熱い思いを“歌”に込める…阪本奨悟が語る音楽劇「まほろばかなた」

2014年に上演された舞台「まほろばかなた -長州志士の目指した場所-」が、音楽劇「まほろばかなた」として新たな形で蘇る。西田大輔が作・演出を手がける「まほろばかなた」は、“まほろば”を目指す長州藩士・高杉晋作、山縣狂介、大村蔵六、伊藤春輔、桂小五郎を軸にした浪漫活劇。「面白き こともなき世を 面白く」の句で知られる高杉に扮するのは、シンガーソングライターとしても活動する俳優の阪本奨悟だ。阪本はどのようなビジョンを持って高杉役に臨むのか? 公演を控える彼に本作に懸ける思いを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / Ryusei Imai

大切なのは想像すること

──音楽劇「まほろばかなた」では、DisGOONieの西田大輔さんと音楽家のYOSHIZUMIさんがタッグを組み、幕末志士たちの熱い物語を紡ぎます。まず、本作への出演が決まったときの心境を教えてください。

幕末を舞台にした別の作品には出演したことがあるんですが、実際に幕末志士の役を演じるのは初めての経験なので、素直にすごく楽しみでした。歴史上の人物は、「こんな人だったんじゃないか」「こんな風貌だったんじゃないか」というふうに、皆さんそれぞれ異なるイメージを持っていると思うので、期待を超えられるか不安な部分もあるんですけど、そのぶんやりきったときに達成感を得られるんじゃないかなと思っています。

阪本奨悟

阪本奨悟

──今回、阪本さんは謎多きカリスマ・高杉晋作を演じます。阪本さんご自身は高杉晋作という人物にどのようなイメージを抱いていますか?

奇抜というか、常識にとらわれない考えを持っている方という印象がありますね。外国の軍艦を独断で購入したり、15万の幕府軍をたった4000の兵で倒してしまったり……。一見するとエゴイスティックにも見えますが、自分なりの正義を貫いている人だなって。整った世の中に生まれた僕からすると、普通の人では到底思いつかないことにトライして成功を収めるのは、並大抵のことではないなと思います。

一方で、何を考えているのかわからないところは自分と近い部分かもしれません。僕も自分の感情を大っぴらに表現するタイプではなく、言わなくても良いと思ったことは胸の奥にしまっておくほうなので。あとは、自分の中で譲れないものがあって、成し遂げたいことがある、というところにもシンパシーを感じますね。俳優やアーティストとしてお仕事をさせていただく中で、自分もそういった気持ちを大切にしています。

──高杉晋作のように、自分とかけ離れた背景を持つ人物を演じるとき、どういったことを意識しながら役を立ち上げていくのでしょうか?

やっぱり、一番大切にしているのは想像することですね。「自分はこういう人間だ」と思い込むところから始めることが多いです。いろいろな資料から得た情報をもとに役作りをすることも大事だと思うんですけど、考えすぎて頭でっかちになるより、稽古をしていく中で生まれた感情を大事にしていくタイプかなと。西田さんとご一緒させていただくのは今回が初めてなので、共演者の方も交えて、作品やキャラクターに対するイメージを擦り合わせていけたら良いなと思います。

阪本奨悟

阪本奨悟

──西田さんの作品で阪本さんがどのように輝くのか非常に楽しみです。以前、西田さんの作品に携わったキャストの方にお話を伺った際、「西田さんは海賊の船長のような方」と形容されていました。

ははは! 皆さん、そうおっしゃるんですね! (糸川)耀士郎も「海賊みたいだよ!」と言っていました。海賊とは少し違いますけど(笑)、個性的なキャラクターが集まった幕末志士たちのお話なので、チームワークを大切に、皆さんと深い関係が築けたら良いなと思っています。

──今お話に挙がった糸川さんは、高杉と共に“まほろば”を目指す山縣狂介を演じます。

耀士郎とは同い年、かつ別の作品でご一緒したことがあるので安心感がありますね。あと僕、耀士郎の歌声が大好きなんですよ! なので今回、耀士郎の歌が聴けるのをすごく楽しみにしています。

──糸川さんの力強い歌声と、阪本さんの爽やかな美声が奏でるハーモニーは必聴ですね。本作のキャストの中で、糸川さんのほかに共演経験のある方はいらっしゃいますか?

