1981年に週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載がスタートし、日本だけに留まらず世界中のサッカー文化に影響を与え続けている高橋陽一「キャプテン翼」。同作はグランドジャンプ(集英社)にて連載中の最新シリーズ「キャプテン翼 ライジングサン」6巻をもって、通算100巻に到達した。
コミックナタリーでは100巻到達を記念し、高橋にインタビューを実施。ワールドカップという言葉すら浸透していなかった1980年代の思い出から、少年ジャンプ連載時の裏話、「ライジングサン」や今後の展望について語ってもらった。
取材・文 / 松本真一 撮影 / 佐藤友昭
連載開始当時は「ワールドカップ」という言葉すら浸透してなかった
──「キャプテン翼」はこのたび発売された「ライジングサン」6巻で、シリーズ通算100巻に到達しました。まずは率直な感想をお願いします。
もうすぐ100巻に到達すると聞いたときは、「長く描いてるな」と素直に思いましたけど、それぐらいですね(笑)。100巻を目標に描いていたというわけではないので。ただ「『こち亀』の200巻が発売されます」とか、「『ゴルゴ13』が新刊で百何巻になります」って話題がたまに出るじゃないですか。そういうのを聞いたときに、「『翼』は今何冊だろう?」とはちょっと考えていました。
──1つのスポーツをテーマにしたマンガで100巻というのはかなり珍しいと思うんですが、ご自身では長く描き続けられた秘訣はどこにあると分析されていますか。
登場人物のキャラクターとしての強さが理由なのかなと思っています。彼らの魅力が読者にとってまだ色あせてないのかなと。作者が自分で言うのもなんですけど(笑)。
──翼くん以外にも、主役級のキャラクターがたくさんいますしね。
はい。これまでにも日向小次郎だったり葵新伍だったりと、ときには彼ら中心のストーリーもいろいろと描いてきましたから。
──今日はシリーズ100巻記念ということで、最初の「キャプテン翼」のお話から振り返っていければと思います。連載がスタートした1981年は、日本にはまだJリーグもなく、当然サッカー文化は根付いていなかったですね。
そうですね。僕自身も野球少年でしたし……(笑)。
──今あらためて1巻を読むと、翼が母親に「どうして日本はサッカーがそんなにさかんじゃないの」と尋ねるシーンがあったり、「ワールドカップ」という単語に対して解説が掲載されていたりと、当時のサッカーを取り巻く状況が今とまったく違うことに気付いて驚かされます。
「ワールドカップ」なんて、あまり浸透してない時代でしたから。とはいえ、サッカーというスポーツ自体は学校の体育の授業でもやりましたし、それほど奇抜でマイナーなスポーツではなかったですね。だけど大ヒットしたサッカーマンガは当時まだなかったと思います。
──そんな状況の中、サッカーを題材にした作品を描いたのはなぜでしょうか。
一番大きかったのは高校生のとき、1978年のワールドカップアルゼンチン大会を観たことです。当時は僕自身もサッカーの知識はなく、単純にただのスポーツ好きとして観ていたんですけど、すごく面白くて。その頃にはもうマンガ家を目指していて、野球ものを描いていたんですが、サッカーを題材に、ワールドカップで観たサッカーの魅力を伝えられないかなと思ったんです。
自分でやりすぎだと思ったシーンは……
──「キャプテン翼」の連載を始めて、手応えを感じ始めたのはどのあたりでしょう。
最初の南葛小と修哲小の対抗戦を描ききったくらいで、「サッカーマンガってこう描けば大丈夫かな」というのがなんとなくつかめた感じがあります。あと序盤は読者アンケートの結果があまりよくなかったんですが、翼がオーバーヘッドキックをした回で人気がグッと上がったんです。そこで「読者はこういうものを求めていたのか」と気付きました。
──やはり少年マンガにはそういった必殺技というか、スーパープレイが重要なんですね。
