「D.ダイバー」森恒二×武井壮|この作品は“三浦建太郎の形見” 大切に、そして命をかけて紡がれるダークヒーローの物語

日々流れてくる犯罪事件の報道に、誰しもやるせない思いを抱える瞬間があるのではないだろうか。現実社会ではそういった“悪”を止めることが難しくても、夢の中だったら倒すことができたかもしれない……。そんな思いを抱えて描かれたのが、「ホーリーランド」「創世のタイガ」などで知られる森恒二の最新作「D.ダイバー」だ。同作は法律家を目指す青年カグラが、人の夢の中に潜れるようになったことをきっかけに、夢の中で悪人に拳を振るうことで現実の犯罪を防いでいく物語。8月29日に発売された最新4巻ではカグラが“鬼”へと変身し、手探りで成長しながら新たな強敵へと立ち向かっていく。

最新刊の発売を記念し、コミックナタリーでは作者の森恒二にインタビューを実施。「D.ダイバー」は“三浦建太郎の形見”だと話す森は、夢に潜り、悪を倒すという物語が生まれた背景について赤裸々に語ってくれた。またゲストとして、戦うマンガが好きであり、幼い頃からマンガに助けられてきたと話す“百獣の王”・武井壮に出演してもらい、「D.ダイバー」を読んだ感想を語ってもらった。

取材・文 / 成田ナリタタモツ撮影 / 武田真和

「D.ダイバー」あらすじ

「D.ダイバー」4巻

「D.ダイバー」4巻

法律家を目指す男子大学生・カグラは、現実との境目がわからないほどのリアルな夢を見ることがたびたびある。ある日、ゼミの実習で暴行殺人事件の裁判を傍聴した彼は、自らの手で犯人に制裁を加える夢を見た。何度も同じ夢を見るようになり、そのたびに制裁行為を続けるカグラ。そして夢の内容に合わせて、現実でもその犯人たちが痛めつけられることに気づいた彼は、夢の中で悪人を討ちのめすことで現実の犯罪を防ぐ“ダークヒーロー”となっていき……。現実に実力行使で悪を止めることが難しい社会で、夢の中で拳を振るうという、泥臭くも熱い一種の“変身ヒーロー”ものだ。「ホーリーランド」「創世のタイガ」などで知られる森恒二の最新作。ヤングアニマル(白泉社)で連載されている。

第1話を読む

この作品は“三浦建太郎の形見”

武井壮 僕は「ホーリーランド」を読んでいたのですが、森さんは主人公の神代ユウくんみたいな、繊細で華奢な方なのかなと思って調べたら、めちゃめちゃゴツい人が出てきて(笑)。今日お会いしてみたら、想像以上にデカかったっていう。

森恒二 中身は繊細なんですけどね(笑)。俺は初めてテレビで見たときに「百獣の王? 何者なんだ?」と思って。でも武井さんは自信を持っていらっしゃって、物言いも堂々としているから、見ていて気持ちがいいんですよね。

武井 うれしいです。ありがとうございます。僕はマンガが好きで、その中でも“戦うマンガ”が大好きなんですけど、森さんのマンガはただ戦うだけじゃなくて、人の繊細な心の内に触れたり、登場人物の成長を描いたりしていて。いろんなことをメッセージとして送ってくれるところに惹かれているんです。今回「D.ダイバー」を読んでみたら、さらに夢の中という今までにない“戦うフィールド”ですよね?

武井壮

武井壮

 亡くなった俺の友達の、マンガ家の三浦建太郎と10代から一緒にマンガを描いていて、なんでも相談する間柄だったんですよ。それで三浦から「悪を倒す、変身するヒーローを生み出したほうがいいよ。絶対それ描いたほうがいい」ってずっと言われ続けて。アイデアが全然湧かない中、ネットを見ていたら犯罪事件に関するフラストレーションがすごくて……なんでこんな目に遭う人がいるんだろう、どうしてこんな犯罪をしたのに数年で刑務所から出てきてしまうのか、それってどうなの、と思うようになって。それで「こいつらを倒したい」と考えたんです。でも復讐するヒーローっていうのは、今までいろいろ描かれてきている。そうしたら三浦が、俺が別のマンガのアイデアとして考えていた夢に渡る主人公を見て「この“夢に潜る能力”を使おうよ」と言ったのが「D.ダイバー」になったんです。そのアイデアのもとになったマンガはもっと軽い、学園ものだったんですよ。だから三浦のアドバイスと、俺のもともとのアイデアが混ざって、夢に潜って悪を追っていくマンガになったんです。夢だから変身できるというのもありだよねっていう。

森恒二

森恒二

武井 三浦さんのアドバイスだったんですか、感慨深いです。しかも鬼に変身する……これはどのように着想を得たんでしょうか?

