音楽座ミュージカル「リトルプリンス」と新しい自分を探しに行こう、王子役の森彩香・山西菜音が語る思い (2/2)

“あざとかわいい”先輩・森と、“脅威”の後輩・山西!リスペクトし合うカンパニーメンバー

──音楽座ミュージカルでは森さんが先輩、山西さんが後輩にあたります。今年一緒に同じ役に取り組んできて、お互いが演じる王子の魅力や、演劇人としてのお相手の印象を教えてください。森さんは「リトルプリンス」のパンフレットで、山西さんが「脅威の存在」だと話していました。

 山西さんは、「普通そうはやらないだろう」という枠組みをいとも簡単にぶっ壊していく人! 誰しも大人になるにつれ、「恥をかきたくない」「無礼なことをしてはいけない」と自分にリミットをかけがちですが、彼女はその制限をバーン!と外す勇気と潔さを持っている。自分が愛されること、生きることに対しても貪欲。生命力にあふれているし、彼女の人を惹き付ける力、他人の心をほぐす力をうらやましく思っています。それにほかのメンバーがご飯を食べたり携帯を見たりして休んでいる時間も、山西さんはやるべきことをやり続けていて、すごくリスペクトしています。土壇場に立たされたときに残るのは、自分にうそをつかず積み上げてきたものだけ。山西さんはその強さを着実に積み重ねていて素敵です。

山西 うれしい! ありがとうございます。私から見た森さんの王子は……あざとかわいい(笑)。観る人の感情を引き込むパワーを放っていて、森さんが悲しんでいると私も悲しくなってしまいます。初めは森さんの「この役をやるためなら何でもやる!」というハングリーな姿勢に驚きましたが、音楽座ミュージカルで主役を演じ続けてきた森さんの身体には「この場を生ききる」というエネルギーが満ちていて、今はその努力と意志の強さをすごく尊敬していますし、「どうにか私もこのパワーを手に入れたい」と思って……じっと見つめ続けています。

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、山西菜音演じる王子(中央)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、山西菜音演じる王子(中央)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、森彩香演じる王子(中央)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、森彩香演じる王子(中央)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

 やっぱり彼女は間違いなく、私の“脅威”ですね(笑)。

山西 あははは!

──共演するカンパニーメンバーの印象についてもお伺いします。今回の秋公演では、安中淳也さんが飛行士、岡崎かのんさんが花をシングルキャストで演じます。

 私は数年前にも安中さんと、王子と飛行士として共演していますが、彼は当時とはすっかり変わりました。昔の安中さんは「自分の力でどうにかできるから」という雰囲気で、お芝居をしても感情がぶつかり合うばかりでした。でも今の彼は「本当はこうしたいのにうまくいかない」という現実を背負ったうえで、それに抗って生きている感じ。今回の飛行士は人間味にあふれていて、すごく共感してしまうんです。

山西 1歳上の岡崎さんとは、これまであまり交流の機会がありませんでした。それで私は「岡崎さんは容姿も歌も素敵で輝いているから、苦労とかないだろうなあ」と勝手に思い込んでいたのですが、舞台を通じて関わり合う中で、私と同世代で主要な役を多く演じ、壁にぶつかってきた彼女の苦労を感じたんです。私はすごく未熟だったし、岡崎さんへの敬意を持って、自分も王子として舞台を引っ張っていかなきゃなと感じますね。

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、安中淳也演じる飛行士(左)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、安中淳也演じる飛行士(左)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、岡崎かのん演じる花(左)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、岡崎かのん演じる花(左)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

──王子と唯一無二の友達になりながらも別れていくキツネ役として、森さんの出演回に泉陸さん、山西さんの出演回に小林啓也さんが登場します。

 泉さんは、丸太のような男です(笑)。外見ではなく生き様が丸太のようにどストレートで、お芝居しながら「こんなに全力投球してくるのか!」と驚きました。同じくキツネ役の小林さんとは、ほかの作品も含め何度もペアを組んできました。お互いの癖を知り尽くしているので、彼と組むと「なんでそっちに行くのよ」とか余計な考えが浮かぶことがある(笑)。でも初めて泉と組んだときは、シンプルに「目の前で起きることを見ていれば良いんだ」と感じられて新鮮でした。

山西 小林さんはお稽古場で話すときも、お芝居するときの身体の動きもセリフ回しも、とにかくうるさいです。黙っているときも「しーっ!」と指を立てたくなる(笑)。小林さん演じるキツネは登場シーンで、いろいろなところから舞台に出たり入ったりしますが、こだわりを持って細かく考えて動きを作っていました。キツネと王子が出会う場面では、小林さん演じるキツネがあちこち動き回ってくれるので、王子がただ立っているだけでも巻き込まれ、ストーリーが動いていく感覚で。ご一緒していて安心感がある先輩です!

