「オープン・グラインドハウス」|搬入口を開放!バストリオと吉祥寺シアターが挑むレジデンスプログラム“みせびらき”

自分たちで服を“まかなって”みたかった

街歩きで立ち寄った銭湯の店先。

「中央線は古着のイメージがある」と語る今野は、今回、舞台上の1スペースにミシンを持ち込み、メンバーたちとブランドMOUNTAIN OF CLOTHESを立ち上げる。今野は「自分たちで服をまかなってみたかった」と話し、「武蔵野市の人の服とか、俺らの服とかいろんな街から古着を集めて服の山を作って、その中から新たに服を作ります」と構想を明かす。そしてここで生まれた作品は、衣装として新作パフォーマンスに使われる予定だ。この新作パフォーマンス「グラインドハウス」には6、7人が出演予定で、ミュージシャンの松本一哉とタカラマハヤも参加する。今野は「稽古してる時間が好きなんですよ。この時間のほうが豊かだって思うこともけっこうあって、お客さんにもこの裏側の時間を観せたいと思う」と語る。さらに、「松本さんは、休憩していることも演奏として捉えて観客に観せたり、自分の演奏を展示することに興味があるんです。自分も演劇は時間を扱う芸術だと思ってるので、開館時間を目いっぱい使えるこの機会に時間の捉え方を広げてみたい」と目標を掲げた。本作のプレビュー公演は14・15日の2日間にわたり行われるが、今野によれば「こども食堂の西田さんがどちらかの日に出演するかも?」とのことだ。

今野裕一郎(左)

そしてベランダの作りが印象的なアパートや卓球居酒屋を通り過ぎると、大通りに突き当たった。今野は「この道が搬入口の通りか」と脳内地図がつながった様子を見せた。すると通りの向こう側に、味のある玩具店が出現。今野は静かなトーンながら、この日の散策で一番の興味を示した。すっと店に近付き中を覗き込むと、「開いてるの見たことない」という大川に「見たことないんだ……」と静かな声で返しながら、表に並んだガチャガチャマシーンをしげしげと見つめた。

会場MAP(イラスト:黒木麻衣)

「オープン・グラインドハウス」では、ワークショップ参加者がスマートフォンで吉祥寺の街を撮影し、その動画をつないで編集した映画「だれかのどこか」の上映が客席で行われる。参加者はそれぞれ1時間の制限時間内に各所に散らばり、1分の固定動画を1人あたり12、13本撮影。それをくじ引きでランダムに30分につなぎ、全員で鑑賞する試みだ。今野が今年2018年に行った企画「扉の開け方」(編集注:神奈川・急な坂スタジオが主催するサポートプログラム・坂あがり相談室plusのプロジェクト)でのプロトタイプがもとになっていて、今回は尺を1時間半に延ばして実施される。ドキュメンタリー映画監督でもある今野は「誰が撮ったかもわからない、誰かが写っているどこかの映像なので、タイトルは『だれかのどこか』。ドキュメンタリーを撮っているとよくあるんですが、意識的に作った映像より、無意識で撮った風景のほうがお客さんの心に届いたりする。そんな日常を自然に切り取る面白さをみんなで共有できたら」と思いを語った。

境界を曖昧に

今野裕一郎

そのまま通りを真っすぐ進み、2人は劇場の搬入口に到着。今野は「入り口のここ(搬入口)で炊き出しをして、中の搬入スペースにコーヒー屋を建て込んで、舞台上で服作りと公開制作。それで舞台の前つらと客席との間にスクリーンを吊って、そこにはずっと映画を映したい。あと会場を抜ける廊下に展示も置こうと思ってる。で、最後は『ここでご飯を作ってたんだ』って旧シアターカフェの横を通り抜けて通常の入り口から出て行く、みたいな。それか搬入口からそのまま帰ってもらうか、それはもうお客さんそれぞれですね」と解説。続けて「今回やろうとしている企画それぞれが拡張してお互いの境界を曖昧にしていくように、劇場を舞台という境界線から解放して街に広げたい。そのために搬入口を開け放ち、大通りから舞台を見えるようにしたい」と劇場の動線を“ひっくり返す”構想を明かした。

街歩き中に見付けた銭湯の煙突。

そのあと、正面口から劇場に入り、旧シアターカフェで今野に改めて街の印象を聞かせてもらった。今野は「まだ身体に入ってこない感じかな……」と自身に問いかけつつ、「通りを1本入ると住宅街で、大通りとは温度差があって、そこが面白い。あと、『どいてー』とか『通るよー』とか、ちゃんと声が出る感じの、元気な年配の方が多い(笑)。そういうのもいいですよね。(バストリオの拠点)北千住もそんな感じだし」と街歩きの感触を口にする。そんな今野に大川は「搬入口から食べ物のいい匂いがして、通りがかった人が思わず『面白そうだね』と覗き込む。そんな媚びるでも居丈高になるでもない気軽さで、劇場を身近に感じてもらえたらいいですね」と期待を寄せ、今野は「何をやるでもとにかく自由度を上げたい。で、楽しいのがいい。それを必死にやりたいって感じです。今回も大変だと思うけど」と「オープン・グラインドハウス」に向け、笑顔で意気込みを語った。