 いろいろと調べ物をしていたら、鬼を祀る神社があって、人の心の中の邪な悪を退治するという意味合いがあるというのを見て「これに変身しよう、これに宿ってもらおう!」と思ったんです。人を殺すような奴の心の中には相当ヤバい怪物がいるんじゃないかと考えて、その怪物と夢の中で戦う、変身するヒーローはアメコミや日本のマンガにもなかったんで、「いいのでは?」となったんですよ。

武井 なるほど。

 でもね、実はその“夢の中へ渡る”ってアイデア、三浦が先に使っちゃったんですよ(笑)。「ベルセルク」にキャスカという心を失っているヒロインがいて、そのヒロインの夢に渡って正気に戻させるシーンがあるんですけど、三浦から「これ、先に使っていい?」みたいに聞かれて。マンガ家ってけっこう気にするんですよ、ネタ被りを。それで「変身して悪を倒すわけじゃないからいいよ。お前が半分考えたようなもんだし。どうぞどうぞ」って。それから鬼のデザインの一部は三浦が協力してくれて。この鎧みたいな肩から背中に行く部分とか、お腹のあたりは三浦がデザインしてくれたんです。最初は鬼そのまんまのデザインだったんですけど、甲冑みたくしてくれたんですよね。だからこの作品は形見みたいなもんなんですよ、本当に。

「D.ダイバー」3巻の表紙イラストより、鬼の甲冑のデザイン。

「D.ダイバー」3巻の表紙イラストより、鬼の甲冑のデザイン。

「D.ダイバー」3巻第27話より、鬼の甲冑のデザイン。

「D.ダイバー」3巻第27話より、鬼の甲冑のデザイン。

武井 僕は「ベルセルク」もずっと読んでたんで、森さんと三浦さんのアイデアが混ざったことと、「ベルセルク」と「D.ダイバー」にリンクがあったっていうのは、読者目線から言うと、これ以上なく熱いものがあります。今後「D.ダイバー」が熱を持って人気が広がっていく鍵になったりしないかな、と期待しちゃいますね!

 ありがとうございます。「ベルセルク」の監修と、「創世のタイガ」っていう……マンモス倒すような、武井さんみたいな主人公が出てくるマンガの連載をやっていて、それをやりながら「D.ダイバー」も始めたのは、三浦もいなくなって、もう自分も年なんで「残さないと」というのがあって。ちょっと無理をしてでもやろうと思ったんです。今59歳で還暦間際なんですけども、本当に初老の体に鞭打って、がんばってやってます。

カグラの戦いはまだ「県大会に入った」ぐらい

武井 森さんのマンガには戦うシーンでの恐怖心があって、相手からの攻撃を恐れたり、相手のこの技がヤバいなという感覚を描きますよね。それがいつもすごいリアルで、これを描けるのは興奮状態などをリアルに自分の中で感じてるからこそだと思うんです。

 そうですね。「ホーリーランド」のヤンキー狩りは割と実体験で。学生時代の俺は、体は大きいけど、ただのマンガ好きの内気な子だったから、不良とかに絡まれて震え上がったのは事実で。それで「やられるなら、先にやってやろう」と(笑)。

森恒二

森恒二

武井 ヤバいですね(笑)。その「ホーリーランド」には天才や努力家、アスリートなどいろんな登場人物がいますけど、僕が感じる“一番怖い奴/強い奴”って、“一番成長する奴”なんですよ。天才も努力家もアスリートも、自分を磨いて成長する奴にやられてしまう。森さんのマンガは恐怖心と戦いつつも、まだ俺は負けないと思ったり、負けてしまったときや追い抜かれたときの苦悩の描写も溢れてるんですけど……「D.ダイバー」の主人公のカグラくんは、森さんの作品にある“磨くルーティン”をまだしてないじゃないですか?