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、泉陸演じるキツネ(右)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、泉陸演じるキツネ(右)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、小林啓也演じるキツネ(右)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

音楽座ミュージカル「リトルプリンス」より、小林啓也演じるキツネ(右)。(撮影:二階堂健、間野真由美)

1人じゃないと気付かせてくれるミュージカル、「リトルプリンス」と新しい自分を探しに行こう

──「リトルプリンス」をはじめ、「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」「マドモアゼル・モーツァルト」など、音楽座ミュージカルはオリジナルミュージカルのレパートリーを多数持ち、形を変えながら上演し続けています。お二人から見て、音楽座ミュージカルのオリジナル作品の良さはどんなところにあると思いますか?

 やっぱり、どのバージョンの公演も“完璧ではない”からこそ良いなと思います。お客様も私たちも生ものであり、変化し続けているので、同じものを再演していくだけではお客様の心に届かなくなるときが来てしまうかもしれない。変わりゆく私たちが、形を変えながらレパートリーを上演し続けるということに、オリジナルミュージカルをやる意味があると私は考えています。毎日何かが変わっていくその中で、今この瞬間しか捉えられないものを、オリジナルミュージカルを通じて作っていきたいですね。

森彩香

森彩香

山西 オリジナル作品というより、このカンパニーの好きなところなんですが、私は音楽座ミュージカルの作品を初めて観たとき、「これを観てあなたはどう生きていくの?」と投げかけられた気持ちになったことがずっと印象に残っています。音楽座ミュージカルでは、メンバーは台本作りの段階から作品全体に関われるので、出演者自身、役や作品から常にも「あなたはどうしたいの?」と問われている感覚がある。全員が「自分はどうしたいのか」を考えながら、その問いをお客様の心にも届けられるのが、このカンパニーの強みであり、外せないポイントであり、私の好きなところです。

山西菜音

山西菜音

──本作のフィナーレでは、オールキャストが歌う「はてしない宇宙 ソラ へ 探しに行こう 必ず見つかる」というフレーズが耳に残ります。「リトルプリンス」イヤーも折り返しを過ぎた今、この舞台を通じてどのようなメッセージを観客に届けたいですか?

 この舞台をご覧になる方には、心に抱えている孤独と決別してほしいです。生きていると「自分ってこういう人間だよな」「この人ってこういう人間だよな」と、それこそ“目に見える”ものに縛られてしまうことがある。でもそれは自分や相手を孤独にするだけ。だからこの舞台を観る方には、その孤独とお別れしていただきたいんです。人は出会いを重ねるからこそ前に進めます。私自身、誰かと共に生きること、今自分がここで生きていることを感じながら、また新しい自分を探しに行きたいですし、お客様と一緒に孤独に立ち向かっていけたらなと思います。

山西 森さんがおっしゃるように、私たちはすごく孤独だし、寂しさに逆に生きる意味を見出して、自分から孤独を選んでしまうことがあるかもしれません。だけどこの作品を通じて、王子がさまざまなものに巡り会ってきたように、人生にはたくさんの出会いがあり、私たちは決して1人じゃないということに気付けました。個人的には「よし、孤独と決別するぞ!」と身構えて来ていただかなくても大丈夫なのですが(笑)、皆さんにとっても身近に感じられるであろう王子の姿を、フラットに楽しんで観ていただけたらうれしいですね。

左から山西菜音、森彩香。

左から山西菜音、森彩香。

プロフィール

森彩香(モリサヤカ)

広島県生まれ。大阪芸術大学芸術学部舞台芸術学科を卒業後、2016年から音楽座ミュージカルに参加。同年「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」里美役で初舞台を踏んだ。以降も「泣かないで」「ラブ・レター」「7dolls」「ホーム」「グッバイマイダーリン★」など、多数の作品で主役を演じている。

山西菜音(ヤマニシナオ)

愛知県生まれ。同朋高等学校音楽科声楽専攻ミュージカルコース出身。小学生の頃にミュージカルを始め、ミュージカル「SCORE」、エステー化学主催ミュージカル「赤毛のアン」などに出演した。2021年から音楽座ミュージカルに参加し、「ラブ・レター」「JUST CLIMAX」「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」などに出演している。