Vol.Mが8年ぶりに再始動!共鳴する表現者、松岡充・丸尾丸一郎・街裏ぴんくが語る「UME -今昔不届者歌劇-」 (2/2)

作り手にもまだわからない、得体の知れない作品「UME」

──「UME -今昔不届者歌劇-」では、轢き逃げ事件で妻を殺された男・梅本と、徳川吉宗の物語が交差するスリラー復讐劇が展開します。「不届者」を「UME -今昔不届者歌劇-」として上演するにあたって、どのような部分をアップデートされるのでしょうか?

丸尾 何と言っても音楽ですね。今、絶賛歌詞を書いているところなのですが、「UME -今昔不届者歌劇-」では20曲以上のナンバーが披露される予定です。音楽の力を借りることによって、登場人物たちのエピソードがより強固なものになるのではと思っています。

松岡 丸くんが書く作品は、さまざまな要素が複雑に絡み合っていて、奥行きがある。しかも丸くんには、それをお客さんに伝えられるだけの力があります。でも、言葉だけでは伝えきれない内なる思いもあるから、僕らはその部分を担って、自分なりの表現で言葉を音楽に乗せて伝える。そういう意味で、ぴんくさんもBeverlyも表現者として心強い共演者だと思います。

松岡充

松岡充

──フィリピン出身のシンガー・Beverlyさんも、ぴんくさんと同様に、松岡さんからキャスティングの提案があったと伺いました。Beverlyさんは劇中で、松岡さん演じる梅本の妻・マリアや、物語の舞台となるキャバクラで働く女性・テレサをはじめとする4つの役を演じ分けます。

松岡 Beverlyは本当にパワーを持っているアーティストで、名だたる大御所の方々がみんな彼女の才能に惚れ込んでいるんです。Beverlyとは「超英雄祭 KAMEN RIDER × SUPER SENTAI LIVE & SHOW」というイベントでたびたび共演してきたんですが、Beverlyがステージに登場すると、彼女の一挙手一投足から目が離せなくなる。そんな優れたアーティストの力を借りない手はないですよね。実際に話をしてみたら、実は以前からミュージカルをやりたかったそうで。彼女はフィリピン出身ということもあり、日本語のミュージカルに挑戦するのを躊躇していたらしいのですが、舞台初挑戦となる今作でその歌声と人間性で観客を魅了すると思います。

丸尾 先日、松岡さん、ぴんくさん、Beverlyさんのビジュアル撮影があり、空き時間にBeverlyさんに曲を歌ってもらったんですよ。ほんの少し彼女の曲を聴いただけで、すぐに引き込まれてしまって……。以前、OFFICE SHIKA PRODUCEの作品や「『家庭教師ヒットマンREBORN!』the STAGE」でご一緒した雷太、山田ジェームス武、仲田博喜くん、今回が初めましての阪本奨悟くん、大平峻也くん、藍染カレンさん、「不届者」にも出演した劇団員の橘輝と、本当に楽しみなメンバーが集まりました。僕が「不届者」で演じた保険屋の角田や徳川家継などの役は、今回はぴんくさんに担っていただきます。ぴんくさんには、台本から飛び出すように、好きなように暴走してもらいたい!

左から丸尾丸一郎、松岡充、街裏ぴんく。

左から丸尾丸一郎、松岡充、街裏ぴんく。

街裏 重要な役割をいただけてありがたい反面、台本を読んで何回も「このセリフ量、マジで……!?」と思いました(笑)。

松岡 大丈夫、大丈夫。ぴんくさんなら絶対できます。ぴんくさんが演じる役どころは、時折悪魔になったり、天使にもなるようなキャラクター。今回は丸くんではなくぴんくさんが演じるので、僕の芝居の立ち上げ方も前回とはまったく異なるものになるんじゃないかと現段階で感じています。早く稽古に入りたいですね。

