客席をザワつかせたい
──子供向けということについては、創作段階で意識されましたか?
ノゾエ 意識はありましたけど、下手にわかりやすくし過ぎちゃうとよくないねって、みんな暗黙の了解で思っていたと思いますね。
──原作には、皮を剥ぐシーンをはじめ、エグいシーンもいくつかありますが……。
ノゾエ むしろやっておこうというか、そこまで子供をバカにしちゃいけないんじゃないかって。
岸井 そうですね、子供はわかるものだよねって話をしましたね。
ノゾエ 僕らもけっこうそういうものには触れてきたし、守られてよかったということは意外となかったよね、と。良し悪しは、良し悪しに触れないと分からないと言うか。
──初演の客席には子供も多くいました。客席の反応で印象深かったことはありますか?
岸井 やっぱり皮を剥ぐシーンで泣いちゃう子は時々いましたね(笑)。あと私が客席に向かって話しかけるシーンでは、けっこう子供たちが返答してくれてうれしかったです。でもその内容が毎日違うからすごいプレッシャーで(笑)。
ノゾエ 全然反応がない日もあったよね。
岸井 そうなんです。 今年はもうちょっと皆さんに参加してもらえるようにしたいなって。
ノゾエ もうちょっとザワつかせたいよね(笑)。
──稽古はこれからとのことですが、再演は高いスタートラインから始められそうでしょうか?
ノゾエ いや。もう1回ゼロからですね。
岸井 ふふふ。
──そうなんですね! 再演ではノゾエさんがご出演されるシーンもあるそうですが、どのようなブラッシュアップを考えていらっしゃいますか?
ノゾエ この作品はゴリゴリ感がなくなってはいけないと思ってるんですね。再演って、初演より洗練されていく部分や、いいふうにまとまって、全体的なクオリティが上がる部分もあると思うんですけど、逆に「まとまりがあっていいね」になっちゃうことはこの作品には似合わないというか。だから角が取れないようにしたいと思っています。もちろん初演で気になっていた角は丸くしていくと思いますが、その分、新たな角は作りたいと思っていて、それを稽古の中でまたみんなで、1日たりとも安心せずにやっていきたいなと。「どう進化する? 自分たちは」って考える再演にしたいなって。
──岸井さんは、昨年出演された「るつぼ」で、魔女裁判に潜む陰謀を告発しようと苦しむメアリー役を熱演し、注目を集めました。そんな大人っぽい役から一変、再びまたルーシーと向き合ううえで意識していらっしゃることはありますか?
岸井 もうちょっと回りたいなって思ってます。けっこう冒頭でくるんくるん回るシーンがあって、難しいかもしれませんが……。
──あ、本当に“回る”んですね!
岸井 初演でも回ってはいたんですけど、もうちょっと回れるかなぁと。よりパワフルなルーシーにしたいなって。
ノゾエ あははは! さっき二人でちょっと話したときに、冗談で僕が「再演では、1オクターブ高く出せるようになってるとか、回れる回数が増えてるとか、そういう技術的な革新も見せたいな」って言ったんです。そうしたら今それを本気で言ってくれたので(笑)、めちゃくちゃうれしいですね。
──ではもう、バッチリですね!
岸井 (笑)。「ルーシー」は本当に果てしない作品というか、日常とはまったく違う部分があるし、全部振り切っていい舞台で。そういう作品ってなかなかないので、思いっきり振り切って今回もやりたいなって。初演をご覧になった方は、どの角が取れてどの角が新しく生まれたのか、どこがパワーアップしたのかを目撃してほしいですし、初めて観る方はすごく楽しみにしてきても、さらに楽しめる、帰るときにちょっとスキップしたくなるくらいハッピーな演劇になっていますので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
ノゾエ 観てよかったって間違いなく思える作品なので、“観てよかった”を感じに来てください!
- 「気づかいルーシー」
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- 2017年7月21日(金)~30日(日)
東京都 東京芸術劇場シアターイースト - 2017年8月4日(金)
福井県 ハーモニーホールふくい - 2017年8月6日(日)
長野県 まつもと市民芸術館 - 2017年8月11日(金)・12日(土)
富山県 富山市婦中ふれあい館 - 2017年8月16日(水)
広島県 はつかいち文化ホール さくらぴあ
- 2017年7月21日(金)~30日(日)
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原作:松尾スズキ(千倉書房「気づかいルーシー」)
脚本・演出:ノゾエ征爾
出演:岸井ゆきの、栗原類 / 川上友里、山口航太、ノゾエ征爾 / 山中崇、小野寺修二
演奏:田中馨、森ゆに
- ノゾエ征爾(ノゾエセイジ)
- 脚本家、演出家、俳優。劇団「はえぎわ」主宰。1975年岡山県生まれ。1995年、大学在学中に演劇活動を始め、松尾スズキのゼミを経て1999年に「はえぎわ」を始動。以降、全作品の作・演出を手がける。2012年に「◯◯トアル風景」にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞した。映画やドラマなど映像作品にも俳優として多数出演。広島アステールプラザや北九州芸術劇場のプロデュース公演など地方での長期滞在創作活動や、世田谷パブリックシアター@ホーム公演(高齢者施設巡回公演)、小野寺修二演出「あの大鴉、さえも」の上演台本執筆など、劇団外での活動も精力的に行っている。2016年12月には、故・蜷川幸雄の意を継ぎ、さいたまスーパーアリーナで、「1万人のゴールド・シアター2016『金色交響曲~わたしのゆめ・きみのゆめ~』」の脚本・演出を手がけた。
- 岸井ゆきの(キシイユキノ)
- 1992年神奈川県出身。ドラマ「小公女セイラ」でデビュー。以降、映画「ピンクとグレー」(行定勲監督)、「友だちのパパが好き」(山内ケンジ監督)、大河ドラマ「真田丸」など、話題作に次々と出演し注目を集める。舞台は「ヒッキー・ソトニデテミターノ」(岩井秀人作・演出)、ベッド&メイキングス「墓場、女子高生」「サナギネ」(福原充則作・演出)、城山羊の会「身の引きしまる思い」(山内ケンジ作・演出)、「るつぼ」(ジョナサン・マンビィ演出)など。主演映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」(森ガキ侑大監督)の公開が控える。