、2人で作る最後のアルバムということもあるし、重みのある記念碑的作品にもタイミング的にはなり得たと思うんですけど、いつも以上に肩の力が抜けたアルバムになっているのはある意味キリンジらしくて(笑)。

高樹 あんまりそういう感傷にひたるタイプじゃないですからね。

一般的なJ-POPでもオルタナでもない

──「SUPER VIEW」は60'sポップスを思わせるような、きらびやかで厚みのあるサウンドが印象的でしたけど、今作は1つひとつの音が際立って近くに聴こえるような、シンプルで生々しい響きが印象に残りました。お2人の中では全体的にどういうサウンドにしたいという狙いがあったんですか?

高樹 録音に関しては全体にどうという目標はなかったんですけど、今回は曲がどれも3分か、長くても4分ちょっとなんですよ。曲の成り立ち自体が比較的コンパクトだから、余計にシンプルに聞こえるんじゃないですかね。シングル曲だとそれなりに派手にしなきゃとか思うわけですよ。キラキラさせなきゃとか。今回はそういうことをあまり考えなくてよかったので、ドラム、ベース、あとはギター2本にキーボード、それでも成り立つようなアレンジにしたんです。1つひとつの音が聞こえやすいのは、そういったことが作用してるのかなと思います。

──音だけでなく、言葉のほうも極限まで切り落としたような印象があります。ワンセンテンスの破壊力がさらに増しているというか。

高樹 それも制作時間が短かったことが作用してるのかもしれない。普段だったらいくつかテーマを挙げて、2日ぐらいかけて考えたりするようなことも、今回は作曲と同時進行でやってたりして、ひとつ思い付いたらそれで最後まで行くしかなくて。“風呂”って浮かんだら、もう風呂の話で行くしかない(笑)。

──“風呂”をモチーフにした描写に表れるキリンジらしさ……そもそも風呂をモチーフにすること自体がキリンジらしさかもしれませんが(笑)、その“らしさ”がシンプルに伝わるアルバムだなと。そもそもその「キリンジらしさ」を、お2人はどう捉えてるんでしょうか。

高樹 あんまりよくわかんないんですよね。このアルバムも一応J-POPに属するものですけど、おそらく一般的なJ-POPとは感触が違いますよね。かと言ってものすごくオルタナティブな音楽というわけでもないし。ちゃんとメロディがあってハーモニーがあって、日本語の歌詞が乗っていて。でも「きもだめし」とか「ビリー」を聴くと、オルタナティブな感触もありますよね。そういういろんな境界があって、その境界の上でうろうろしている……ということかなと思うんですけどね。

──もっとわかりやすくオルタナティブなら「オルタナティブ」の棚で扱われると思うんですけど、そうじゃなくてあくまでポップフィールドの音楽として広く受け入れられているという、不思議な音楽だなと改めて感じます。

高樹 受け入れられてはいないんじゃないですかね。明らかにオルタナティブだったらオルタナティブが好きな人たちが受け入れるんだろうし、もっとJ-POP然としていたら、いわゆる一般的なポップス好きにも受け入れられますよね。そのどっちでもないわけだから。基本オルタナだけどキリンジだけは聴くみたいな人にもよく会いますけど。

泰行 んふふ(笑)。

高樹 そういうね、珍しい人しか聴いてないんじゃないかと思うんですよね。ミュージシャンでも「キリンジずっと聴いてます」って人にたまに会うけど、やってる音楽はぜんぜん違う(笑)。

──この実態がつかめない状態で17年やってきたという。17年って冷静に考えるとよっぽどな年月ですよね(笑)。

泰行 ちょっとねえ。長いよね。

高樹 とはいえ歌モノが中心ですからね。僕らがあるときはテクノ、あるときはラップみたいな感じだったらそれこそなんなのって感じだけど。メロディがあって歌詞があって、素直な歌い方をしているというフォルムは変わらないから。それがあるから普通に活動できているんだと思いますね。聴いてる人も、気に入ってくれる部分もそれぞれですけど、気に入ってくれているところだけを突き詰めていけば、もうちょっとスケールの大きな、J-POPの親玉になれるのかもしれない(笑)。

ニューアルバム「Ten」 / 2013年3月27日発売 / 日本コロムビア
「Ten」
「Ten」初回限定盤[CD+DVD] 3675円 / COZP-759~60
「Ten」通常盤[CD] 3150円 / COCP-37897
CD収録曲
  1. きもだめし
  2. ナイーヴな人々
  3. 夢見て眠りよ
  4. ビリー
  5. 仔狼のバラッド
  6. 黄金の舟
  7. 阿呆
  8. 手影絵
  9. dusty spring field
  10. あたらしい友だち(Album ver.)
初回限定盤DVD収録内容
  • キリンジTV the FINAL
  • 新曲ビデオクリップ

3月27日 iTunes配信開始

ニコニコ生放送「『ニコニコキリンジ。』~アルバム『Ten』発売記念特番~」

2013年3月27日(水)
第1部:キリンジ「アーカイブ一挙放送」11:00~20:00
第2部:KIRINJI TV増刊号「ゴメトーーク!」20:00~22:00(予定)

ニコニコ生放送「『ニコニコキリンジ。』~アルバム『Ten』発売記念特番~」

KIRINJI TOUR 2013
  • 2013年3月30日(土)愛知県 Zepp Nagoya
    OPEN 17:30 / START 18:00
  • 2013年4月5日(金)大阪府 Zepp Namba
    OPEN 18:00 / START 18:30
  • 2013年4月7日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
    OPEN 17:30 / START 18:0
  • 2013年4月11日(木)東京都 NHKホール
    OPEN 17:45 / START 18:30
  • 2013年4月12日(金)東京都 NHKホール
    OPEN 17:45 / START 18:30

※全公演SOLD OUT

キリンジ

キリンジ

1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で結成。1997年5月にインディーズデビュー盤「キリンジ」、同年11月にマキシシングル「冬のオルカ」がリリースされると、複雑ながらポップなサウンドと独自の詞世界で大きな注目を集めた。1998年にはシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー。2005年には弟の泰行が「馬の骨」としてソロデビューを果たし、同年11月には兄の高樹もソロアルバム「Home Ground」を発表した。それぞれ他のアーティストへの楽曲提供も多く手がけており、作詞家・作曲家としても支持を集める。2012年11月に通算9枚目のアルバム「SUPER VIEW」をリリース。2013年3月27日には10枚目のアルバム「Ten」を発表し、4月12日まで行われるツアー「KIRINJI TOUR 2013」を最後に泰行がグループを脱退する。