物語で世界を変える、末原拓馬が「パダラマ・ジュグラマ」再演に懸ける思い

劇団おぼんろ「パダラマ・ジュグラマ」が、2月13日から20日まで東京・Mixalive TOKYO Theater Mixaで上演される。

「パダラマ・ジュグラマ」は、2014年に初演され、劇団史上最高動員を記録した人気作。末原拓馬が大切に保管してきた「パダラマ・ジュグラマ」の記憶を呼び覚まし、新たなメンバーと再演するに至った理由とは? また、2020年の「メル・リルルの花火」で“ノーアングル生上演”に挑戦して感じた、配信に対する意識の変化についても話を聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 玉井美世子

劇団おぼんろ 第20回本公演「パダラマ・ジュグラマ」
uP!!!では、最終日の2公演を独占生配信!

生配信
2022年2月20日(日)11:30~ / 16:00~

アーカイブ配信
2月20日(日)11:30開演回:2月20日(日)17:00~28日(月)23:59
2月20日(日)16:00開演回:2月20日(日)22:00~28日(月)23:59

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信じる力が無限だったら、いくらでも現実は変わっていく

──「パダラマ・ジュグラマ」は、2014年に初演され、劇団史上最高動員を記録しました。“何もかもがうまくいかない”世界を舞台に、ヒヨコのタック、キツネのトシリモ、メンドリのフリをしているオンドリのリンリン、キツネのメグメ、ニワトリを管理するカイダムの工場長ジュンバの“運命と決断”が絡み合って起こった、1つの小さな奇跡が描かれます。初演時、末原さんはどのような思いで本作を書かれたのでしょうか?

当時、僕たちは「日本一の劇団になること」「Bunkamura シアターコクーンで1カ月ロングラン公演をして、劇場を埋められるような劇団になること」を目標に掲げていました。僕自身、路上での一人芝居から演劇を始めたこともあって、「信じていればどこまでも行ける」という考えがあったんですね。本当にかなうかはわからないし、いつも恐怖と隣り合わせだけど、「信じる力が無限だったら、いくらでも現実は変わっていく。例え現実が変わらなくても、かなうと信じていれば、それは本人にとって真実の物語になる」ということを、「パダラマ・ジュグラマ」を上演することによってガツンと打ち出したかったんです。また、「僕は僕ではなくて、僕らでありたい」という「パダラマ・ジュグラマ」のセリフに象徴されるように、「参加者(観客)たちと1つでありたい」という気持ちを表明したかったんじゃないかな。

──今回8年ぶりの再演となりますが、脚本や演出などに変更はありますか?

時代も変わっているし、僕ら自身も変わっているから、作品も変化しないとおかしいと思っていて。卑近な言葉かもしれないけど、今持っている“純度の高い感性”で作品を作っていくことは、どんな公演においても常に意識しています。その中で、「やっぱりここは変わらないんだな」「本質はここにあるんだな」と気付いて鳥肌が立つときがありますね。演出に関しては、これまでの作品では客席を動き回ることが多かったけど、今回はそれができないから、今の時代に適応した形になると思う。

僕、シェイクスピアのような“古典”となる物語を残したいんです。古典になるためには、いろいろな解釈で繰り返し上演されないと、作品のコアにある普遍性が現れてこない。自分が生きている間、何人の俳優が自分の作品を演じてくれるのか、自分が死んだあと、何人の俳優が演じ続けてくれるのかを、よく考えますね。

末原拓馬

末原拓馬

末原拓馬

末原拓馬

──末原さんはこれまで、はかなくも美しいファンタジックな世界観の作品を多く発表してきました。その中でも特に「パダラマ・ジュグラマ」を後世に残したいと思われたのでしょうか?

実は、再演することに対して一番後ろ向きだったのが「パダラマ・ジュグラマ」だったんです。それは初演時があまりに大事な時間だったから。「パダラマ・ジュグラマ」は強度のある物語だと思っているけど、自分たちの過渡期に作った作品だったし、当時の僕たち自身が反映されているので、自分たちと作品との距離が近すぎたんですよね。だから、客観的に見ることや、作品を上塗りする作業をまだしたくなかったんです。正直なことを言うと、「あのときのままで良いじゃないか」っていう気持ちがあった。でもそれって、作品が育つことを止めてしまう可能性があるじゃないですか。

8年前、「パダラマ・ジュグラマ」を発表したとき、「100年上演され続ける作品にしたい。だから力を貸してください」って仲間たちにお願いしたんです。その責任を果たすために、当時協力してくれた仲間に対して、「まだ続けるからね」っていう意志を表明したいと思って、再演を決意した部分もあるかもしれません。

「パダラマ・ジュグラマ」って明るいけど、決して脳天気な作品ではなくて。この作品が持つ「悲惨な世界は変わらない。だけど僕たちは幸せになれる。勝利することができる」っていうテーマが、今の自分たちにとって必要だと思ったんですね。だからもう一度「パダラマ・ジュグラマ」と向き合おうと決めたんです。

──「パダラマ・ジュグラマ」には、実父であるギタリストの末原康志さんがクレジットされています。「まだ続けるからね」という意志を表明することには、昨年お父様を亡くしたことも影響しているのかなと感じました。

