シアタートラムが届ける2本の二人芝居!五戸真理枝×高岡早紀×溝端淳平が語る「毛皮のヴィーナス」、生田みゆき・岡本健一・成河が挑む「建築家とアッシリア皇帝」 (2/2)

「建築家とアッシリア皇帝」
生田みゆき・岡本健一・成河 コメント

「建築家とアッシリア皇帝」は、スペインで生まれ、フランスで活躍した劇作家フェルナンド・アラバールの代表作。絶海の孤島に墜落した飛行機から現れた男は皇帝を名乗り、島に先住する1人の男を建築家と名付け、近代文明の洗礼と教育を施そうとするが……。同作について、演出の生田みゆきと、皇帝役の岡本健一、建築家役の成河が、戯曲の印象やお互いのイメージについてそれぞれに語った。難解な戯曲に共に挑む共演者・演出家について、おのおのが思う“ヤバさ”とは?

生田みゆき(演出)

生田みゆき

演劇の面白さと怖さを両方見せてくれる

「建築家とアッシリア皇帝」を初めて読んだとき、気持ち悪くなるような、ある種の執念深さを感じました。でもその異常性に、むしろ惹かれる部分もあった。シアタートラムは実験精神や開拓心のある作品を送り出してきましたし、そこに応えるにふさわしいのではと。この作品では、たくさんの要素をごちゃ混ぜに詰め込みながら、寄り道をしつつ物語が進みます。その根底には人が人を支配したいという欲望が感じられますし、まさに今のロシアとウクライナの情勢を彷彿させるようにも感じます。人と人の「一緒になりたい」という気持ちと「絶対一緒になってやらない」という気持ちのせめぎ合いが寓話的に描かれていることも、今こそ上演に値する作品であるという意義をあと押ししているのではないでしょうか。

岡本さんと成河さんとは、私が「森 フォレ」(参照:成河・瀧本美織ら挑む「森 フォレ」に演出・上村聡史「是非、劇場で体験いただけたら」)の演出助手をしたときに初めて出会いました。お二人は、こちらがまいた種を2倍にも3倍にも育ててくださる、素晴らしいエンターテイナー。岡本さんからは「俺はなんでも受け止めるよ」という器の大きさを感じます。稽古が終わっても最後まで稽古場に残る姿を何度も目にしましたが、あんなにキャリアの長い方でも裏で地道な努力を重ねていると思うともう、尊敬ですよね。成河さんは俳優として自分をどうしたいかというビジョンがありつつ、全体を見ています。そのうえで、自分の背負っている部分をしっかり埋めるために、いろいろなアプローチをしてくださるんですよね。この戯曲の言葉は身体的にも高い負荷を要求するので、すごい身体性を持った岡本さんと成河さんが演じたら、どこまで劇空間が広がっていくか楽しみです。

私が演劇を志して上京したとき、最初に足を運んだのがキャロットタワーでした。演劇の街・三軒茶屋に足を踏み入れた胸の高鳴りを、今も覚えています。だからシアタートラムで今回初めて演出ができて、とてもうれしいです。「建築家とアッシリア皇帝」は演劇の面白さと怖さを両方見せてくれる作品です。観劇後、気持ちよく帰っていただけるかはわかりません。でもこの舞台では確実に、日常ではできないことや普段は感じられない衝動を体験できるはず。ぜひ一緒に体感してもらえたらと思います。

プロフィール

生田みゆき(イクタミユキ)

大阪府生まれ。東京藝術大学大学院 音楽研究科修士課程修了。2011年に文学座附属演劇研究所に入所し、2016年に座員に昇格。2017年に文学座アトリエの会「鳩に水をやる」で文学座初演出。近年の演出作品に「最後の炎」「ガールズ・イン・クライシス」「オロイカソング」など。

岡本健一

岡本健一

成河と2人でやれるというだけで、もう大丈夫なんじゃない?

