すずさんは描くことで感情を発散していた人
──時代考証が入念にされ、劇中では当時の出来事や街並みなどがリアルに描写されているそうですね。役作りをするにあたって、監督からほかにも当時のお話を聞きましたか?
はい。監督がその時代のことを調べ尽くしていたので、ここぞとばかりに話を聞いていろいろ引き出そうとしました!
──監督の話で印象的だったものはありますか?
一番びっくりしたのは、色が付けられた爆弾は、呉市だけに落とされていたということですね。あとは楠公飯や野草のごはんなどは実際に作られていたというお話も印象的でした。すみちゃんが入る、女性の挺身隊の描写についてもけっこう教えていただきました。すずさんは、自分よりすみちゃんのほうができた人だと思っているのですが、美人で自分とは違うと思っているすみちゃんが挺身隊に入って、自分はお嫁に行っている。そのことに、すずさんは複雑な違和感を抱いているんだなと感じました。
──戦争の気配が近付くにつれて、物語のトーンが少しずつ変わっていきますが、すずさんの内面の変化をどのように捉えて演じていきましたか?
知らない人のお家に嫁いでがんばらなきゃと思う気持ちから始まって、周作さんのいいところや、彼が自分のことに気付いてくれているんだなっていうことがわかって、周作さんのことをどんどん好きになっていく。右手を失ってからとそれまでのすずさんだと、感情の出し方が違うというのを監督と話し合いながら解釈していきました。すずさんは、絵を描くことによって感情を発散していた人なので、描くことができなくなると発散する場所がなくなって、感情がどんどん表に出ていくんです。すずさんは、晴美さんを守れなかったという思いがあると思うんですけど、そのときはその場から逃げたいという気持ちがすごく強くなって「広島に帰る」って言ってみたり。
素敵な作品ができたという思いは皆さんと一緒だった
──ここで共演者の方についてのお話も伺えればと思います。細谷佳正さん、小野大輔さん、潘めぐみさんと豪華な面々が脇を固めています。のんさんは一番最後にアフレコに臨んだそうですね。実際に皆さんと同じ空間で収録を行うことはなくても、作品をご一緒されてみていかがでしたか?
刺激的でした! 声だけで演じるお仕事だったということもありますが、すでに入っているセリフに対して自分が応えられるというのがありがたかったです。周作さん役の細谷さんは誰の声も入っていない状態でアフレコに入って、キャスティングもわからずに演じてらっしゃったそうなんです。
──そうなんですか!
すずさんの声の主が誰かもわからなかったと聞いて「そんなに大変な作業をされたのか!」と驚きました。そんなことを感じさせないくらい自然で素敵な周作さんでしたし、私も周作さんの声に乗っかってすずさんを演じられたのですごく助けられました。
──では、共演者の方々と実際に顔を合わせたのは、作品の完成後ですか?
関係者試写会のときに、皆さんとお会いする機会がありました。そのときにすみちゃん役の潘めぐみさんが「お姉ちゃん!」とおっしゃってくださって感激しました! 径子さん役の尾身美詞さんについては、監督から「径子さんとはまったく違う雰囲気の方なんですけど、声を当ててみたらすごくよかったんですよ」と伺っていたんです。実際は穏やかで素敵な方だったので、径子さんと全然違うー!という楽しみがありましたね。そのあとに打ち上げパーティがあって、そこで細谷さんにも初めてお会いしました。
──皆さんと楽しそうにしている写真をブログにアップしていましたね(参照:集合! : のん 公式ブログ)。
作品への思い入れがある方ばかりなので本当に楽しかったです! 私は話し下手で人見知りをするほうなんですけど、素敵な作品ができたという思いは皆さんと一緒だったのかなという感じで、一瞬で打ち解けられました。細谷さんはすごくフランクにお話してくださるし「すずさんの声とても素晴らしかったです!」と褒めてくださってうれしかったです。
径子さんにお尻をどかしてもらうシーンが好き
──本作は最初は守られる存在だったすずさんが、次第に子供から大人へと成長していく物語とも言えますが、このキャラクターを演じ終えて、俳優として成長したと感じたことや、新たに得たものがあればお聞かせください。
セリフ回しで表現するというやり方は、実はあまり得意ではなかったんです。実写作品は体を動かしたり自分の間を使って演技ができるので、五感が動いていれば伝わる部分があります。でも、この作品に出演して、セリフを音で捉えて演技をしていくことの楽しさがわかった気がします。
──国内外の映画賞受賞、動員数200万人突破などおめでたいこと続きです。劇場公開前には、これほどまでに反響があると想像していましたか。
すごい作品ができた!という手応えはありましたが、こんなにロングラン上映されてたくさんの方に観ていただけるとは……。いくつもの賞をいただけているのでうれしいです!
──日本を飛び出してメキシコでも舞台挨拶に登壇されてましたね(参照:片渕須直&のんが「この世界の片隅に」引っさげメキシコに登場)。のんさんはイベントにたくさん参加されましたが、お客さんからのこんな反応がうれしかったという思い出はありますか?
メキシコでは、「普通の暮らしがこんなに幸せなんだというのを伝えてくれる作品」という感想をいただきました。日本での反応と同じだったので、これはやっぱり世界に発信できる映画なんだ!と感じました。
──国を問わず伝わるメッセージがある作品だということですね。ソフトではこの作品を何度も繰り返し楽しめますが、のんさんが個人的に好きな場面やオススメしたいシーンは?
「広島に帰る」と言ったすずさんが、お家のお掃除をしているときに、その場にいた径子さんにお尻をどかしてもらうシーンが好きです! それまでの径子さんだったらほかのところを先にやりなさい!と怒るんじゃないかなと思いきや、普通にどいてくれる。径子さんはすずさんが帰っちゃうのが寂しいのかなと感じられて面白いです。
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コメディタッチのアクションヒーローをやりたい
- 「この世界の片隅に」
- 2017年9月15日(金)発売 / バンダイビジュアル
-
特装限定版
[Blu-ray Disc 2枚組]
10584円 / BCXA-1287 -
通常版 [Blu-ray Disc]
5184円 / BCXA-1286 -
通常版 [DVD]
4104円 / BCBA-4858
ストーリー
絵を描くことと空想が好きな少女・浦野すずは、厳しい兄、優しい妹ら家族とともに広島・江波で楽しく暮らしていた。18歳になった彼女にある日縁談が持ち上がり、呉へと嫁に行くことに。夫となった海軍勤務の文官・周作をはじめとする北條家の人々に囲まれ、慣れない家事に苦戦しながらも、何気ない日々に幸せを感じつつ生活するすず。しかし戦争が激しくなるにつれて、平穏な日常が少しずつ変化していって……。
キャスト
- 北條(浦野)すず:のん
- 北條周作:細谷佳正
- 黒村晴美:稲葉菜月
- 黒村径子:尾身美詞
- 水原哲:小野大輔
- 白木リン:岩井七世
- 浦野すみ:潘めぐみ
スタッフ
- 監督・脚本:片渕須直
- 原作:こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)
- 音楽:コトリンゴ
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
- のん
- 1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。2016年11月公開の長編アニメーション「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を担当。同作での演技が評価され、第31回高崎映画祭ホリゾント賞、第11回声優アワード特別賞などに輝いた。8月3日には新レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足し、本格的な音楽活動を行っていくことを発表した。
ヘアメイク / 森かおり(クララシステム)
スタイリング / 山口絵梨沙