丸尾 松岡さんの出演作を観て思ったんですが、松岡さんって、“受け”の芝居が上手ですよね。自分から感情を発露するシーンはもちろんですが、相手の芝居を受けているときに、より一層キャラクターの心情が伝わってくる。ぴんくさんが先ほど「松岡さんはスターだ」とおっしゃっていましたが、“受け”の芝居をしているときの松岡さんって、顔にフォーカスが当たって見えるんですよ。これは松岡さんの生まれ持った才能なのかなって。

松岡 ほんま? これからは“受け俳優”代表としてやっていこうかな(笑)。

──「UME -今昔不届者歌劇-」で松岡さんが演じる梅本は、妻の生命保険の受取人の名義が書き換えられたことで、保険金詐欺を疑い、とあるキャバクラに潜入します。何者かによって描かれた“復讐のシナリオ”に導かれ、騒動に巻き込まれていく役どころなので、松岡さんの力が存分に発揮されるのではないでしょうか。

丸尾 そうですね。そして、タマネギの皮がむけるように、梅本たちを取り巻く真実が次第に明らかになっていきます。Beverlyさんのソロパート、松岡さん扮する梅本とぴんくさん演じる角田が対峙するシーンは、特に演出するのが楽しみな場面ですね。ちなみに、そのシーンではぴんくさんに早速歌ってもらおうと思っています(笑)。

丸尾丸一郎

丸尾丸一郎

街裏 そうですよね。僕、Beverlyさんのあとに歌わなアカンやん! どないしよ!と思っていました(笑)。

丸尾 ぴんくさんのお芝居だけでなく、歌唱シーンも楽しみですよね。「UME」がどんな作品になるのか、僕らにもまだわからない。「UME」というタイトルもなんだか得体が知れなくて良いでしょ?(笑) 海外へ持って行くことを想定して、海外の観客にも伝わりやすいように「PLUM」が良いんじゃないかという案も出たんですが、松岡さんから「『UME』のほうが意味が取りづらいから、『UMEって一体何だ……?』と逆に興味を持ってもらえるかもしれない」という意見をいただいて、最終的にこのタイトルになりました。

1作品1作品に命をかける

──「不届者」が上演された2017年から8年。お三方がそれぞれ表現者として大変だったこと、うれしかったこと、さまざまな出来事を経験されてきたと思います。この8年間で得たものの中で、「UME -今昔不届者歌劇-」に生かしたいと考えていることを教えてください。

松岡 自分が五十代を迎えた頃、世の中がコロナ禍へ突入し、同年代や先輩方の死を経験して、「自分はあと何年生きられるんだろう?」「あと何回舞台に立てるんだろう?」「あと何曲、楽曲を創れるんだろう?」といったことを意識するようになりました。限られた時間の中で、「自分の人生の中でこれに挑戦して良かった」「俺、あのとき本当に楽しかったな」と思えるかどうか。大袈裟じゃなく、1作品1作品に命がけで臨まないといけないと思っているので、オファーをいただく段階で情熱を感じられなかったら、受けないことにしているんです。その点、丸尾丸一郎という人間には、自分が持っているものすべてを預けられる。お互いに妥協することがないから、僕は丸くんに全部ぶつけるし、丸くんも僕に全部ぶつけてくれる。そんな表現者が2人、出会ってしまったんだから、僕たちはこれからも命をかけて作品を創らないといけない。「不届者」は一度完成した作品だけど、8年経った今の僕たちならもっとすごい作品ができるはず。今の僕たちが魂を込めて作る「UME -今昔不届者歌劇-」、楽しみにしていてください。