戯曲を読んだ感想は「どうやるんだろう、これ」(笑)。戯曲を読む前、昔この作品に出演した山崎努さんに連絡を取ったら「大冒険だった」とおっしゃっていたんですよ。僕は山崎さんを崇拝しているから、同じものを演じられる喜びもあるし、山崎さんがどう演じていたのかも気になっていたんですが……実際に読んだら見たことのない世界でした。冒険せざるを得ない作品ですよね。作者のフェルナンド・アラバールが実際に体験したような思いや希望が、場面の中で生まれてくれば良いなと思います。

演出家としての生田さんとご一緒するのは今回が初めてです。演出助手をしているときの生田さんは大体いつも稽古場に最後まで残っているんです。僕がその日のシーンの復習をしていると、演出や進行の度合いを的確に把握していて教えてくれたのがとても頼もしかった。稽古場や演劇が本当にお好きなんだろうなと思います。

成河との共演は3回目ですが、僕は昔から彼を知っていました。初めて彼を観たのは2004年の「エンジェルス・イン・アメリカ」で、彼が演じた天使を観て「誰なの、あれ!」と惹かれましたね。そのあと共演してみたら、余計な気を遣わず作品だけに集中できる環境を作り上げてくれるし、それでいてこちらの想像を超える演技をしてきて、すごいなと。この作品では、お客さんが感じたことがないような演劇の面白さを体験できそう。でも成河と一緒に2人でやるだけで「もう、大丈夫なんじゃない?」と思ったりしますし(笑)、必見の作品になるんじゃないかなという気がします。

シアタートラムは「岸 リトラル」(参照:上村聡史演出「岸 リトラル」開幕、父子の壮大なロードムービー)以来ですね。個人的には、劇場はどこでも関係ないと思っています(笑)。どこであっても俳優がいて物語があれば良いんじゃないかなって。でも観劇するにも出演するにも、シアタートラムは二人芝居にちょうど良い気がする。だから普段は演劇と無縁の人たちも、みんな来てほしいですね。

プロフィール

岡本健一(オカモトケンイチ)

東京都生まれ。1985年に「サーティーン・ボーイ」で俳優デビューし、1988年には男闘呼組として歌手デビュー。2004年度、2009年度に読売演劇大賞の優秀男優賞、2018年度に読売演劇大賞の最優秀男優賞を獲得。2019年度に菊田一夫演劇賞に輝いたほか、2020年度「リチャード二世」で紀伊國屋演劇賞と芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2022年春、紫綬褒章を受章。6月24日まで「グレイクリスマス」に出演中。7・8月、劇団民藝40周年記念公演「破戒」では演出を手がける。

成河

成河

来たれ、“工場”好き!

戯曲を読んで思ったのは、役柄を掘り下げるよりまず、作品の骨格をどこまで理解できるかが勝負なのかなということ。二人芝居の機動力を生かしつつ、どれだけ“パズル”を解いていけるかという面白さがありそうです。

生田さんは最高です。ビジュアル撮影で久しぶりにお会いしたとき、第一声が「めちゃめちゃ楽しみじゃないですか!?」で。目が輝いていて、この人はヤバい人だなと思いました(笑)。「出演する身にもなってよ!」と思いますけど、生田さんの言葉で本当に興奮したし、一気に期待が高まりました。一度“成果”は放っておいて、わからないということを楽しみながら作っていけそうでうれしいです。

健一さんとは「スポケーンの左手」「森 フォレ」以来、3回目の共演です。健一さんは常に“そもそも論”に立ち返れるのが本当にすごい。どんな瞬間でも最初に戻って考えようとするって、何かが相当極まっていないとできないことです。僕もそうありたいと思いますが、どこかで手放してしまう。でも健一さんはいつも“そもそも論”を思い出させてくれるので、僕も彼にとってそのような存在でありたいと思いますね。

シアタートラムは大好きな劇場で、以前は「トラムに住んでいます」と言えるくらい観劇しに通っていました(笑)。観客にわからせる気がないのかな?というくらい実験的な作品もよく上演されているし、そういう作品に向いた劇場だなと思います。作品を生み出す“工場”のようなイメージがありますし、シアタートラムで生まれた作品がさらに広まれば良いなと。だから「来たれ、工場好き!」と思いますね。

プロフィール

成河(ソンハ)

1981年、東京都生まれ。大学時代に演劇を始める。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18回読売演劇大賞・優秀男優賞を受賞。近年の主な出演舞台に「子午線の祀り」、ミュージカル「スリル・ミー」、「冒険者たち」「バイオーム」など。昨年にはあいまい劇場 其の壱「あくと」で演出家デビューした。7月にジャンル・クロス「導かれるように間違う」、9・10月にミュージカル「COLOR」、2023年2・3月に木ノ下歌舞伎「桜姫東文章」に出演する。