正直、それがすごく大きかったですね。父がいかに偉大な作曲家であったのかをみんなに伝えたかった。自分が日本一の、世界で評価されるエンターテイナーになって、「パダラマ・ジュグラマ」が世界中で上演されるようになったら、父の音楽が鳴り響くでしょう? そうやって、僕らアーティストは死んでからも作品として生き続けることができる。僕自身も父の遺作の1つだから、なるべくたくさんの人に作品を伝えていくという役割を果たしたくて。そうしていないと今自分が立っていられないっていうのがありましたね。

末原拓馬

末原拓馬

タックは表現者としての“末原拓馬”に近い存在なのかもしれない

──今回の再演には、初演に出演した劇団員の皆さんに加え、富田翔さん、八神蓮さん、塩崎こうせいさん、岩田華怜さん、登坂淳一さんが新たに参加します。その中でも特に、アナウンサーである登坂さんをキャスティングされたことが興味深いと感じました。

そうだよね! やっぱりびっくりしますよね(笑)。今回に関しては新しいことがしたいという気持ちが強かったので、劇団員みんなで手分けして“良いご縁”を探しました。新たな出会いに対して、自分自身がどういうリアクションをするか見たかった、というところもあります。

──俳優としてまったくタイプの異なる富田さんと八神さんが、キツネのトシリモという同じ役を演じることも非常にチャレンジングだなと。

翔さんは、僕が生まれて初めて演出したタレントさんと言っても良いかもしれない。翔さんとは、僕が演出した「ParkParkShow人は見かけにヨロレイヒ~」(2008年)以来、久しぶりに舞台でご一緒するんです。彼は座組の中のムードメーカーになってくれていて、すごく救われていますね。あと、翔さんってオーラがすごいじゃない? それがトシリモという役にもハマっているし、俳優・富田翔から生まれる爆発力にすごく期待しています。

八神蓮は同い年で、これまでに二度共演しているんです。残念ながら中止になってしまったけど、僕が演出する予定だった舞台「純情ロマンチカ」(2021年)(参照:舞台「純情ロマンチカ」に大崎捺希&君沢ユウキ、演出は末原拓馬)のときから、よくコミュニケーションを取るようになって。蓮は基本的におっとりしてるんだけど、実はものすごく芝居について深く考えている人なんですよね。“王子”と呼ばれているだけあってロイヤル感があるんだけど(笑)、どうしても汚い蓮が見てみたくて。今回演じてもらうトシリモは荒くれ者で暴力的な役だけど、彼は芝居に向かう気持ちの純度が高いし、こちらが出したオーダーに対するレスポンスが的確だから、稽古をしていくうちにどんどん役にハマっていって、これならどこまでもいけそうな感じ。蓮はきっと、自分の世代を代表する俳優になるんじゃないかな。

末原拓馬

末原拓馬

──オンドリのリンリンは、オリジナルキャストの高橋倫平さんと、新キャストの塩崎こうせいさんが演じます。

塩崎こうせいは、自分たちで演劇界をどう変えていくかみたいな話をずっとしてきた仲間で、おぼんろにとってほぼ劇団員のような存在なんです。彼が演じるリンリンは、殺されないためにメンドリに化けているオンドリの役なんだけど、セクシャリティやジェンダーの問題に関わってくる重要なキャラクターなんですよ。僕の周りにもさまざまなセクシャリティの友人たちがいるから、必要に取り沙汰したくないところもあるんですけど、“もの”と“もの”が思い合うことに性別は関係ないし、リンリンのような存在が決して特別ではなく、普遍的な存在であるということを伝えられたら良いなと思っていて。リンリンは、僕らの世代が作り上げていかないといけないキャラクターだと思っています。

そんなリンリンという役に、塩崎がどうアプローチしてくるんだろうと思っていたんだけど、もう「さすが!」っていう感じ。彼は役への理解度が高いし、百戦錬磨だから、自分の役が物語においてどんな存在であるべきかっていうのを、しっかり押さえながらも外してくるんです。とてつもなく強度のある芝居をするなって感じました。

──メグメ役には初演メンバーのわかばやしめぐみさんと、岩田華怜さんがキャスティングされました。今回初顔合わせとなる岩田さんにはどのような印象を持っていらっしゃいますか?

岩田さんと引き合わせてもらったとき、お芝居がすごく好きだと言っていて。僕は、芝居にどのくらい身体を預けているかを大切にしているので、信頼できるなと思ったし、人間的にもとても面白い方だなと思いました。俳優としての生命力が強いって言うのかな。稽古場でもエネルギーにあふれてますよ!

末原拓馬

末原拓馬

──末原さんやキャストの方々がTwitterやブログに書かれていましたが、とても充実したお稽古になっているようですね。末原さんは今回、初演に続き、ヒヨコのタックを演じます。タックは、末原さんのピュアな思いが色濃く反映されているキャラクターだと感じたのですが……。

そうですね。でもタックは、僕と言うより、表現者としての“末原拓馬”に近い存在なのかもしれない。物語を読み進めて行くと、「タックはなんでこんなにポジティブなの?」って不思議に思うじゃない? 実はタックって、最初に暗い現実を見て狂っちゃったんだよね。壊れた結果、何がなんでも笑うんだって決めて……。コアの部分は弱いんだけど、自分はエンターテイナーとして生きていくぞって決意したから、タックのような強さが欲しいなってどこかで思っているのかもしれません。