ラストだからといって“お祭り”にはしない
島村 この機会に、ぜひ先生に聞いてみたいことがあるのですが、先生ご自身もロードレースをやっていらっしゃいますけれど、先生が「弱虫ペダル」に登場するとしたら、どんなキャラクターになると思いますか?
渡辺 脚質がオールラウンダーか、クライマーか、スプリンターか、みたいなことですよね? 僕は登りが好きなんですけど、別に速くはない。スプリントもやっていて楽しいけど、勝てるわけではない。全部ほどほどなんですよ(笑)。でもやっぱり好きなのは登ることですね。坂道くんもクライマーですが、性格的にも僕自身のパーソナリティがかなり反映されているキャラクターだと思います。そういえば、イベントで読者の方にサインをするとき、「坂道くんを描いてください」と言われることがあまりないんですよ(笑)。
鯨井・島村 えー!?
渡辺 その理由を考えたとき、みんな坂道くんを媒体にして、巻島(裕介)さんだったり荒北(靖友)さんだったり、ほかのキャラクターを好きになるんだということがわかったんです。坂道くんはもうすでにみんなの心の中にいるから、あえて意識することはないんじゃないかなって。最近は、すべての源流が坂道くんにあるということに気付いてくれたファンの方が「坂道くんを描いてください」と言ってくれることが増えてきてうれしいです(笑)。
──逆に、渡辺先生は別のフィールドで活躍するお二人に聞いてみたいことはありますか?
渡辺 自分で描いておいて申し訳ないんですけど、「弱虫ペダル」って長ゼリフが多いんですよ(笑)。皆さん、あの量のセリフをどうやって覚えているんですか? 最初にセリフを覚えるのか、動きをつけてからセリフを覚えるのか……。
鯨井 龍乃介はどうやって覚えてる?
島村 僕はまずシーンごとのセリフを頭に入れます。そのあと動きとセリフをリンクさせて完成させるイメージです。鯨井さんはセリフの入りがすごく早い印象があるのですが、どうやって覚えてますか?
鯨井 僕は“アンキパン”を使ってます。
島村・渡辺 ははは!
鯨井 というのは冗談で(笑)、好きな歌っていつの間にか歌詞を覚えてるじゃないですか。それと同じ理屈で、セリフに対してポジティブな感情が芽生えると覚えやすいと思うんです。また龍乃介が言っていたように、フィジカルとリンクさせるとセリフの入りが早い気がしますね。テキストと向き合うという意味では大切な時間なんですが、家で台本を読んでいる時間が一番つらいです(笑)。
渡辺 そうなんですね! 俳優の皆さんはもちろんすごいと思うんですけど、「照明さんとか音響さんもタイミングピッタリやん! すごい!」と思いながらいつも観ています。
鯨井 照明も音響も、1公演につき1000以上のキューがあって……要するに照明さんや音響さんは2時間ほどの間に1000回以上ボタンを押しているんです。
渡辺 えっ、そんなに!?
鯨井 スタッフさんから「鯨井くん、こんなにたくさんキューがあるけど、どういうことかな?(笑)」とお叱りを受けることもあるんですけど、「でも、これをやっていただくことによって、カッコいい舞台に仕上がるので……!」とお願いして(笑)。照明さんや音響さんは、通し稽古や場当たりのタイミングまで実際のオペレーションができないので、普段は稽古動画を観ながら練習してくださっているんです。実はペダステの舞台裏には、我々が「ライディングが苦しい!」と嘆いてはいけないくらい大変な思いをしている方々がいるんですよ。10年以上ペダステを支えてくださっているプロフェッショナルの方ばかりで、本当に頭が上がりません。
渡辺 その職人技を見られるのも今回の「Over the sweat and tears」が最後。ペダステのキャスト・スタッフの方々が築き上げてきた歴史を、目に焼き付けてもらいたいですね。
鯨井 ただ僕は、「Over the sweat and tears」でインターハイ神奈川県大会3日目のエピソードが描かれるように、時を同じくしてペダステもゴールを迎えるだけ、とも思っていて。ラストだからといって“お祭り”にはせず、とにかく全力でインターハイ3日目のゴールを目指します。観客の皆さんも手に汗をにぎって、彼らのレースを温かく見守っていただけるとありがたいです。
島村 僕も鯨井さんと同じ気持ちで、まずはインターハイ3日目を完走することを目標にしています。初めてペダステを観る方や「THE DAY 1」「THE DAY 2」を見逃してしまったから心配、という方もいらっしゃると思うのですが、「Over the sweat and tears」からでも楽しんでいただける作品になっているので、ぜひ劇場へ足を運んでペダステの熱さを感じていただけたらうれしいです。
渡辺 島村さんも言ってくれたように、前作までのおさらいをする“おいしいところダイジェスト”が舞台の序盤に入るので、初めて観る方も安心してください。実は僕、あのシーンがけっこう好きで、毎回「めっちゃ親切やん!」と思いながら観ているんですよ(笑)。「実現できるわけないよ!」と言われていた舞台がここまで成長して、皆さんに愛されているというのは、原作者として本当にありがたいことです。島村さん演じる坂道くんがゴールする瞬間を、僕も楽しみにしています。
プロフィール
渡辺航(ワタナベワタル)
長崎県生まれ。2001年に「サプリメン」が「マガジンSPECIAL」(講談社)に掲載されデビュー。2008年に「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で「弱虫ペダル」の連載を開始。同作は舞台化、テレビ・劇場アニメ化、テレビドラマ化や実写映画化など多数のメディアミックスを果たしている。現在は「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)にてスピンオフ作「弱虫ペダル SPARE BIKE」も連載中。
弱虫ペダル/弱虫ペダル SPARE BIKE(スペアバイク)【公式】 (@pedalofficial) | X
鯨井康介(クジライコウスケ)
1987年、埼玉県生まれ。「舞台『弱虫ペダル』」には、2016年の「舞台『弱虫ペダル』~総北新世代、始動~」から参加し、手嶋純太役を務めた。2016・2017年に放送されたテレビドラマ「弱虫ペダル」「弱虫ペダルSeason2」でも同役を演じている。2022年の「舞台『弱虫ペダル』The Cadence!」からは演出を担当。
島村龍乃介(シマムラリュウノスケ)
2002年、大阪府生まれ。2017年、「HORIPRO MEN'S STAR AUDITION」でファイナリストに選ばれ、テレビドラマ「TWO WEEKS」でデビュー。2022年の「舞台『弱虫ペダル』The Cadence!」で初舞台にして初主演を務めた。ペダステには、「The Cadence!」(2022年)から参加。近作に舞台「ジャンヌ・ダルク」傭兵ケヴィン役、テレビドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」鎌田亮介役、テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル「生きとし生けるもの」成瀬翔の高校生時代役、テレビドラマ「特捜9 season7」新田春斗役など。