コミックナタリー Power Push - 九井諒子「ダンジョン飯」
“美味しそう”を伝えるプロ・食品サンプル職人が大サソリに挑む! 架空の魔物料理をどう作る?
そして1週間後の7月8日、監修を経て、完成の一歩手前である出汁を注ぐ前の状態のサンプルを、現物を制作したイワサキ・ビーアイの工場長・中田氏が岐阜の研究所から持参。ここからは中田氏を交えた制作秘話をお届けする。
サンプルから伝わってくる情報量がすごい
中田 前回の監修を反映して、鍋に入れたものがこちらになります。これにスープを入れたら完成ですね。
担当編集 うわー、すごい! ありがとうございます!
──そもそも、イワサキ・ビーアイさんにはどういう注文をしたんですか?
担当編集 「こういうのやりたいんですけど……」って、最初はおそるおそる聞いたんですよ。イワサキさんは基本的に創作の仕事はやられてないので「ウチはそういうのわからないです」って言われるかと思ったので。だからイワサキさんがどこまでできるのか、何ができるのか全然わからなかったこともあって、「こうしたい」じゃなくて「どうしましょう」って相談するところからでしたね。まず食品サンプル自体の作り方として「実際の食べ物から型を取ってる」っていう話をしてもらうところから始まって、「私たちが作りたいのは架空の食べ物です」という話をしたら、「じゃあ歩き茸はエリンギで流用しましょう」「こっちの食材はアレでいけるかも」みたいなアイデアをどんどんくださったので頼もしかったですね。
──なるほど、そうやってあるものを応用して作るんですね。
食品サンプルは日本独特の文化
担当編集 「餅は餅屋」ってことですね。そもそも今回の企画の発端は宣伝部の人が「食品サンプルを作りましょう」ってパンフレットを持ってきたところからなんです。食材がたくさん出てくるマンガだから食品サンプルを作ろうと。料理の立体化って、ほかにやってるとこもないだろうし。
──「食べ物を扱うマンガの食品サンプル」って、ありそうでなかったですよね。そもそもほかのグルメマンガに出てくる料理をサンプルで作っても面白くはないので、架空の食材を扱う「ダンジョン飯」ならではだと思います。
担当編集 それからパンフレットとか見て調べると、たしかに技術がすごいんですよ。宣伝部の人にも「日本の技術の粋を集めた、外国にも人気のある文化ですよ!」って熱弁されて(笑)。日本の作品だし、それなら海外にない食品サンプルという文化で立体化しようと。
中田 そうですね、外国には食品サンプルがない国が多いです。韓国、中国、メキシコあたりには会社があったりもするんですけど、細かい作業ができるのは日本人独特みたいですね。
担当編集 九井さんも実物を見て喜んでました。このあとこの完成品も見せますけど、またさらに喜んでもらえると思います。食品サンプルって見てるとテンション上がりますよね(笑)。写真には写らないオーラがあるし、ずっと眺めてられますね。
──写真でしか伝えられないのが残念です。
担当編集 そうなんですよね。実物はなんというか、伝わってくる情報量がすごい。これはポスターに使ったあと、大きな本屋さんに貸し出すのでぜひ読者の方にも見てほしいです。ポスターには間に合わなかったんですけど、このあと3料理分ぐらい作ってもらう予定で、ミミックとか、宝虫のジャムが見てみたいという話をしてるところなので。
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