ダンスミュージカルに生まれ変わる、音楽座ミュージカル「ホーム」に森彩香・安中淳也が語る思い (2/2)

大号泣、大っ嫌い…そして音楽座ミュージカルに加入した2人

──安中さんは2007年、森さんは2016年から音楽座ミュージカルに参加しています。参加のきっかけは何だったのですか?

安中 僕は2005年から音楽座ミュージカルの作品に携わっていて、2007年の「アイ・ラブ・坊っちゃん」から正式にカンパニーメンバーになりました。音楽座ミュージカルに関わる前は芸能事務所に所属していましたが、スケジュールの都合でしばらくオーディションを受けられない時期があり、あるときずいぶん久しぶりにマネージャーから「音楽座ミュージカルのオーディションを受けてみる?」と連絡が来たんです。僕はオーディションに飢えていたので、団体名も知らないまま「何でも良いので、やらせてください!」と即答です(笑)。その後、知り合いに音楽座ミュージカルの大ファンがいて、オーディションを受ける前に「JUST CLIMAX」という過去作品の名場面を集めたビデオを見せてもらいました。それが素晴らしかったので「自分もやってみたいな」と思うきっかけになりましたね。

 へえー!

安中 でもオーディションに合格してから気付いたのですが、当時の事務所の先輩が音楽座ミュージカル「メトロに乗って」の2000年の初演に出演していて、僕もル テアトル銀座(現在は閉館)で観劇していたんです。最後列だったけど大号泣したし、主人公のナンバーを口ずさみながら帰ったことを思い出して。当時は団体名を意識していなかったけど、実はオーディションを受けるずっと前に音楽座ミュージカルと出会っていたと知って、運命を感じました。

左から森彩香、安中淳也。

左から森彩香、安中淳也。

 私も音楽座ミュージカルのことはまったく知らなかったのですが、大阪芸術大学でお世話になった先生が、以前「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」に出演していて、私が大学1年生のとき、「シャボン玉」関西公演の宣伝を兼ねて、音楽座ミュージカルのメンバー2人がワークショップを開いてくれました。学生たちが自分たちなりに劇中歌「ドリーム」の曲を使ってパフォーマンスしたのですが、私たちの発表が終わると「あなたたち、それで本気なの? それでこの業界で生きていこうと思ってるの?」と辛口のフィードバックをもらい……それを聞いて私、「大っ嫌い!」ってすっごくムカついちゃって、在学中は音楽座ミュージカルの公演をまったく観なかったんです!(笑) でも卒業が近づいて、いろいろなオーディションを受けながらなんとなく「ただミュージカルをやるだけの俳優になりたくない」と考えていたとき、例のフィードバックが心に引っかかっていると気付きました。「あの人たちは商業演劇の宣伝に来たのに、どうして観客でもある私たちに怒ったんだろう」って。それが気になって仕方なかったから、その思いを書類に書いて応募したら面接に進んでしまい(笑)。面接でチーフプロデューサーに「音楽座ミュージカルは何を大切にして活動しているんですか」と尋ねたら、「私たちは1人ひとりやりたいことが違うし、それで良い。それぞれがやりたいことのために集まって舞台を作っている集団です」と答えてくれました。その言葉を聞いたらワークショップで怒られたことがよみがえってきて、「言われたままに演じるだけではなく、自分自身がしたいことに必死に向き合う人たちなんだ。それってすごく素敵だ」と思い、そこからこのカンパニーが好きになりました。

安中 良いエピソードを持ってるね!

左から安中淳也、森彩香。

左から安中淳也、森彩香。

音楽座ミュージカルは、みんなが夢をかなえるホーム

──今のお二人の演劇的な“ホーム”と言える音楽座ミュージカルに、どのような魅力や特色を感じていますか?

 社会から絶対なくしたくないものを持っている場所だと思います。私たちはエンタテインメントを届けることを目指すカンパニーではありますが、メンバーは普通に働いている人と同じ。社会で生きる1人ひとりが、何をしてどう食っていけるかを考えているという意味で、会社員の方と何ら変わりません。私はこれからも音楽座ミュージカルで、エンタテインメントとビジネスを融合させ、成立させていくためにどうすべきか考え、形にしていけたら良いなと思っています。

安中 若いのにすごいね……。

 あははは! 急におじいちゃんみたいにならないでください(笑)。

安中 僕は前代表の相川レイ子が言っていた「ここは自分も含めて、メンバー全員が夢をかなえる場所」という言葉が今もズシンと胸の中心にありますね。時代が変化し、代表も替わりましたが、カンパニーとしての根本的な在り方には前代表の思いが受け継がれています。昔の僕は「自分の夢をかなえたい」と個にとらわれていたけれど、最近では「今いるメンバーと一緒に、カンパニー全体で先を目指したい」と、ちょっとだけ意識が変わり始めていると感じます。

