リーガルリリーの2年ぶりとなるフルアルバム「Cとし生けるもの」が1月19日にリリースされた。
タイトルにある「C」は元素記号で炭素を意味し、結び付きによって変化をする性質を持つ。ダイヤモンドにもなれば黒鉛にもなり、同時に人や環境に強く作用する物質でもある。そんな元素を冠したアルバム「Cとし生けるもの」に収録されている楽曲には、周りの誰かや環境によって変化をしてきたリーガルリリーの“今”がありありと刻まれている。
今回、音楽ナタリーではリーガルリリーのファンを公言する押見修造、花譜、岸田繁(くるり)、Saucy Dog、崎山蒼志、椎木知仁(My Hair is Bad)、セントチヒロ・チッチ(BiSH)、玉城ティナ、のんにレビューを依頼。それぞれの言葉で「Cとし生けるもの」についてつづってもらった。
構成 / 中野明子
押見修造
リーガルリリーの魅力
孤高なところです。
一人ぼっちで佇んでいる感じ。
「何者でもない自分」にいつも返っていくような。
静かに高潔に怒っている。
文学と抒情がある。
聞き手を殺そうとするような凄みがある。
それらをすべて含んだ爆発の瞬間がある。
「Cとし生けるもの」を聴いて
より確かに、自信をもって作品を作っているように感じて、
すごいなあと思いました。
凄みが増しているといいましょうか。
アルバムの曲の中では「東京」が好きです。
日記のようなところから一気に狂ったところへ跳躍するのが
スリリングだと思います。
静けさを破って内包されたものが爆発するときにぞくぞくする。
リーガルリリーへのメッセージ
存在して作品を作ってくれることが頼もしい。
自分(僕)の内面をも形にしてくれているような
ありがたさを感じます。
これからもずっと作り演奏し続けていってほしいです。
プロフィール
押見修造(オシミシュウゾウ)
1981年生まれ、群馬県出身。2002年に「真夜中のパラノイアスター」でデビュー。2009年に連載を開始した「惡の華」は「マンガ大賞2012」にノミネートされるなど、高い評価を受ける。同作は2013年にアニメ化され話題を呼んだ。その後も2014年に「スイートプールサイド」、2018年に「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」が映画化、2017年に「ぼくは麻理のなか」がドラマ化されるなど、著作の映像化が続いている。現在は「血の轍」を連載中。
花譜
「Cとし生けるもの」を聴いて&リーガルリリーへのメッセージ
アルバム全曲聴き終わった後、しばらく恍惚とした状態でした……。
自分がうまく言葉や声に出せなくて歪んだところや違和感を、なんだか知っていてくれているような気になりました。聴いているとずっとどこかさみしい感じがするけれど、音が柔らかい風みたいになって息をしやすくしてくれるようで、それからやさしい歌声が心の芯でジーン、と暖かくなってじわじわ体に満ちていくのを感じました。その感覚がすごく好きです。日々たくさんの人やもの、情報とかと交わる中で、見つけたりつくり出したりした、自分や誰かの忘れたくない光や翳りを、「Cとし生けるもの」の歌たちと一緒に、これから自分の中に刻んでいきたいです、いっぱい聴きます!!!!!
プロフィール
花譜(カフ)
2018年10月からYouTubeやInstagramで活動を展開している、17歳のバーチャルシンガー。透明感のある儚くも力強い歌声でファンを増やしている。歌唱曲の作詞作曲は「命に嫌われている。」などで知られるボカロPのカンザキイオリが手がけ、キャラクターデザインはイラストレーターのPALOW.が担当。2022年3月に高校卒業を記念したオンラインライブ「僕らため息ひとつで大人になれるんだ。」を開催予定。
花譜 | ARTIST | KAMITSUBAKI STUDIO
岸田繁(くるり)
リーガルリリーの魅力&メンバーへのメッセージ
リーガルリリーの音楽作品を初めて聴いたのは「リッケンバッカー」だったと思う。多くの人たちが、アレにぶっ飛ばされたと思うけど、その後の彼女たちが繰り返しているだろう実験と発見と自信が、今作に繋がっていることにとても清々しい気持ちになる。
コーラスの効いたジャングリーなギターと、タイトかつパワフルに、時にメロディックに曲を支えるベース、そして何よりも彼女たちの理想をリアルな現実に変える核心のようなドラム。どのトリオバンドでもそうかも知れないけど、彼女たちはオーソドックスかつ「強い」バンドアンサンブルを推し出す。
メロディはあくまでもシンプルで、エモーショナルではあるけれど、すっとぼけてもいる。
音楽的に丁寧に組み立てられたサウンドに乗って、彼女たちの歌世界は独自の感覚を聴き手の心に生み出すことになるだろう。
何より聴き手の心を引っ掻き回すのは、ともすれば陳腐さとスレスレな表現にも成りかねない「等身大」の歌唱とリリック。そのバランス感覚は一晩で身につけられるようなものでは無い。どれだけ考えようにも、彼女たちの歌が安っぽくならないのは、「等身大」であることのそもそもの尊さと、それが本当の優しさであることを彼女たちはよく知っているからなんだろう。そして、それを守り抜く姿勢を決して崩さないことじゃないかな。
