「横浜ダンスコレクション2019」 エラ・ホチルド(振付家)×大巻伸嗣(現代美術家)「Futuristic Space」|人間は退化しているのではないか? 数千年後の未来を描きながら現在を問う

「Liminal Air」も出演者の1人に

──「Futuristic Space」は時間と空間のさまざまなベクトルが同居する作品となりそうです。例えば「Liminal Air」自体は重力を感じさせない作品ですが、ダンサーは重力に逆らうことはできませんし、悠久の時間を描く「Liminal Air」と、ある時間の中でストーリーをたどる「Futuristic Space」がどのような化学変化を生み出すのか、期待が高まります。

ホチルド 私の作品では、とあるシチュエーションは描かれますが、それがサイクルのように続くというか、明確な始まりと終わりがあるわけではなく、何かが終わるとまたそこから新しい何かが始まるというような展開になっています。またダンサーについても、私は動きを探求する中で無重力や光になることもできると思っていますので、今回のコラボレーションによって何が起きるのか、私自身非常に楽しみに感じています。

大巻 今回僕は、舞台装置とか舞台背景を作ろうとは思っていなくて、エラのクリエーションに参加する1人の出演者として、一緒に舞台にいたいと考えていて。まあ実際に参加するのは僕じゃなく僕の作品なので、仮に“彼”と呼んでおきましょうか(笑)。“彼”が、物とかプログラミングを超えた存在になっていけば、より新しい発見になる気がするので、それが楽しみです。

──キャストは日本人ダンサーとイスラエル人ダンサーの混成チームとなりました。メンバー選びで留意したことはありますか?

エラ・ホチルド

ホチルド 今回、特にオーディションをしていなくて、ただダンスだけではなくいろいろな分野にまたがって活動している人を探しました。それでイスラエルから1人、日本から4人のアーティストを選びました。日本拠点のダンサーは国内外でさまざまなプロジェクトに関わっていたり、自分のカンパニーを持っていたり、さまざまです。それぞれ身体能力が非常に優れていて、いろんなことができる人、そして人間としても私が興味深いと思った人たちを選びました。また今回のステージではさまざまな情報の洪水があるので、そういった私の世界観に共感してくれる人、オープンマインドな人を選びました。イスラエルのダンサーは、これまでの私の作品にも出演し、私と一緒にバットシェバ舞踊団でもともと踊っていたダンサーです。またミュージシャンも参加しているのですが、いろいろな楽器が弾けてなおかつ踊れるアーティストです。未来を描いた作品なので電子楽器とか電子音楽もできる人を起用しました。

──1月上旬から兵庫・城崎国際アートセンターで滞在制作されます。大巻さんも稽古場にいらっしゃる機会があるでしょうか?

ホチルド 温泉に浸かりに来たらいかがですか?

大巻 (即答で)行きます!(笑)

横浜はクリエーションの扉を開けてくれる場所

──大巻さんは2008年の横浜トリエンナーレをはじめ、17年には「YCC Temporary 大巻伸嗣」にて、横浜の歴史と記憶をテーマにした作品「Echoes-Genius Loci」を発表されるなど、横浜で多数作品を手がけています。またエラさんは、森山未來さんとの共同振付作品「JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治『駈込み訴え』より~」を横浜で発表されたほか、ワークショップも展開されています。お二人にとって横浜とはどういう場所でしょう?

ホチルド 横浜は私にとってクリエイティブで、ホームのような場所です。赤レンガ倉庫のスタッフの方々とは15年に「JUDAS,~」でご一緒して以来、関係性を深めてきましたし、場所とのつながりを個人的にも育ててきて、自分にとっては家にいるような気持ちになれる場所。またクリエーションの扉を開けてくれる場所でもあって、ここでさまざまな才能に恵まれた日本拠点のアーティストと出会うことができました。そういうきっかけになっている場所でもあります。