そこは日本の伝統的なスポーツマンガの流れですよね。「巨人の星」なら大リーグボールとか。僕はそういう必殺技を子供の頃から素直に受け入れて、面白いなと思って読んでましたから。それをサッカーに置き換えたイメージですね。
──例えばコンクリートの壁にめり込むほどの威力の日向くんのタイガーショットや、火野が1回転して放つトルネードシュートを見ると、やはり読んでいてテンションが上がります。
とはいえ現実からあまりかけ離れてしまうのもよくないなと思ったので、さじ加減は難しかったです。やろうと思えばどんどんエスカレートしちゃうところではあるんですけど、やりすぎると超人マンガになってしまうかなと思ったんで。
──ちなみに必殺技は、どういうところから着想を得ているんですか。
自分が今まで見てきたマンガからっていうのもありますけど、サッカー以外のほかのスポーツが多いですかね。
──タイ代表のコンサワット3兄弟はセパタクローの技を使います。必殺技の大空中ローリングスパイクはちょっとセパタクローの域を超えていますが……。
若嶋津は空手の手刀や正拳突きを使いますし、立花兄弟の合体技・スカイラブハリケーンはプロレスのタッグマッチを見て思いつきました。
──メキシコ代表にはルチャ・リブレの選手がいてプロレス技でチームメイトを空中に投げたり、タイの元ムエタイ選手・ブンナークはボールごと腹を蹴って翼くんを失神させたり、意外と格闘技系の技を使う選手も多いですよね。
最近はそうでもないですけど、昔はプロレスもよく観に行っていたので。実況の「あーっと!」っていう部分も、古舘(伊知郎)さんから影響を受けていますし。
──なるほど。「キャプテン翼」に登場する技で、ご自身でお気に入りのものはありますか。
中国の肖俊光(しょうしゅんこう)の、反動蹴速迅砲が意外と好きです。相手のシュートを打ち返すことでより威力を増すという。
──若林の「ペナルティエリア外からのシュートは必ず止める」という伝説を破った技ですね。個人的にはスペインのミカエルのあのドリブルが衝撃だったんですが……。
ボールに勢いを付けておいてそれに乗るっていう技ですね。
──どういう発想から誕生した技なんでしょうか。
あれは……ボールに乗れたら楽しいだろうなと思って。スーって(笑)。
──なるほど……(笑)。ちなみに「キャプテン翼」はJリーグとのコラボ企画として、カミソリシュートや反動蹴速迅砲を現役Jリーガーが再現していましたよね(参照:キャプ翼の技をJリーガーが再現、第1弾はカミソリシュート)。あのドリブルもいつか現実でも登場することを祈っております。ちなみに作中の技で、「これはやりすぎたな」というものはあったりするんでしょうか。
あります(笑)。スカイラブハリケーンもちょっとやりすぎかなと思うんですけど、それを防ぐために来生と滝がゴールの上に登ったのはよくなかったですね。そもそも反則なので(笑)。
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翼がゴールを決める回は、絶対に人気を取らなきゃいけない
- 高橋陽一「キャプテン翼 ライジングサン⑥」
- 集英社
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- 高橋陽一(タカハシヨウイチ)
- 1960年7月28日東京都生まれ。1980年週刊少年ジャンプ(集英社)にて読み切り版「キャプテン翼」でデビューを果たす。翌年同誌にて「キャプテン翼」の連載がスタートするや日本中にサッカーブームが巻き起こり、アニメ化、映画化、ゲーム化と幅広いメディアミックス展開が行われた。同作はアニメの海外放映をきっかけにその人気が世界にまで広がり、国内外問わず、「キャプテン翼」がきっかけでサッカーにのめり込んだプロ選手も数多い。2013年からはグランドジャンプ(集英社)にてシリーズ最新作「キャプテン翼 ライジングサン」を発表している。なお「キャプテン翼」を原作とした舞台「超体感ステージ『キャプテン翼』」が、8月18日より東京・Zeepブルーシアター六本木にて上演される。
©高橋陽一/集英社