 うん、まだ磨いてないですね。

武井 棒術にしても、道場へ行ってちょっと習うくらいで、達人的なものはまだ身につけてない。そして変身するまで3巻もかかってる。しかもどうやったら変身するのかがわかってなくて、4巻でやっと変身するコツを掴み始めていましたよね?

 そう、変身まで3巻かかったのはわざとなんです! 普通のマンガだったら1巻の終わりくらいで変身するんですよ。でもこれは三浦が「絶対3巻まで我慢しろ」と言ってたからなんです。けど俺は「3巻は長いよ、せめて2巻の半ばには変身させたいよ。変身モノなんだから」って言い返したんだけど、「最初に夢に潜って悪を探っていくっていう描写を完全に浸透させないと、夢で戦う意味がわからないから、とにかく3巻まで我慢するんだ、人気がなくても」と三浦に言われて。「3巻まで人気が続かなくて、打ち切りになったらヤバいぞ!」って思いながら描いてたんです(笑)。でももうこれは三浦の遺言だから、守ったんですよね。

「D.ダイバー」3巻第26話より。女児を監禁殺害した凶悪犯に立ち向かうカグラ。強敵に死を覚悟したそのとき、頭の中に声が響き渡り、鬼へと変身する。
「D.ダイバー」3巻第26話より。女児を監禁殺害した凶悪犯に立ち向かうカグラ。強敵に死を覚悟したそのとき、頭の中に声が響き渡り、鬼へと変身する。

「D.ダイバー」3巻第26話より。女児を監禁殺害した凶悪犯に立ち向かうカグラ。強敵に死を覚悟したそのとき、頭の中に声が響き渡り、鬼へと変身する。

武井 なるほど、今やっとわかりました! 変身まですごい使ったなと思ったんですよ。

 もう本当に「三浦、マジでこれでいいのか?」みたいに思ってました(笑)。

武井 主人公がまだ成長を始めてないんで、これをどう成長してさせていくんだろうとか、ほかのキャラクターがどう倒そうとして、また自分の世界を守ろうとするのか?と思っていたんです。カグラに覆いかぶさってくる悪はどれぐらいこの夢の中の世界を理解してるのか、とか。しかも夢の中で戦うことを理解している“悪”みたいな奴らが出てきたじゃないですか? そのあたりの戦いがどう展開するのか、本当の悪は誰なのかとかちょっとまだ読めないし、今後どう成長するのか、楽しみなんです。それでタイトルの「D.」にはDreamとかDemonとかの意味があると思って、「ほかにDが付く言葉にはどんなものがあるんだろう」と英語の辞書を引いて考えてたんです。

武井壮

武井壮

 武井さん、レベルが高いマンガ読みだ!(笑) そうそう、鬼は英語でDemonで、夢のDreamも出てくるし、人間の悪意や邪な気持ちが生み出す欲望のDesireだったりと、いろいろな“D”が絡んでくる。そこへ潜っていくダイバーという意味があるんです。

武井 タイトルも三浦さんと一緒に決めたんですか?

 そうです。だから本当に形見みたいなもんなんで、もう必死に描かせてもらってます。ここから夢の中や、現実の空間じゃないところで妄想や恐怖がダイレクトに現れてくるような、夢ならではの出来事が本格的に始まっていきます。恐ろしい悪夢みたいな奴らや強力な敵、協力者も登場します。本当にまだ始まったばかりで、やっと変身して、ここから、というところでもあります。でもそれは三浦のせいです(笑)。

武井 (笑)。カグラの戦いって、まだ県大会に入ったぐらいですよね。地区大会を勝ち切って県大会へ進んだら「やべ、あっちのエリアにこんな強い奴いた!」みたいな。

 そうそう、もうホントそういう感じ。小林まこと先生のマンガ「柔道部物語」で言うと、まだ2巻ぐらい(笑)。

武井 まだ樋口(※「柔道部物語」の主人公・三五十五のライバルである江南高校柔道部の樋口久)は出てきてないですね(笑)。