コミックナタリー Power Push - 「僕だけがいない街」
藤原竜也が見つけた、物語の底にある郷愁 NON STYLE井上が語る悟の中のヒーロー
三部けい原作による実写映画「僕だけがいない街」が、3月19日に公開される。これを記念してコミックナタリーでは、前後編の特集を展開。前編では主人公・藤沼悟の青年期を演じた藤原竜也のインタビューを実施する。これまでマンガ原作の映画をいくつも成功へと導いてきた藤原が、どのように本作の撮影に臨んだかを聞いた。また三部から藤原へのメッセージも併せて掲載する。
後編では「僕だけがいない街」ファンのNON STYLE井上裕介が登場。映画の見どころを語ってもらうインタビューを行った。
取材・文 /大谷隆之(P1~2)、淵上龍一(P3~4) 撮影 / 佐藤類
- 「僕だけがいない街」あらすじ
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周囲で〈悪い出来事〉が起こると時間が巻き戻り、その事件を未然に防ぐまで同じ場面を何度も繰り返す不思議な現象「リバイバル(再上映)」に悩まされている青年・藤沼悟(藤原竜也)。とある事件に巻き込まれた彼は、その元凶と対峙するため「リバイバル」で小学生時代まで時間を逆行してしまう。起きてしまった悲惨な事実を覆すため、悟の戦いが始まる……。
- 主演・藤原竜也はマンガ原作のヒットメーカー!?
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主人公・藤沼悟の青年期を演じる藤原竜也。普段あまり映画を見ないという人でも、コミックナタリー読者であれば彼がスクリーンで活躍する姿を一度は目撃しているかもしれない。「マンガの実写化といえば藤原竜也」と評判が立つほど、藤原の活躍は注目を受けている。
「カイジ」シリーズの伊藤開司、「DEATH NOTE デスノート」シリーズの夜神月、近年では「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」の志々雄真実を演じたことも記憶に新しい。いずれも原作マンガの知名度が高いことはもちろんだが、実写化作品も大ヒットを記録。「主演・藤原竜也」というキャスティングが映画・マンガファンの間では安心のブランドとなりつつある状況だ。
また「借金を返すため命がけのゲームをするクズ男」「ノートひとつで大量殺人をするカリスマ犯罪者」「剣から火が吹き出す剣士」など、これまで演じてきた役の異色さも彼が注目を浴びる要因のひとつ。映画配給会社のワーナー・ブラザース映画は、「藤原竜也さんの壮絶な人生」として過去の出演歴を定期的にまとめTwitterに投稿しており、話題を呼んでいる。「僕街」では「リバイバル(再上映)」でタイムリープと、また藤原の「壮絶人生」にひとつ大きなトピックが追加された。
藤沼悟役・藤原竜也インタビュー
ベースに温かい“郷愁”を感じる物語
──藤原さんは今回の出演が決まり、初めて「僕だけがいない街」の原作マンガを手にされたそうですね。物語に引き込まれ「ページをめくる手が止まらなくなった」と伺いました。どこにそこまで魅力を感じられたのでしょう?
読む前はミステリーの印象が強かったので、自分でも少し意外だったんですが、一番大きかったのは“郷愁”かもしれませんね。もちろんストーリーもすごくよく練られている。いろんな伏線が緻密に張りめぐらされているし、予想もしなかった事件が次々起こります。ただ、そういう展開の面白さだけじゃなく、物語のベースに温かいものを感じるんです。たとえば1巻の最後、主人公の藤沼悟が「リバイバル」で小学校時代まで引き戻されるでしょ。あの見開きページの、どんより曇った空に雪がチラついてる感じとか……。
──読み手を引き込む、印象的なショットでしたね。
あるいは小学校のクラスメイトとの、何気ない会話だったりね。この物語では、悟の故郷は北海道という設定ですけど、僕も埼玉県の田舎で育ったんで(笑)。「自分も小学校時代はこんな感じだったなあ」と、どこかシンパシーを感じてしまう。全編、そういう懐かしさを感じながら読んでいました。キャラクターの心理描写にも深みがありますよね。
──具体的には、どういう描写が記憶に残っていますか?
いろいろありますが……たとえば、雛月加代が家庭内で抱えてる孤独とか絶望。単純にショッキングなだけじゃなく、まだ幼い彼女が、母親に気を遣っている感じが繊細に描かれているでしょう。だから余計悲しくなる。物語内で「リバイバル」した悟は、外見的には小学生だけど意識は29歳なので。そういう状況もよく見えるんですよね。で、かつては防げなかった連続誘拐殺人事件を止めることで、自分の母親が殺されてしまうという目の前の現実を変えようとする。そういう一連の流れすべてが興味深かったです。
撮影が始まったら、一度スパッと原作は遮断する
──ちなみにマンガは、普段からよく読まれます?