大巻伸嗣

大巻 横浜は関東大震災や戦争を経験し、その過去を振り返りながら現代を作ってきたけれど、次の時間軸が描けないまま、再び閉じた空間になりつつあると感じていて。その点で、赤レンガ倉庫のように歴史もあり発信力もある場所で、もう一度未来へ目線を飛ばしていけるような発言ができればいいんじゃないかと思います。と言うのも今、未来を見るということが難しい状況にあると思っていて。あらゆるものが飽和状態で、なのにどんどん新しいビルが建って、過去が見えなくなってきている。しかも未来がすごくフラットな、白で塗り重ねられて見えなくなっている世界のように感じます。そういった中で、自分たちが多少なりともアクションを起こし、そんなに遠くは無理かもしれないけど、100年後くらいは想像できるようなイメージが作り上げられればいいんじゃないかと。また劇場も美術館もいろんなアミューズメントと同一化されて、フラットになっていっていると思うんですが、ちょっと意識を持ち直せれば未来がもう少し見えてくると思いますし、AIをはじめ人間はいろいろなことができるようになったように感じるけど、実はどんどん、1つのことでいっぱいいっぱいの、多様性を意識して生きられない、退化した人間になっているのではないでしょうか?ということを「Futuristic Space」は問いかけていると思うので、この作品を通してそういった意識を持てる人が生まれてくれたらいいなと思います。

ホチルド 未来を問うということは、現在についても考えるということだと思うんですね。現代はみんなが急いでせかせかして、感情に蓋をしてしまっていることがある。でも少し立ち止まって自分の感情を感じることが、未来につながっていくと信じています。

左から大巻伸嗣、エラ・ホチルド。

──本作は今回が世界初演となります。今後の展開について、もしイメージがあれば教えてください。

ホチルド この作品を育てていって、日本各地はもちろん世界や、可能ならイスラエルでもやってみたいですが……まずは今回の世界初演を無事迎えられるように、と思っています(笑)。

大巻 強いメッセージを持った作品ですから、イスラエルはもちろん、世界ツアーができたらいいですね。ただ作品がツアーするうえで何が大事かというと、作品が観客に何を教えるかではなく、むしろその作品に関わった人たちが多様性について考える機会を与えられることだと思うんです。例えば場所によってパフォーマーやスタッフが変わっていく可能性がある。そういったとき、互いの違いを体感して、そこで生じた問題をどうやってクリアしていくか。作品を通して、そういったことを考える場を与えてもらえればうれしいです。

2019年1月31日(木)~2月17日(日)
神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館、
横浜にぎわい座 のげシャーレ
エラ・ホチルド「Futuristic Space」
2019年1月31日(木)~2月3日(日)
神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

振付・演出:エラ・ホチルド

美術:大巻伸嗣

音楽:ゲルション・ヴァイセルフィレル

出演:大宮大奨、笹本龍史、鈴木竜、湯浅永麻、ミハル・サイファン

エラ・ホチルド
イスラエル、アイン・ヴェレド生まれ。イスラエルを代表するダンスカンパニーであるインバル・ピント&アヴシャロム・ポラック・ダンスカンパニーとバットシェバ舞踊団でダンサーとして活躍。現在は振付家・ダンサーとして活動を展開している。2013年にベストパフォーマンスダンサーとしてDudu Dotan賞を受賞。15年にはベストコレオグラファーとしてOphirシアター賞にノミネート、16年にテルアビブ市より有望なクリエイターに贈られるRosenblumパフォーミングアーツ賞と文化賞を受賞。日本ではミュージカル「100万回生きたねこ」(13年)のクリエーションに参加したほか、森山未來との共同振付作品「JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治『駈込み訴え』より~」を上演している。
大巻伸嗣(オオマキシンジ)
1971年岐阜県生まれ。東京都在住。トーキョーワンダーウォール2000に「Opened Eyes Closed Eyes」で入選以来、「Echoes」シリーズ、「Liminal Air」「Memorial Rebirth」など展示空間を非日常的な世界に生まれ変わらせ、鑑賞者の身体的な感覚を呼び覚ますようなダイナミックなインスタレーション作品やパブリックアートを発表している。