人は強く、そして弱い。偉い人も、お金持ちも、イケメンも可愛い子も、迷える人も貧しい人も、不細工もアホも、みんなその「勝手に名付けられた」レッテルの、その裏側には必ず真逆のものを持っている。そんな人間の真理をサラリとあばきながら、パステルの彩りでパレットから色を取り出しひとつずつ丁寧に塗って、ひとつずつ名前を付けていく。
たたかうことは、ぶっ飛ばすことじゃない。君を救ってくれる人は君と同じように傷付いている。君がどれだけダメな奴であろうと、君には他者を救う力がある。
そんなことを思わせてくれるような、力強くも繊細でたおやかな「等身大」。作品の完成おめでとう。
令和四年一月 岸田繁
プロフィール
岸田繁(キシダシゲル)
1996年に立命館大学の音楽サークル「ロック・コミューン」内で結成されたバンド・くるりのボーカル&ギター。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビューした。2017年には交響曲「交響曲第一番」の初演の模様を収めたCD「岸田繁『交響曲第一番』初演」をリリースするなど、ソロアーティストとしても活躍中。京都精華大学特任准教授としても教壇に立つ。くるりとしての最新作は、2021年4月リリースのアルバム「天才の愛」。
Shigeru Kishida | 岸田繁 オフィシャルサイト
Saucy Dog
リーガルリリーの魅力
人それぞれがもっている世界観を色々な形で表現しているアーティストだと思います。
日々の出来事や感じた事を吸収して加工しすぎずにそのまま吐き出していると思います。
「Cとし生けるもの」を聴いて
アルバムの1音目から引き込まれました。
音楽を聴いて初めて受けた衝撃と同じ感覚になりました。
一生懸命お小遣いを貯めて買ったCDの記憶が蘇りました。あの頃の自分にリーガルリリーのこのアルバムを聴かせたいと思いました。そんなアルバムです。
リーガルリリーへのメッセージ
唯一無二の世界観をずっとずっと後世に伝えられるそんな素敵なアーティストです。
同じアーティストとして尊敬しています。
プロフィール
Saucy Dog(サウシードッグ)
石原慎也(Vo, G)、秋澤和貴(B)、せとゆいか(Dr, Cho)からなるスリーピースバンド。2013年11月に結成され、2016年8月より現在の体制で活動をスタートさせる。2017年5月に初の全国流通作品となる1stミニアルバム「カントリーロード」をリリース。2021年2月には初の東京・日本武道館単独公演を開催し成功に収めた。8月25日にこの公演の模様を収録したライブBlu-ray / DVDと5thミニアルバム「レイジーサンデー」を同時リリース。
崎山蒼志
リーガルリリーの魅力
瑞々しく歯切れの良いサウンド、なめらかで大きなグルーヴ、思わず空を見上げてしまうような、そういったどこか神聖さすら感じます。それでいて、個々が鳴らすバンドであること、そしてその一体感が伝わってくるところが大好きです。ひとつひとつの音の選び方に新鮮さがあり、そしてたかはしさんの歌声、作られる歌詞、楽曲には聴くたびに心を持っていかれます。ダイナミズムと繊細さが一遍に突き抜けてくる、ずっと魅了され続けているバンドです。
「Cとし生けるもの」を聴いて
歌詞とメロディとバンドサウンドの親和性、そして相乗効果がとてつもなく、拡張し、聴いていると内から込み上げてくるように目頭が熱くなりました。暖のある星、またその星の爆発の光のようにも思えます。また、個々の生活や思考、焦燥感と、この宇宙の神秘性や大きさを同時に感じます。ソングの中で、自由自在なエネルギー、メロディの力強さ、未聴感と故郷のような懐かしさ、個人的に何度も繰り返し聴くであろうアルバムだと思います。
リーガルリリーへのメッセージ
めちゃくちゃ大好きです。大ファンです。またお会いした時はよろしくお願いします。皆様が元気で過ごされますように願っています。そして、あまりにも素晴らしいアルバムをありがとうございます。
プロフィール
崎山蒼志(サキヤマソウシ)
2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガーソングライター。2018年7月に初のシングル「夏至 / 五月雨」を発表し、同年12月に1stアルバム「いつかみた国」をリリースした。翌2019年10月には、君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙とのコラボ曲などを収録した2ndアルバム「並む踊り」を発表。2021年1月にアルバム「find fuse in youth」でメジャーデビューを果たす。2022年2月にメジャー2ndアルバム「Face To Time Case」をリリースする。