コミックナタリー Power Push - 福井あしび「マコトの王者」

真逆の2人、人格が入れ替わってしまったら? 両視点で描く同時進行ボクシングストーリー!

入れ替わることでお互いの問題を解決していく

──「マコトの王者」は、同じ時間の流れの中で2人の主人公の話を別々に展開していますが、この手法はどういった経緯で生まれたんでしょうか?

僕の好きな本に「カム・トゥギャザー」(ジョジー・ロイド&エムリン・リーズ著、扶桑社刊)という海外の恋愛小説があって。男性作家が男性側視点の章を書いて、女性作家が女性側視点の章を書いて、男女の章が交互になっている小説やったんですよ。しかも、その2人の作家はその小説の執筆が終わった後に結婚したというんです。それって素敵な話だなって担当さんと話したことがあって。しばらくして連載の打ち合わせをしてるときに「2人の主人公を分けて描いたら面白いんじゃない?」という話になって。

──ではこの連載形式で始めるきっかけは福井さんの世間話からだったんですか?

だったと思うんですけどね。担当さんは覚えていないかもしれませんが(笑)。初めはシンクロする時間軸の中でいっぱい工夫しようと思ってたんです。「赤」のシーンで電話をかけたら、「青」のシーンでこうなる、とか。でもそればっかりやるのも変だなあと思ったんですよ。それが最大の目的ではないですし、第一読みづらそうかなあ……と。

2人のマコトは、新聞でお互いの状況を知ることも。

──それでも「赤」で出てきたことが「青」で登場する、という2つの話がリンクするところが所々にありますね。「青」で大地が壊した車が「赤」で出てきたり。

読みやすさを維持する範囲内ではやっていきたいです。あとお互いの試合で2つの話がリンクしますので、お互いの闘う姿を観て何か感じるっていうのは、ストーリー上でのポイントになってます。

──お互いの試合をテレビで見ることで状況を知り合ったりもしますね。あと2人を繋げる手段としては、電話で会話するシーンもありますよね。

電話のシーンは節目でしか出さないつもりです。電話を多用してしまうとお互いに距離が近くなりすぎてしまうので。現役の世界チャンピオンと連続防衛記録保持者の設定ですから、新聞やテレビで否が応でもお互いの状況が知れるような有名人であるはずだと思ってます。

──確かに2人のマコトが会うシーンは少ないですね。

設定としては、天堂が大地の妹と暮らしているところは埼玉なんですよ。で、大地が暮らす天堂の家は東京の高級マンションなんです。最初は大地の家は大阪にしようと思ってたんですけど、距離が遠すぎると思って……。新幹線乗らんとあかんし。だから2人が通うジムも、ちょっと地方のジムと、在京の大手ジムというイメージです。

──入れ替わりモノならではの面白さというのはありますか?

ポイントとしては、入れ替わる前はお互い解決できなかったことが、入れ替わったことで、お互いの長所を活かして解決していく、状況を変えていけるっていうところです。それを最優先に考えてます。

──例えば?

「青」の話の場合、天堂は理性で行動ができるから、妹の進学を説得したり、借金取りを追い返すシーンで最も有効な判断を下せると思うんです。問題があるときに感情的な行動をするのはまずいですよね。もともとのヤンキー兄ちゃん(大地)やったら、ここは確実に喧嘩してます(笑)。

──「青」はちょっと安心して読めるところがあります。逆に「赤」はハラハラしてしまう……。

執筆への意欲を盛り上げてくれるボクシンググローブ。普段は福井のデスク後ろに常備。

「赤」はお金持ちですので生活は安定していて金銭的リスクが少ないです。その分、助け合う必要が無いので親子関係や人間関係に距離があって寒々しいと思うんですよ。そこに大地みたいなフランクな性格の人間が入ってくることによって距離が縮まって解決していく話にしたいと考えています。

──2人の性格は本当に真逆ですよね。

「赤」の大地は家族どころか他人でもほっとけない性格のキャラクターですが、「青」の天堂は家族だろうが恋人だろうが他人に興味が無い性格のキャラクターです。許嫁に対しても愛情ではなく同情的な感じで。大地の妹に対しても愛情ではなく同情的な感じで。大地の妹に親身に接するのは「大地真に対する義理」があるからなんです。

──2人のキャラクター設定で重要なポイントは他にもありますか?

「青」の天堂は自分から行動せずに周囲の状況によって動く受動的キャラクターで、「赤」の大地は自分で状況を変えていく能動的なキャラクターなんです。ですから「赤」の大地が何かの陰謀に巻き込まれて落ちぶれてしまう、っていうのはやらないことにしています。自分から状況を変えるキャラクターだから、影響されて変わってしまったらブレてしまうんですよね。

福井あしび『マコトの王者(赤)』(1) / 2010年1月12日発売 / 460円(税込) / 小学館 / ゲッサン少年サンデーコミックス / ISBN:978-4-09-122097-4

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福井あしび『マコトの王者(青)』(1) / 2010年1月12日発売 / 460円(税込) / 小学館 / ゲッサン少年サンデーコミックス / ISBN:978-4-09-122097-4

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あらすじ

無敗の絶対王者、天堂誠。名門の家系に生まれながら、拳一つの道を選んだ男。豪腕の野性児、大地真。幼い妹たちを養いながら、極貧の生活から這い上がった男。
2人のマコトが生き残りと運命をかけた世界タイトルマッチ。死闘の果てに、立ち上がったのは大地真。しかし、両者はその中身が入れ替わってしまい……!?
「マコトの王者」の称号を懸けた宿命の対決、ボクサーズ・クロスロード開幕!!

福井あしび(ふくいあしび)

プロフィール写真

8月22日生まれ。血液型A型。男。2005年、小学館新人コミック大賞で入選。翌2006年、週刊少年サンデー8号(小学館)に、「護って騎士」が掲載。以降も次々と読切を発表してきた。2009年、ゲッサン創刊号より「マコトの王者」にて連載デビュー。