コミックナタリー Power Push - 九井諒子「ダンジョン飯」
“美味しそう”を伝えるプロ・食品サンプル職人が大サソリに挑む! 架空の魔物料理をどう作る?
九井諒子「ダンジョン飯」の3巻が8月12日に発売された。「ダンジョン飯」はファンタジー作品でお馴染みのモンスターを論理的に「生物」として見たうえで調理し、「食材」としていかに美味しく食べるかをリアルに描いた作品だ。その新刊の広告ポスターでは、作中に登場する料理「大サソリと歩き茸の水炊き」の食品サンプルを実際に制作して使用するという。普通の食品サンプルを扱う業者に、モンスターを扱った料理のサンプルを依頼していいものなのか。そして実際にどんなサンプルができたのか。疑問がつきないコミックナタリーは、制作の様子を追った。
取材・文 / 松本真一 撮影 / 石橋雅人(P1)
まず6月中旬、「ダンジョン飯」担当編集者が岐阜県郡上市にある食品サンプル会社のイワサキ・ビーアイの総合研究所を訪れ、打ち合わせ。その約2週間後となる7月1日、イワサキ・ビーアイの営業担当である深沢氏が東京都内にあるハルタ編集部に来訪した。この機会を逃すまじと、具材それぞれの試作品を確認するという監修作業にコミックナタリーも同席させてもらった。
伊勢海老で型を取った大サソリ
深沢 これが、まだ鍋には入ってませんが「大サソリと歩き茸の水炊き」のサンプルになります。
担当編集 うわー、ありがとうございます! まず歩き茸から確認していきましょうか。なんだかエリンギみたいですね。
深沢 みたいっていうか、実際にエリンギの型を使ってるんです。型を取れる大きさのキノコってエリンギしかないんですよね。
担当編集 歩き茸は足が美味しいっていう設定なんですよね。裏側の見えない部分もちゃんと作ってあって、細かいですね。そして次が、ゆでて赤くなった大サソリ。これもすごい。
深沢 身は伊勢海老を利用しました。殻の部分は海老や蟹を使って、少し盛ったりしています。
担当編集 ひとつひとつ形が違うのがこだわりを感じますね。続いてサカサイモと、彩りに入れた花苔。
深沢 サカサイモの型は普通に長芋を使いました。花苔は1枚1枚型を取って作ると時間がかかるので、似た形の造花に樹脂を染み込ませて、色をつけて加工してるんですよ。
干しスライムの太さへのこだわり
担当編集 続いてこの長いのが、干しスライムを切ったものですね。
深沢 これはマロニーをイメージしました。作り方としては、実際に板状に伸ばしたものを1度作ってから、包丁で切りました。
担当編集 作中で干しスライムを包丁で切るシーンがありますが、それと同じですね。
深沢 最初は細い麺のサンプルを作るときの押し出し機で作ろうかと思ったんですけどね。でもそれよりも、1本1本の太さが多少違ったほうがリアルなんじゃないかなってことで、手作業で切ってます。
担当編集 なるほど、そんなこだわりが。このマロニーちゃん、箸で持つとちょっと太いですかね?
深沢 細いほうがよければ細くしますけど、絵に合わせたら太いほうがいいかと思います。そうだ、現状では全体にツヤを出してないんですけどどうしますか? 今のほうが自然かもしれないですけど。
担当編集 誰が見ても食品サンプルってわかるようにはツヤ出したほうがいいのかな。それにやっぱり、美味しそうなほうがいいですよね。じゃあツヤは出しましょう。
深沢 了解しました。
担当編集 っていうかナタリーさん、今日の素材の写真、ビジュアル的には意外と普通な気がしてきましたけど記事としては大丈夫ですか?
──1個1個の完成度がすごいので、問題ないです! でも確かに食べるものなので、料理しちゃうと見た目は普通なんですよね。食べれる大きさに切るし、美味しく見えないといけないし。
担当編集 そうなんですよね。ホントに美味しそうに見えるように作中では描いてるし、料理したあとは突拍子もないことは起こらない作品なので。
──「こんな気持ち悪いもの食べられないよー」っていうんじゃなくて、「架空の食材をリアルに食べることができるように描く」っていうのが見どころですからね。
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