伊藤春輔役の廣野凌大くん、勝海舟役の根本正勝さんと共演させていただいたことがあります。自分は普段、現場で末っ子キャラのようなポジションになることが多いんですが、今回は凌大の兄貴分にあたる役柄を演じるので、懐の大きさを表現できるようにがんばりたいなと(笑)。根本さんに関しては、直近の舞台で絡みの多い役どころを演じたばかりだったので、またご一緒できてうれしいなと思っています。

阪本奨悟

阪本奨悟

“アーティスト・阪本奨悟”は“裸の心”を見せる

──阪本さんはシンガーソングライターとしても活動し、楽曲のリリースやライブ出演などを積極的に行っています。阪本さんの中で、俳優として役に扮して歌唱することと、アーティストとして歌声を披露することについては、どのような違いがあると考えていますか?

言葉を発するプロセスというのは、気持ちがこもって心が動くことから始まると思うんです。僕たち俳優が役を演じるときは、セリフや歌詞の一節ひとふしに描写されたキャラクターの心情を紡いでいく。役を演じる際は、意識して何かを変えるというより、役や作品に応じて自然に変わっていくという感覚ですね。この役だったらこんな声が出て、こんな感情で歌うんじゃないかなっていうのを、お芝居に落とし込んでいくイメージ。なので、“阪本奨悟”としてライブをするときとは自然と違うテイストの表現になるのかなと考えています。

──“アーティスト・阪本奨悟”として活動するときは、どういったことを大切にされているのでしょう?

お客さんに“裸の心”を見せるような気持ちでステージに立っています。お客さんは役を通してではなく、素の僕を真っすぐに見てくださるので、自分自身に向けて賞賛していただいていることを感じてすごくうれしくなりますね。

今回の作品のことで言うと、古き良き男らしさ、日本ならではの奥ゆかしさを歌声で表現できたら良いなと。謎めいているけど、心の底では燃えていて、でもその気持ちを見せつけたりはしない。そこを意識できたら、より深い作品になるのかなと思っています。

阪本奨悟

阪本奨悟

歌の力で作品の魅力を引き出す

──西田さん演出の作品といえばハードな殺陣やアクションが印象的です。阪本さんもこれまでの出演作で殺陣の多い作品を経験されていますが、殺陣に挑戦するうえで楽しいなと感じるポイントはどのようなところですか?

得意と言える自信はないんですが、殺陣をやるのは楽しいし、すごく好きですね。相手役の方と呼吸がぴったり合ったとき、本当に気持ちが良いんですよ。受け手の方がお上手だと、自分がものすごく強くなったような錯覚に陥ることもあります(笑)。

──阪本さんが殺陣やアクションを披露する場面があるのか、期待が高まります。では最後に、この座組で挑む「まほろばかなた」の見どころを教えてください。

今、公演に向けて、幕末の歴史を勉強している最中なのですが、いろいろな視点から物事を見ていくと価値観がガラッと変わるし、「何が正義か」ということも変わってくるんだなと感じて。どう転ぶかわからない世の中だったからこそ、群像劇のようなドラマが生まれていたんだなと改めて思いました。今回はそうそうたる演者の方々と音楽劇という形で作品を立ち上げていきますので、歌の力で作品の魅力を引き出すことができるんじゃないかと確信しています。ぜひ期待していてください。

阪本奨悟

阪本奨悟

プロフィール

阪本奨悟(サカモトショウゴ)

1993年、兵庫県生まれ。「ミュージカル『テニスの王子様』」の青学4代目越前リョーマ役でブレイク。俳優業の傍ら、シンガーソングライターとしても活動しており、2017年に福山雅治プロデュース「鼻声 / しょっぱい涙」でメジャーデビューを果す。また、映画「恋と嘘」の主題歌・挿入歌、テレビアニメ「奴隷区 The Animation」、アニメ映画「劇場版『王室教師ハイネ』」などの主題歌を担当。俳優としての主な出演作に、「ミュージカル『刀剣乱舞』」、ブロードウェイミュージカル「IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ」、「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」「演劇調異譚『xxxHOLiC』」「『ワールドトリガー the Stage』大規模侵攻編」などがある。