ローソンチケットpresents「ここだけの話 ~クリエイターの頭の中~」03. 岩井秀人×三浦大輔|リアルを突き詰めた面白さ、違いはコスパ?

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たぶん三浦くんより僕は弱い(岩井)

三浦 今僕らの世代でちゃんと劇団としてコンスタントに公演を打って、動員もしっかりあるのって、やっぱり、真っ先にハイバイが浮かびます。岩井さんは劇団の形態にこだわりがあるんですか?

岩井秀人

岩井 そうだね。もう僕を含めて5人しかいないけど、でも1人で外部で仕事してきて劇団に戻ってくるという、ざっくりした繰り返しにしとかないといけないって思ってて。やっぱり劇団で作品を作り始めたし、作品を作ったからにはどんどんそれを再演とか東京以外でも上演して強くしていきたいという思いもあるし。でも三浦くんの作品は再演するにもすごく重たいよね。美術のことといい、俳優さんがあそこまでいくには時間も労力もすごくかかるだろうから。ポツドールが最後に劇団として地方とかに行ったの、いつ?

三浦 2012年に京都でやった「夢の城」が最後ですね。もう6年ですか。でも劇団公演もやりたいし、再演もやりたいですけどね。やっぱり、もったいないなと思っちゃうので。

岩井 演出してる側からすると、ポツドールが相当詰めた作り方をしてることはよくわかります。本当に、映画のここ一番で出す演技みたいなのを、三浦くんの作品では毎公演やらなきゃいけないから、やっぱりコスパが……(笑)。

三浦 いや、それは本当によくないと思ってて。

岩井 けどそれがすごい武器でもあるでしょ。

三浦 でもやっぱり、演劇って繰り返すものなので。

岩井 あー!(笑) 三浦くんがそれ言った。

三浦大輔

三浦 (笑)。でも最近、そう思うんですよ。台本を書くときも、それこそ“その一瞬一瞬がよくないと全体が成立しない”というような本を書いちゃうんですよね。またその瞬間的な面白さとかがなくなると、僕の芝居の面白さってなくなっちゃうんですよ。岩井さんもそのストレスってありますよね?

岩井 すごいある。ポツドールがなかったら、僕も果てしなく突き詰めるってことをやったかもしれない。ただポツドールを観てると、ときどきお客さんをすごくヤバい気持ちにさせてるんじゃないかって思うことがあって。どんどん演劇としての過激さを求められていく感じになると言うか。

三浦 そのストレスはありましたね。ただうちはやっぱり一時期、「次はどんなことやってくれるんだ?」っていう期待でお客を集めた部分もあったので積んでいきましたけど、どこかで破綻するだろうなとは思ってました。岩井さんの場合は、緩急ですよね。油断させるから人間の奥底を突くことができる。ずっと豪速球を投げるよりも、カーブ投げたあとにストレートを投げたほうが速く見えると言うか(笑)。客の操り方がうまいんだろうなって思います。

岩井 たぶん三浦くんより僕は弱いの。ずーっと詰めてぎゅーっと見るとどこかで持たなくなるから。ポツはとにかくすごい色を塗り続けるみたいなことをずっとやっていたよね。

三浦 それってやっぱり疲れるんですけどね(笑)。

映像の“画”作りは、演劇人がぶち当たる壁(三浦)

三浦 映像についてはどう思ってますか? 僕らの世代、みんな映画を撮ってますけど、まだなの、岩井さんだけかもしれないです。

岩井秀人

岩井 本当は映画を撮りたいと思って引きこもりから家を出てきたはずなのにね。余計に怖くなっちゃったのかもしれない。ちょこちょこ短いのは撮ってて、だいぶスタッフが固まってきた感じはあるけど。

三浦 慎重なんですね。

岩井 慎重ですよ、立ち回り命だから(笑)。でも僕、画心ないんです。それは致命的で。

三浦 それは演劇の人は絶対にぶち当たる壁ですね。

岩井 で、どうしたの?

三浦 勉強しましたよ、僕も映画観たりとか。この間の「娼年」は1カット1カット、絵コンテを書きましたからね。その場で考えるだけじゃ、映像の人に追いつけないと思って。でも演劇と映画は、役者の演出は基本変わらないと思うんだけど、技術的な面では相当違いますよね。

岩井 違う、本当に。演劇は観てる人の任意性みたいなものが強いから、映像でも両方映っててほしいと思っちゃうことがあって、でも引きにするとどっちも観えないもどかしさがあったりして。

三浦 僕は舞台の演出をするときも、意外と映像と同じようにカットの使い分けと言うか、引いたり寄ったりを考えてやってきてたんだなって最近、実感してはいて。でも演劇だってコツをつかむまでに10年以上かかってるから、映像もそんなすぐにコツがつかめるものではないんだろうなって思ってますけど。

書き方も演出法も、アプローチの変化へ

岩井 僕は最近書き方が変わってきてて自分の家族や自分のことをこれまでモチーフにして書いてきたんだけど、一番大きなモチーフだった父ちゃんが死んだのね。それを台本に書いて、自分のことは一段落しちゃった。ただその少し前からいろんな人に取材して台本を書いたりするようになっていて。

三浦 実体験よりもそっちに行ったんですね。

岩井 うん。で最近は「ワレワレのモロモロ」っていうタイトルで、出演者たちに自分の身の上に起きたことを書いてもらって芝居にすることをやってて。今度、(故・蜷川幸雄が創立した、55歳以上の劇団員からなる演劇集団)さいたまゴールド・シアターでもやることになったんだけど、それ、もう絶対面白いじゃん! 戦争のエピソードばっかりになっちゃって、ちょっと調整中なんだけど。

三浦大輔

三浦 それは確約されたようなものですね(笑)。

岩井 で、今年の10・11月にはフランスに行くんだけどフランス人の「ワレワレのモロモロ」もやることにもなっていて。

三浦 なんですか、その費用対効果!(笑)

岩井 (笑)。その前にまず2月、「ヒッキー・ソトニデテミターノ」を再演するんだけど。

三浦 「ヒッキー・カンクーントルネード」の続編なんですよね?