街裏 2017年はちょうど演劇の舞台に初めて出演した時期で、300人ぐらいの規模の会場でようやく独演会をやれるようになってきた頃じゃないかと思います。マニアックな人たちに知ってもらえるようになり、「自分がやってきたことは間違っていなかったんや」と自信を持てた部分もあったし、初見のお客さんの前でズルズルにスベることもまだまだありました。「君はずっとうそをついているけど、何が面白いん?」という顔で観ているお客さんに自分の漫談を届けるために、「自分が言っていることは全部ほんまのことなんですよ!」という気持ちで、どんどん熱を込めるようになって。だんだん漫談に体重が乗ってきて、笑ってくれる人が増えてきました。人一倍、伝えることに熱を込めてきたからこそ、「UME -今昔不届者歌劇-」という作品をしっかりと自分の中に落とし込んで、お客さんに伝えることが今回の自分のテーマだと思っています。

街裏ぴんく

街裏ぴんく

松岡 ぴんくさんにとってこの8年間はつらいことのほうが多かった? 漫談をやめようと思ったことは?

街裏 そうですね。全然とんとん拍子ではなかったです。2022年に、芸歴11年以上のピン芸人500組ぐらいがエントリーしている「Be-1グランプリ」という大会で優勝したんですよ。でも、優勝した次の日にアルバイトの面接に行ったんです。狭い世界やけど、せっかく認めてもらえたのに、何者にもなれていない自分に絶望しました。僕、嫁さんがいてるんですが、自分がやりたいことに嫁さんをずっと付き合わせているんじゃないかという引け目をずっと感じていて。もう潮時かな、そろそろけじめをつけなあかんのかなと思いました。その2年後、5457組がエントリーした「R-1グランプリ2024」で優勝したんですけど、それでもまだ自分がやってきたことは世間に何も伝わってないんちゃうか、ほんまにどうしたらええねん、と悩んで……急にブワーっと白髪が増えました。そう考えると、「R-1」で優勝してからの1年半のほうが葛藤してるかもしれませんね。

松岡 自分には何もないと気が付いたときの絶望感、ほんまつらい……。でも僕は、ぴんくさんのこういうドロっとした一面が見たかった。今、正直な思いを聞かせてもらって、やっぱりぴんくさんは、表現者として強いものを持っていると再確認できてよかったです。

丸尾 そうですね。ぴんくさんに参加してもらって良かったと改めて確信しました。僕もドロッとした話になっちゃうんですけど(笑)、8年前はサンシャイン劇場くらいのキャパシティの劇場で劇団公演が打てるようになり、どんどん劇団が大きくなっていった時期でした。でも、どこまでがんばってみても、結局劇団員全員を演劇だけで食わせることはできなかった。そんな自分にすごく失望しましたね、でも絶望したからこそ、これまで以上に1作1作に魂を込めるようになった。今回の「UME -今昔不届者歌劇-」にも、自分のすべてをかけて臨めたらと思います。

左から丸尾丸一郎、松岡充、街裏ぴんく。

左から丸尾丸一郎、松岡充、街裏ぴんく。

プロフィール

松岡充(マツオカミツル)

1971年、大阪府生まれ。1995年、ロックバンド・SOPHIAのボーカリストとしてメジャーデビュー。ドラマ・映画・ミュージカル・舞台の主演作を多く務め、俳優としても幅広く活動している。近年の出演舞台には、ミュージカル「LAZARUS」、ミュージカル「キルバーン」などがある。

丸尾丸一郎(マルオマルイチロウ)

大阪府生まれ。作家・演出家・俳優。2000年に、菜月チョビと共に劇団鹿殺しを旗揚げ。劇団公演に加え、「『家庭教師ヒットマンREBORN!』the STAGE」シリーズ、舞台「銀牙 -流れ星 銀-」シリーズといった2.5次元作品でも脚本・演出を手がけている。

街裏ぴんく(マチウラピンク)

1985年、大阪府生まれ。漫談家。2004年、現在はラッパーとして活動しているYoung Yujiroとのコンビ・裏ブラウンを結成。コンビ解散後、2007年にピン芸人へ転向。事務所の若手ナンバーワンを決める「トゥインクル1グランプリ」で2019年と2023年、芸歴11年以上のプロのみが参加できる大会「Be-1グランプリ」で2022年に優勝。2024年には「R-1グランプリ」でも優勝した。