今野裕一郎

バストリオとは

今野裕一郎が主宰するパフォーマンスユニット。生演奏による音と役者の声、ものと身体、光と影、テキストや映像を断片的に扱い、ドキュメンタリー編集の技法を用いて観客の想像力を喚起する演劇を作り上げる。東京・足立区で行っているワークショップ「こどもえんげき部」や「こども食堂」、日本各地を音楽家とツアーで回る活動も実施している。これまでにコラボレーションしたミュージシャンは空気公団、minamo、松本一哉、滝沢朋恵、角銅真実、タカラマハヤなど。

「黒と白と幽霊たち」

「黒と白と幽霊たち」より。(撮影:黒木麻衣)

2016年に東京・谷中の宗林寺にて初演され、ライブハウスや鉄工所跡で上演が重ねられた音楽家・松本一哉とのコラボレート作品。1945年に起きた原爆投下や忠臣蔵、生まれ変わる猫の話や天皇の生前退位などをモチーフに、“白黒はっきりした二項対立の間にあるグラデーション”が描き出された。

2018年11月10日(土)・11日(日)
石川県 金沢21世紀美術館 シアター21

作・演出:今野裕一郎
演奏:松本一哉
出演:稲継美保、中野志保実、橋本和加子、今野裕一郎

「ストーン」

「ストーン」より。(撮影:コムラマイ)

急な坂スタジオが主催するサポートプログラム・坂あがり相談室plusで今野が行った企画「扉の開け方」をもとにした作品。今野をはじめ、音楽家、イラストレーター、デザイナー、俳優、ダンサーといった面々が参加。キャスト・スタッフとクレジットを分けることをせず、それぞれが有機的に空間に働きかけるクリエイターとして作品に携わった。

2018年7月21日(土)・22日(日)
東京都 SCOOL

演出:今野裕一郎
参加者:岩間愛、菊地敦子、黒木麻衣、斎藤友香莉、坂藤加菜、嵯峨ふみか、新穂恭久、タカラマハヤ、橋本和加子、深澤しほ

「エモーショナル」

「エモーショナル」より。(撮影:黒木麻衣)

“外へと向ける”“試す”といった語源を持つ「essay(エッセイ)」という言葉をテーマに、俳優たちが作品に取り組むドキュメントと、ある土地を目指す“移民”を描いたフィクションの2軸で物語が進行する。音楽として角銅真実、打楽器奏者で東京塩麹のメンバーとしても活動するタカラマハヤ、権頭真由と佐藤公哉によるデュオ・3日満月が参加した。

2017年11月9日(木)~15日(水)
東京都 BUoY

演出:今野裕一郎
音楽:角銅真実、タカラマハヤ、3日満月(権頭真由、佐藤公哉)
衣装:catejina(告鍬陽介)
出演:橋本和加子、砂川佳代子、中野志保実、秋山遊楽、瀧澤綾音、秋谷悠太

吉祥寺シアター・レジデンスプログラム“みせびらき” バストリオ「オープン・グラインドハウス」
2018年12月10日(月)~15日(土)
12:00~21:00
東京都 吉祥寺シアター
「オープン・グラインドハウス」
参加者

秋良美有、秋山遊楽、小川沙希、岡村陽一、黒木麻衣、今野裕一郎、嵯峨ふみか、酒井和哉、坂藤加菜、新穂恭久、杉浦俊介、タカラマハヤ、西田宗由、桑野有香、橋本和加子、萬洲通擴、半田美樹、松本一哉、和久井幸一 ほか

今野裕一郎(コンノユウイチロウ)
1981年生まれ。バストリオ主宰、映画監督、演劇作家。横浜国立大学経済学部を中退後、京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科卒業。大学在学中にはドキュメンタリー映画監督の佐藤真に師事。ドキュメンタリー映画の制作を行う。劇映画の監督としても活動しており、初の劇場公開長編映画となる「ハロー、スーパーノヴァ」は池袋シネマ・ロサやドイツ・フランクフルトの映画祭で公開された。演劇界では宮沢章夫が主宰する遊園地再生事業団で2本の作品に映像・出演で参加。バストリオを2010年に立ち上げ以降、次々と作品を発表している。