コミックナタリー Power Push -「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」

原作サイドからはどう見えた? 枢やな担当編集が語る「生執事」

マダム・レッドの「独占!女の60分」

──ほかにも枢さんが言及してらっしゃったキャラクター、キャストさんはいらっしゃいますか?

AKANE LIV演じるマダム・レッド。

マダム・レッド役のAKANE LIVさんはとにかく素晴らしかったです。「黒執事」って章立てて作っていて、それぞれで読めるようになっているので、各編の犯人やターゲット側の人間ドラマになっているんですね。実は「黒執事」の裏テーマに、「人間っぽい、愚かなところを描く」というものがあるんです。「赤執事編」で言うと、高い階級の、美貌も財力もある貴族の女性が、たったひとつの女性としてのコンプレックスが原因で人殺しにまで人間として堕ちていく。同情しちゃいけないけど、なんて可哀想なんだろうと。原作だとセバスチャンとグレルの戦いとか、マンガ的なニーズにも応えて描いているので、そのドラマにページをそこまで割けたかどうかは不安ですけど、ミュージカルではしっかりと表現されていましたよね。そこはやはりAKANEさんの歌唱力、ミュージカルという文化の力ですね。

──何度もリプライズで出てくる「道に迷わないように」には、心が締め付けられました。

同じ歌詞、同じメロディーを、最初はそのままCDにできるくらいブレずに歌って、次は泣きながら歌う。そして最後は中島みゆきのように怨念を込めて歌う。イケメンが勢揃いした2.5次元カテゴリーのミュージカルかと思いきや、「独占!女の60分」みたいな後半が始まるという(笑)。

「舞台化のオファーが来たけど、やんないよね?」

──公演パンフレットやDVDのブックレットにはデザイン画が掲載されていましたが、枢さんはシエルの衣装デザインもされていたんですね。

枢やなによる衣装デザイン画。

枢やなによる衣装デザイン画。

衣装に関してはこだわりがある方なのと、「黒執事」の衣装は演劇的に弱点が多いデザインということがわかっているんですね。通常のオリジナル演劇だと、リアリティを取っ払って、生地が黄色とか赤とか、かつオールスパンコールとか舞台映えする派手なものじゃないですか。でも「黒執事」に出てくる衣装はやはり黒が一番多い。そこは変更できないので、闇に溶けやすい寒色が多いけれど、フォルムや色合いが映えるようにというのは考えてらっしゃいましたね。

──なるほど。衣装以外は特に関わったりはせず?

もうお任せですね。枢さんは演劇とか2.5次元の知識があった人なので、いい意味で「ゴー!ゴー!」って感じです。最初に舞台化の話が来たとき、当時はまだ2.5次元、という言葉もなかったですけど、そういうものが今ほどメジャーではなかったので、会社の人たちも後ろ向きで。アニメだと「アニメ化のオファー来たよ、やったね!」なのに、舞台化だと「舞台化のオファーが来たけど、やんないよね?」って言われたくらいですから(笑)。

──時代を感じますね。

確かに当時、スクウェア・エニックスのほかの人気作品は舞台化の話を断っていましたし。でも僕は枢さんに舞台の魅力をずっと聞いていたので、「やりますけど、何か?」という感じで即答したら、とても驚かれましたね。

──ちなみに枢さんは、どうやって舞台に親しんでらっしゃったんですか?

