物語で世界を変える、末原拓馬が「パダラマ・ジュグラマ」再演に懸ける思い (2/2)

“今、自分がいる場所”で物語とどう向き合うか

──コロナ禍ではさまざまな団体が工夫をこらした配信に挑戦しましたが、おぼんろでは「メル・リルルの花火」(2020年)で“ノーアングル生上演”を行いました(参照:投げ銭システムに音声配信、おぼんろ「メル・リルルの花火」配信形態が変更に)。「メル・リルルの花火」は当初、劇場全体を使って上演する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、演者が持つカメラと複数の固定カメラで撮影された映像を配信する“サテライト生上演”へ変更に。しかしそのあとすぐに出演者・スタッフが同じ場所に集まることも難しくなり、音声配信を行う“ノーアングル生上演”に変更となりました。

振り返ってみると本当に大変な時期だったよね……。あのときって終末みたいな気分だったじゃない? みんながパニックになっているのもわかっていたから、“ノーアングル生上演”は物語を紡ぐ人間にしかできないアプローチだったなと思います。ただ、緊急事態宣言が明けて初めて劇場に立ったとき、鳥肌が立ちましたね。僕たちにとって劇場ってやっぱり大事な場所なんだって思って。

──今回の「パダラマ・ジュグラマ」では、公演最終日となる2月20日11:30開演回と16:00開演回がuP!!!でライブ配信されます。配信を通して、劇場に足を運べない方にも物語を届けることが可能になりましたが、末原さんは演劇を配信することについてどのように考えていらっしゃいますか?

僕はわりと自然に演劇を配信する文化を受け入れていましたね。おぼんろは演劇をやる集団というよりも、さまざまなジャンルのアートクリエイティブに挑戦する場所という意識があるので、演劇というジャンルにあまりこだわっていないことが理由の1つなのかもしれません。

劇場でお芝居をしていると、「ああ、今日はこのシーンの反応が特に良いな」「今日はここが大事なポイントなんだな」っていうことがわかるんだけど、配信の場合は僕たちと参加者の人たちの想像力がより一層必要だと感じています。配信をするようになってからは、撮った映像をただ流すというより、エネルギーを電波に込めるようなイメージで演じていたし、参加者の方々との絆を感じながらやっていましたね。

というのも、「メル・リルルの花火」で“ノーアングル生上演”に挑戦して、観る側の身体がすごく大事だということを改めて感じたんです。演劇って身体で観るものだし、物語って身体で体験するものだから、“今、自分がいる場所”で物語とどう向き合うかということを意識してもらえたらうれしいなと。

末原拓馬

末原拓馬

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──コロナ禍で行われたさまざまな配信を拝見して、同じ場所にいなくても同じ時間を共有している、つながっているという感覚を改めて感じました。

そうだよね。離れていても同じ物語の中にいるって、すごく色っぽいし、強い関係性だなって思いました。

──いまだ厳しい状況が続いていますが、配信に挑戦したことによって、新たに得たものもあったのではないでしょうか。

そうですね。やっぱりどうしても生で観ることには代え難いんじゃないかというイメージがあったけど、そうじゃないんだって今は思えています。コロナ禍での経験がなかったら気が付けなかったことだと思う。それを踏まえて、おぼんろの作品を世界中に届けていくことに対して改めて向き合いたい。これまでの時間ももちろんすごく大事だったけど、まだまだ序章で、もっともっと進化していきます。これからもおぼんろは、みんなのタイミングが合ったときに戻って来られるような“集合場所”でありたいなと思っています。

末原拓馬

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プロフィール

末原拓馬(スエハラタクマ)

1985年生まれ。おぼんろ主宰・脚本家・演出家・俳優。音楽家の両親を持ち、幼少期から音楽の手ほどきを受ける。早稲田大学在籍時、演劇研究会に入会し、2006年におぼんろを旗揚げ。劇団での活動に加え、外部作品にも多数参加しており、近年の代表作には「浪漫活劇譚『艶漢』」「歌謡倶楽部『艶漢』」シリーズ(出演)、「絶響MUSICA THE STAGE」(演出)、CROWNS「蝶の筆」(出演)、音楽劇「黒と白 -purgatorium- amoroso」(出演)などがある。