ザ・クロマニヨンズのライブの魅力はどこにあるのか? 彼らを愛するミュージシャン、お笑い芸人、音楽ライターらが語る

ザ・クロマニヨンズのライブDVD「ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL」が8月24日にリリースされた。音楽ナタリーではライブDVDの発売を記念して、本作をレビューで解説。さらにクロマニヨンズのライブの魅力を知る各界著名人のコメントを掲載する。

「ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL」

レビュー / 森内淳ライブ写真撮影 / 柴田恵理

この映像作品は2022年4月12日に行われた千葉市民会館公演のライブ映像をDISC 1に、「SIX KICKS ROCKROLL」プロジェクトのシングル曲6作のミュージックビデオをDISC 2に収録した2枚組のDVDだ。「SIX KICKS ROCK&ROLL」プロジェクトとは、月に1枚ずつリリースされる7inchアナログのシングル盤6枚をボックスに収納するとアルバムとして完成するというクロマニヨンズの新たな試みだった。その昔、収録時間が短かったSP盤(78回転、通常のLPレコードは33回転)の時代に、複数の曲、つまりSP盤を集めて収納したものを「アルバム」と呼んだ。「SIX KICKS ROCK&ROLL」プロジェクトは単に6カ月連続でシングルをリリースしたのではなく、アルバムの原点を彼らなりに表現したのだ。レコードマニアとして知られるクロマニヨンズならではの、レコード文化にリスペクトをこめたプロジェクトだ。千葉市民会館公演では、そのシングル曲全曲と14thアルバム「MUD SHAKES」からの曲、そして過去のシングル曲を合わせて計23曲が演奏された。このDVDにはそのすべての模様(本編とアンコールの間のオーディエンスとのやりとりまで)が収録されている。

ザ・クロマニヨンズ

クロマニヨンズはこれまでもライブDVDをリリースしてきた。ステージに定評のある彼らのライブ映像はどれも素晴らしい出来だが、今回の作品は一番ハマる要素が多いように思う。まず演奏された新曲の12曲がすべてシングルだったことが挙げられる。これは否応なしに盛り上がる。次にカラーとモノクロとセピアの中間のような色合い、そしてザラッとした映像の質感がクロマニヨンズの佇まいとよく合っている。カット割もそんなに多くないのでライブに没入しやすい。その映像が切り取ったステージには、無造作に楽器ケースや舞台道具が置かれている。普通は幕で隠すべきものを、そのまま見せているのだ。余分な飾りを削ぎ落としたステージで、余分な飾りを削ぎ落としたロックンロールを鳴らすクロマニヨンズ。壁にかけられたケーブルもまるで意図して作られたセットのように思えてくる。それから音がいい。極端な話、映像を観なくてもライブの熱が耳から伝わってくる。実際、2度目に再生したとき、PCで作業をしながら音だけ聴いていたのだが、テレビのスピーカーで聴いているのに、レコードプレイヤーでライブアルバムを聴いているような興奮が押し寄せてきた。そうやってハマる要素が多いDVDの体感時間はとても短い。1曲目の「ドライブGO!」を再生後、あっという間に23曲目の「ナンバーワン野郎」まで連れて行かれる。90分のライブが15分くらいに感じてしまう。それがなんとも気持ちがいい。

ザ・クロマニヨンズ

このDVDを観ていると、改めてクロマニヨンズのライブの魅力を知ることができる。クロマニヨンズの面々はステージに上がった瞬間、トップギアになる。以前、甲本ヒロト(Vo)は「ステージに立っているのは誰だかわからない」と言っていたが、ライブ映像を観ていると、何を言わんとしているかわかる。それはほかのメンバーも同じだ。4人とも最高速度で最後まで駆け抜ける。それは「激しいステージをやる」という意味ではない。彼らは別に激しいステージをやっているわけではない。ものすごい熱量をもって楽曲を表現しているだけなのだ。クロマニヨンズの曲は意味がつかめない歌詞もたくさんある。「大丈夫だ」とか「ボンゴ、ボンゴ、ボンゴ」とか歌っている。歌詞を読んでも「大丈夫だ」についての根拠を示したり説明したりはしない。なのに、クロマニヨンズの曲を聴いていると心が奮い立つ。それどころか絶望すら晴れる瞬間がある。

それは彼らが「大丈夫だ」や「ボンゴ、ボンゴ、ボンゴ」をまっすぐに表現しているからだろう。そこには言い訳や躊躇や忖度はない。こういうことをやれば受けるのではないか、あるいはこういうことを求められているのではないか、といった打算的なところすらない。自分たちのロックンロールをただただ表現する潔さが「大丈夫だ」や「ボンゴ、ボンゴ」に命を吹き込む。彼らの楽曲に対するストレートなアティチュードがあれば、歌詞すら必要ないのではないか、と思うときがある。オバQとかバカボンとか適当な単語を並べただけでもリスナーの心を奮い立たせるのではないだろうか、と。

ザ・クロマニヨンズ

日常生活は楽しいことばかりじゃない。むしろ嫌なことのほうが多い。特にコロナが世の中に蔓延して以降、うまくいかないことだらけだ。こんな状況の中、前しか見えない目玉を持って何かに全身全霊で向かうことは容易ではない。だからこそロックンロールを迷いなく表現するクロマニヨンズの音楽が必要なのだろう。このライブDVDを観て感じた「なんとかなるのではないか」がたとえ勘違いであったとしても、物事の見方を変えてくれるきっかけにはなる。泣き言ばかりが流れる日常の中で、泣き言無用のクリエイティブは、自分の気持ちを前に進むレールに戻してくれる。だからクロマニヨンズの歌を聴いていると、ライブを観ていると、心が奮い立つのだ。「暴動チャイル(BO CHILE)」の歌詞ではないが、これが「ロックンロールにさらわれる」ということだろう。