熊剛氏

ご自身が高校時代に演劇部だったので、通常の演劇も観てらっしゃいますし、2.5次元だったらミュージカル「テニスの王子様」の1stシーズンを観たと言ってました。僕は逆に偏見のある大人だったんですけど、枢さんにいきなり「Dream Live」(テニミュのライブイベント)に連れられて。その後、立海公演を観て、マンガを全巻揃えるという(笑)。マンガ家さんに逆に教育されて「いいものだな」と思ってた状況だったんですよね。

劇場アニメっぽいものを勝手に描いた「豪華客船編」

──来年は「豪華客船編」が劇場アニメ化されることも決定しています(参照:不死鳥!「黒執事」劇場アニメは豪華客船編、2017年初春に出航)。

枢が劇場アニメ化決定の際に描き下ろした「豪華客船編」のビジュアル。

実は「サーカス編」の連載中に、劇場版になるかならないか、という動きがあったんですよ。それが実現しなくて、でも気持ちは劇場アニメに向いていて。なので、「劇場アニメっぽいものを次の連載で勝手に描こう!」って感じで作ったのが「豪華客船編」だったんです。

──それが劇場アニメになるなんて!

だから感慨深いです。豪華客船で、ものすごい量のゾンビみたいなものが出てくるという、パニックムービーの王道中の王道という設定を、ペンで1色で描き切ってやる、という気概で当時は描いていて。それが大画面で観られると思うとうれしいですね。

──原作では5月27日発売の23巻から「青の教団編」に突入します。その辺りの見どころもお伺いできますか。

「黒執事」は縦軸と横軸のある物語の作り方をしています。◯◯編というひとつのエピソードで楽しめる横軸と、章が終わる度にセバスチャンとシエルの関係性、またはシエルの生い立ちの物語が少しずつ進む縦軸がある。今章は、その縦軸の部分がダントツに進むように作りたいなと思っています。なので少し「黒執事」から離れていた人も、この機会に戻ってきてもらえるとうれしいですね。ただ僕らもコロコロ変わるんで、そう言いながら全然違う話になるかもしれないですけど……(笑)。

「青の教団編」では、「寄宿学校編」に登場したキャラクターたちが歌って踊る……?

──「青の教団編」では歌って踊るアイドルも出てきましたね。

参考になるかなと思って話題の「キンプリ」(劇場版「KING OF PRISM by PrettyRhythm」)も3回観に行きましたよ。完全に負けてるなと思いましたけど。あれを超えなければというのが最近の課題です(笑)。

Contents Index
コミックナタリー 枢やな担当編集・熊剛氏インタビュー
ステージナタリー セバスチャン役・古川雄大インタビュー
「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」発売中 / アニプレックス
「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」
[Blu-ray+DVD] 8640円 / ANSX-10025
[DVD2枚組] 7560円 / ANSB-10025
本編ディスク(BD/DVD)

東京公演の模様を収録(約160分)

特典映像ディスク(DVD)

稽古場から中国公演まで密着したドキュメント映像/突撃キャストインタビュー企画「アバーラインとハンクスの事件簿」を収録(約135分)

枢やな「黒執事(23)」 / 2016年5月27日発売 / 607円 / スクウェア・エニックス
枢やな「黒執事(23)」

ロンドンで大流行りのミュージックホールに、カルト教団の疑いがかかる。ホールに潜入したセバスチャンとシエルは、名門寄宿学校を追われた元監督生と、飄々とした占い師・ブラバットと出会う。ブラバットはセバスチャンを一目見た瞬間、「人間では無い」と言い当てる…! 大ヒット執事コミック、新章「青の教団編」スタート!!

枢やな(トボソヤナ)
枢やな

1984年1月24日埼玉県生まれ。2004年月刊Gファンタジー(スクウェア・エニックス)にて「9th」でデビュー。2005年、同誌にて「Rust Blaster」を初連載する。2006年からは「黒執事」を連載し注目を集め、2007年にドラマCD化、2008年にテレビアニメ化、2009年に舞台化、2014年に実写映画化を果たした。

熊剛(クマタケシ)

2001年、エニックス(現:スクウェア・エニックス)に入社。同年より月刊「Gファンタジー」編集部に配属される。これまでの主な担当作品に「デュラララ!!」「魔法科高校の劣等生」「ZOMBIE-LOAN」、テレビアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」(副シリーズ構成として参加)がある。


2016年5月18日更新