安中淳也

安中淳也

 自分のためだけにがんばっていると、自分を超えられない瞬間がいつか来る。だけど音楽座ミュージカルにいたら、自分のためだけに生きていられません(笑)。私も試練に対して、「これは今、自分を超える瞬間を与えられているんだな」と、ありがたみを感じられるようになってきました。カンパニーの一員であることが背中を押してくれていると思いますし、感謝です。

安中 今の時代では個が重視されていますが、他者とのつながりを完全になくすなんて無理です。以前メンバーから「うちはうざいカンパニーだよ」と冗談半分に言われましたが(笑)、音楽座ミュージカルは誰かを1人にさせないし、常に自分と周囲とのつながりを確認できる“ホーム”ですね。

──長く一緒に活動しているお二人は、お互いにどんな印象がありますか?

安中 森さんは素晴らしいです。ある種エキセントリックな一面もありますが(笑)、彼女はどこまでもお芝居に夢中になれる人。僕は、素の自分があまり好きではなく、素と違う自分でいられる瞬間をたくさん味わいたくて、演技の仕事を目指しました。だから俳優として、ひたすら演技に没頭できる森さんがうらやましいです。尊敬しています!

 ありがとうございます! 安中さんは……今ご自身でおっしゃった通り、素の自分とは違う何かをまとっているというか、実はけっこう“シールド”が固い(笑)。「泣かないで」で物語の中心になる女子工員・森田ミツと大学生・吉岡努を演じたように、安中さんとは対になるような役柄でいろいろご一緒してきましたが、一定の線から先に入り込ませないところがあると感じていて、以前の私は「あそこにもう1歩踏み込まなきゃ!」と思い込んでモヤモヤしていました。だけどお芝居以外の、営業や研修やワークショップといったお仕事に一緒に取り組む中で、「このシールドも含めて、まるっと全部が安中さんなんだ」と思えるようになりました。そこから“バーサス”ではなく、身構えず、信頼して一緒にいられる関係になった気がします。

森彩香

森彩香

「それで良いんだよ」と感じてほしい

──お互いをリスペクトして背中を預け合っていらっしゃるのですね。お話を聞いて、新たな「ホーム」への期待がますます高まりました。

 今回は“流された”先の希望をお客様にお伝えできたらうれしいです。今まで日本では、「戦争のどん底から立ち上がるんだ! 地に足を付けて根を生やし、何かを残して生きていくんだ!」という考え方が受け継がれてきたように思います。でも今の時代に、そのしわ寄せが来ている気もする。私、今回の「ホーム」の台本を初めて読んだとき、「風に飛ばされるように生きてみたいな」と思ったんです。流されるのは悪いことだと思う人は多いかもしれない。だけど流された先でふと立ち止まった人たちが、そこでただ生きている様子をお見せできるような、“風通し”が良い作品にできたら良いですね。

安中 今回は「それで良いんだよ」というシンプルな言葉をお客様にも感じてほしいです。これは僕自身がそう思いたいというのもある。自分は自分のままで良いし、周囲の人とは嫌でもつながっています。だから無理にあらがわず、「これで良いんだ」と感じてもらえたらなと。今まさに人生に苦しみを感じている人には、今にとらわれすぎないでほしいですし、今楽しくやれている人には「甘えんなよ!」というメッセージが届けば良いな(笑)。人間や人生は1つの色では表しきれないから、「それで良いんだよ」と思ってもらえたらうれしいです。

左から安中淳也、森彩香。

左から安中淳也、森彩香。

プロフィール

森彩香(モリサヤカ)

広島県生まれ。大阪芸術大学芸術学部舞台芸術学科を卒業後、2016年から音楽座ミュージカルに参加。同年「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」里美役で初舞台を踏んだ。以降も「泣かないで」「ラブ・レター」「7dolls」「リトルプリンス」「グッバイマイダーリン★」など、多数の作品で主役を演じている。

安中淳也(アンナカジュンヤ)

埼玉県生まれ。「ボーイ・フロム・オズ」「FAME」「クリスマスの贈り物」「カーネギーの日本人」「夢があるから」といった舞台作品に出演。その後2007年から音楽座ミュージカルに加わり、初参加にして「とってもゴースト」の主役に抜擢された。その後も「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」「泣かないで」「ラブ・レター」「アイ・ラブ・坊っちゃん」などで、主要な役柄を務める。