岩井 そう。引きこもりだった奴が外に出てきて別の引きこもり2人を外に連れ出そうっていう話。これも“レンタルお兄さん”っていう、引きこもりを外に出す仕事をしている人を取材して。

三浦 そういうことから切り込んだりするんですね。

岩井 まあ僕はたまたま出てきたけど、出てこなかったら自分がそこにお世話になるかもしれなかったんだって。そういう興味もあって。

三浦 やっぱり自分と地続きじゃないと。

岩井 それはあると思うね。今回僕は、初演で吹越満さんがやった真ん中の役をやるのね。いつもは代役を立てて作っていくんだけど、今回はちょっと違ってて、「ワレワレのモロモロ」とか、子供が書いた台本をベースにした「なむはむだはむ」をやったことで、いわゆるお芝居っていう形以外のことができたらいいなと思って、今ごちゃごちゃやってる感じ。

三浦 アプローチを変えているんですね。

岩井 でも結局カッチカチのお芝居になってたら、なんにも見つからなかったんだなって思ってください(笑)。

やっぱりオリジナルがやりたい

岩井 (三浦の新作「そして僕は途方にくれる」のあらすじを読んで)三浦くん、マジで変わってないね(笑)。

三浦 はい、変わらないですね(笑)。

岩井 いいぞー(笑)。本当にそこだけに正直に向き合い続けるって、精神的にちょっと壊れてるなって思うんですよね。

三浦 あははは!(笑) 今回もどうしようもない主人公がいて、恋人や友達、姉や親を裏切って逃げ続けるっていう話です。4年ぶりの新作で、もちろんこれまでとテーマ性とかいろいろ違う部分もありますが、基本的にはいつもの僕です。あ、でも実際にお母さん(の役を)出すのは初めてかもしれない。

岩井 意外と面白いですよ、そういう変化。出てきて、何をしゃべるのか。

三浦 でも結局、自分の母親のイメージを利用して書くしかないんですよね。

岩井 え? そうなの?(笑) 三浦くんのお母さん?

三浦 あくまでイメージとして、ですけどね。近年は映画でも演劇でも、原作ものをやることが多くて、どちらかと言うと演出家寄りの人だと思われている節があったんです。でもやっぱりオリジナルをやりたい思いは強くて。やって評価されるのはオリジナルが一番うれしいですし……。大変は大変ですけど。

岩井 三浦くんみたいな書き方は、本当に大変だと思う。

三浦 昨日台本を書きながら、この生活が死ぬまで続くのかと思ったら急に怖くなってきて。狂いそうになりましたよ。

岩井 近くにカウンセラーみたいな人いたほうがいいよ?(笑)

三浦 そうですねー(笑)。

左から三浦大輔、岩井秀人。
岩井秀人(イワイヒデト)
1974年東京生まれ。劇作家、演出家、俳優。2003年にハイバイを結成。07年より青年団演出部に所属。東京であり東京でない小金井の持つ“大衆の流行やムーブメントを憧れつつ引いて眺める目線”を武器に、家族、引きこもり、集団と個人、個人の自意識の渦、等々についての描写を続けている。2012年にNHK BSプレミアムドラマ「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞、13年「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。18年は2月から3月にかけて「ヒッキー・ソトニデテミターノ」を上演、初のパリ公演も行う。また5月にさいたまゴールド・シアター番外公演として「ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春」の構成・演出を手がける。初の監督作品「女の半生」が日本映画専門チャンネルのステーションIDとして1月28日から放送予定。
三浦大輔(ミウラダイスケ)
1975年北海道生まれ。早稲田大学演劇倶楽部を母体として96年に演劇ユニット・ポツドールを結成。2006年に「愛の渦」で第50回岸田國士戯曲賞を受賞する。10年にドイツで行われたTHEATER DER WELT 2010(世界演劇祭)に招聘され初の海外公演を実施。以降、ブリュッセル、モントリオールなどでも公演を行い、高い評価を得る。また劇団公演とは別に、ニール・ラビュート作「THE SHAPE OF THINGS」、つかこうへい作「ストリッパー物語」、ネルソン・ロドリゲス作「禁断の裸体-Toda Nudez Será Castigada-」の演出、石田衣良原作「娼年」の脚本・演出や、PARCOプロデュース「裏切りの街」「母に欲す」の作・演出を手がける。近年は映画監督としても活動の幅を広げており、自身の舞台を原作とした「愛の渦」「裏切りの街」を映画化している。18年は3月から4月にかけて「そして僕は途方に暮れる」(作・演出)を上演、4月6日に映画版「娼年」の公開が控える。