いえ、むしろ全然読まないほうだと思います(笑)。だから、こんなにハマッて一気読みする体験は新鮮だったんですよ。周囲にはマンガやアニメが好きな友達も多くて。毎月、膨大な量を読みあさってたりする。実際、僕が知らないところでこんな面白い作品が出てたわけなので……。今回、ちょっと反省しました。もう少しアンテナを伸ばして、自分から手を伸ばさなきゃなって。
──映画界から見ると、マンガはもっとも魅力的な原作のひとつとも言えますね。藤原さんも「DEATH NOTE デスノート」シリーズ(2006)や「カイジ」シリーズ(2009、2011)など大ヒットマンガの映画版で主演を務められていますが、俳優としては何か特別な思いがあったりするんでしょうか?
役者ごとにいろんなアプローチがあるでしょうが、僕自身は努めてフラットに接するようにしてます。原作は原作として、しっかり読んで受け止める。ただ、俳優として参加する場合は、どこかで一度その印象をリセットして……。要は、実写オリジナルの作品と同じように、いわばまっさらな状態からキャラクターを立ち上げる作業が大事だと思うんです。そもそもマンガと映画って、まったく別のジャンルじゃないですか。紙の上では何の違和感もなく成立する表現……なんだったらダイナミックに思えるような“飛躍”が、実際に映像化した途端にピンとこなくなるケースって多々ありますから。表面的にルックスとか表情を似せるだけだとかえって原作の魅力を損なってしまう。でも、だからといって自由に解釈していいかというと、そうとも限らなくて……。
──キャラクターの芯というか、エッセンスは外しちゃいけない。
そうですね。どこまで行っても、最後に戻るべきはここ(マンガ原作)なんですよ。僕は台本を読んで迷ったら、原作に立ち戻ることが多い。該当するコマを見て「なるほど、この場面の心情ってこんなニュアンスなのか……」とか、役作りの参考にしています。要は、ヒントはいっぱい詰まってる。ただし、完全にすり寄ってしまうと、かえってつまらなくなるリスクも含んでる。そのへんのバランス感覚はけっこう微妙で、いまだに毎回悩んでます。ただ僕の場合、撮影が始まった段階で、一度スパッと原作を遮断するようにはしています。でないと永遠にキャラクターが定まらず、現場が回っていきませんから。
──いったん咀嚼したうえで、意図的に忘却するイメージでしょうか?
だと思います。そこがマンガ原作ものの難しさであり、面白さでもあるんじゃないかな。もちろん映画は1人で作るものじゃない。監督によっては「ここはこう演じてください」と明確なイメージをお持ちの方もいるし。ひとつのマンガが実写映画として世に出るには、いろんな立場の人の、いろんな思惑が関わってきます。ただ僕自身がマンガの登場人物を演じるスタンスは、どれも基本的に一緒。そこは今回の「僕だけがいない街」も同じですね。
──原作にリスペクトを払いつつ、いったん人物像をリセットして実写向けに再構築されるわけですね。「原作を超えてやろう」とか、たまに野望を抱いたりしませんか(笑)。
まったくないです(笑)。今回、ひとつイレギュラーな要素を挙げると、僕が原作を読ませていただいた段階ではまだストーリーが完結してなかったんですよ。そこは脚本家の後藤(法子)さんはじめ、スタッフがすごく苦労した部分だと思うし。マンガとはまたひと味違う「僕だけがいない街」を楽しんでいただけるとうれしいなと思いますね。
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- 原作:「僕だけがいない街」三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
- 監督:平川雄一朗
- 脚本:後藤法子
- プロデューサー:春名慶
- キャスト:藤原竜也、有村架純、及川光博、杉本哲太、石田ゆり子ほか
- 配給:ワーナー・ブラザース映画
©2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会
藤原竜也(フジワラタツヤ)
1982年生まれ、埼玉県出身。蜷川幸雄に見出され、「身毒丸」のオーディションに合格し、ロンドンで初舞台を踏む。以降、舞台、映画、TVドラマ、CM など幅広く活躍する。主な出演 作に、「バトル・ロワイアル」「DEATH NOTE デスノート」「カイジ 人生逆転ゲーム」「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」「カイジ2 ~人生奪回ゲーム~」「I’M FLASH!」「藁の楯 わらのたて」「サンブンノイチ」「MONSTERZ モンスターズ」「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」など。
Blu-ray&DVD発売中
- 「カイジ 人生逆転ゲーム」
© 福本伸行・講談社/2009「カイジ」製作委員会 - 「カイジ2 人生奪回ゲーム」
© 福本伸行・講談社/2011「カイジ2」製作委員会 - 「DEATH NOTE デスノート」
©大場つぐみ・小畑健/集英社
©2006「DEATH NOTE」FILM PARTNERS - 「DEATH NOTE デスノート the Last name」
©大場つぐみ・小畑健/集英社
©2006「DEATH NOTE」FILM PARTNERS
2016年4月18日更新