野村萬斎はエンターテイナー
──先ほど、「安達原」における間狂言のお話が出ましたが、両日共に野村萬斎さんがシテを勤める狂言が上演され、12日には「佐渡狐」、13日には「痩松」が披露されます。近年では、吾峠呼世晴さんのマンガ「鬼滅の刃」(集英社)を原作とした「能 狂言『鬼滅の刃』」(参照:野村萬斎・大槻裕一が舞う!現代劇的なアプローチを織り交ぜた「能 狂言『鬼滅の刃』」開幕)をはじめとする作品でご一緒されていますが、改めてお二人から見た萬斎さんの芸の魅力について伺えますでしょうか。
裕一 萬斎さんは、狂言以外の舞台や映像作品にも参加されていらっしゃいますし、さまざまなアイデアをお持ちで、頭の回転がすごく速い方。まさにエンターテイナーですよね。毎公演同じことをするのではなく、常にステップアップすることを目指していらっしゃって素晴らしいと思います。
文藏 萬斎さんは、表現者として円熟期に入ってこられたなと感じます。より一層芸が円熟していき、今後芸が集約されていくとき、お父様である野村万作先生のような芸になるのか、はたまたまったく異なる芸に進化するのか。私も非常に楽しみにしております。
“難しい”を乗り越えた先にある面白さ
──「大阪城西の丸薪能2024」は、2025年の「大阪・関西万博」開催時、来阪者に大阪の文化芸術を楽しんでもらうことを目的にした企画「大阪国際文化芸術プロジェクト」の一環として上演される演目です。お二人は普段から能の裾野を広げる活動を積極的になさっていますが、初めて伝統芸能に触れる方に向けてどのようなアプローチをされていますか?
文藏 芸術というものは、作品を通じて何らかのメッセージを伝えるわけですが、能が最も重要視しているのは人の心です。人々が生活を送る中で、いろいろなことを思い、考える。その営みを舞台上で表現することによって、ご覧になった方が何かを感じ、ご自分の人生に役立てていただけたらと思って、舞台を作っています。確かに、能は難しいと感じるかもしれません。それを少し乗り越えた先で、能の面白さに気付いていただけたらうれしいですね。
裕一 たとえば私が美術館に行ったとして、絵画のことをすべて理解できるかといったらそうではないと思うんです。文藏先生も言っていたように、「能は難しくないですよ」と言ったらうそになってしまうので、公演を観ている間はあまり難しいことを考えず、まずは楽しんでいただくことが大事なのかなと。衣裳が綺麗だなとか、お囃子の演奏がカッコいいなとか、どんなことでも良いんです。今回の「大阪城西の丸薪能2024」や「能 狂言『鬼滅の刃』」などがきっかけで能に興味を持っていただき、ぜひとも能楽堂へ足を運んでいただきたい。私たちの芸がそのきっかけになれば良いなと思っています。
プロフィール
大槻文藏(オオツキブンゾウ)
1942年、大阪府生まれ。シテ方観世流能楽師。1947年に「鞍馬天狗」で初舞台を踏み、1998年の「檜垣」、2007年の「関寺小町」、2012年の「姨捨」で三老女を完演した。松尾芸術賞、読売演劇大賞男優賞、芸術選奨文部大臣賞、日本学賞、日本芸術院賞受賞を受賞したほか、紫綬褒章、旭日小綬章を受章。また、重要無形文化財保持者、文化功労者に認定されている。
大槻裕一(オオツキユウイチ)
1997年、大阪府生まれ。シテ方観世流能楽師。2000年に「老松」で初舞台を踏む。2013年に大槻文藏の芸養子となり、大槻裕一を襲名した。