「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~ カガヤク ミライ ガ ミエル カナガワ 2021」|共生社会の実現に向けて、カナガワから文化芸術を発信!|森山開次×大前光市が語る「ダンスのミライ」 多田淳之介&藤川悠が語る「演劇のミライ」「アートのミライ」

多田淳之介&藤川悠が語る「演劇のミライ」「アートのミライ」

「演劇のミライ」
総合ディレクター・多田淳之介

多田淳之介©︎Toru Hiraiwa

今回のオリンピックでは、関係者による女性差別発言や開閉会式演出チームの降板騒動で、日本のダイバーシティや共生社会へのリテラシーの低さを露呈することになりました。国籍や人種、ジェンダー、障害の有無などさまざまな違いを尊重しながら共に生きる社会作りに取り組む以前に、まず自分以外の他者を人として尊重することから学び直して初めてスタートラインに立てるのだと思います。演劇部門では自分や他者への想像力や、ものを通じて新たな気付きが生まれるワークショップ、その場にいることで、それぞれの違いにかかわらず参加できる盆踊りを予定していました。残念ながら映像での配信になってしまい、体験することやその場にいることはできなくなりましたが、ワークショップの内容や講師の方の活動がわかるドキュメントと、無観客となった会場で、亡くなった人やコロナ禍で失ったもの、できなかったこと、行き場のない思いを供養するお盆のセレモニーを記録しました。亡きものの声に耳を傾けるように、行き場のない自分の心の声にも耳を傾ける機会にしていただけるとうれしいです。

芸術の大きな役割はこの世界の捉え方を改めて提示してくれることだと考えていて、特にパフォーミングアーツは人間の身体によって人間そのものを相対化してくれます。つまり人間とは何かということを最もダイレクトに伝えてくれるのがパフォーミングアーツです。人間はそれぞれが違うこと、それぞれの違いが社会の豊かさにつながること、演劇ではまったく同じ考えを持つキャラクターは誰一人登場しませんし、ダンサーの身体も誰一人同じではありません。舞台の上の多様性がこの世界の豊かさであり、ボーダーを超えて協働する価値を改めて感じさせてくれます。そして同じ時間に同じ空間で同じものを見ている人々が、それぞれ違うものを受け取りながら共存していることを実感できるのもライブパフォーマンスの醍醐味です。分断や排他が何を生んできたのか、歴史を振り返れば明らかです。文化芸術は、目先のことしか見えなくなった人間が歴史のような大きな視野を取り戻す力にもなります。自らその力を放棄することのないよう願うばかりです。

多田淳之介(タダジュンノスケ)
1976年、神奈川県生まれ。演出家。東京デスロック主宰。古典から現代戯曲、小説、詩など、古今東西のテキストから現代社会の問題を炙り出す。学校や文化施設でのワークショップや創作を数多く手がけ、韓国、東南アジアとの国際共同製作も多数。韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞した。「東京芸術祭2021」にて、東京芸術祭ファームのディレクターを務める。

「アートのミライ」
キュレーター・藤川悠

藤川悠©︎Ben Matsunaga

今、私たちを取り巻く世界では、目に見えないものが社会にさまざまな影響を与えていると言えます。今回「アートのミライ」では、人と人との共生・共創を図るだけでなく、もう少し幅を広げて、人と有形無形のものたちとの関係性について考えを巡らせることを意図し、人、生物、光、音、風などと共に作品を創っていく5組の作家を選びました。津田道子さんの作品「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」は、カメラ、スクリーン、鏡などを用いて時空を超える“不在の存在”を浮かび上がらせ、岩崎秀雄さんの「Culturing <O/Paper>cut」は、作品が微生物と共創されていきます。また、MATHRAX〔久世祥三+坂本茉里子〕による「ステラノーヴァ」では、音と光によるコミュニケーションに着目し、三原聡一郎さんの「空気の研究」では、リアルタイムの風の動きが作品に反映されました。そして佐久間海土さんの「Ether - liquid mirror -」では、空や周囲の建物を鏡に写しながら音の視覚化や物質化を試みています。

私たちは普段、主に言葉でコミュニケーションを取っています。今回は、音や光、触覚など、今まであまり意識できていなかった感覚をコミュニケーションの一つの手段として捉え、それを体験していただくことで、他者との関係性に新たな気付きが生まれたらと思ってキュレーションしました。

今、世の中では、世界がまるで突然180°変化したような報道のされ方をしていますが、私たちが生きていく中では、常に微細な変化が起こっていることに、改めて目を向けてみる必要があるのではないかと考えています。また、あまりにも大きな物事の流れの中では、誰もがささやかな変化や小さな存在に気付けなくなってしまうのではという懸念がありました。

今回、無観客での映像配信となったことで、皆さんに場と呼応する作品を体験していただくことはかないませんでしたが、人のいない空間に佇む5組の作家の作品映像を通して、変わり続ける今を捉え、迎える予定であった人間の存在に深く思いを馳せていただければと思います。それと同時に、ささやかな存在と多様なものたちとの共生について考えを巡らせるひと時を、さまざまな思いを抱える人々と共に過ごすことができればと願います。

藤川悠(フジカワハルカ)
茅ヶ崎市美術館学芸員。専門は現代美術と教育普及。環境や空間を生かして、人の五感に働きかける事業を数多く企画している。アーティストや障害のある人と共に地域をリサーチした「美術館まで(から)つづく道」展で高い評価を受けた。第20・21・22回文化庁メディア芸術祭選考委員、女子美術大学非常勤講師を務める。

盆棚の飾りたちが踊る「わんす おぼん な たいむ」収録レポート

いる・おどるセレモニードキュメント「わんす おぼん な たいむ」より。

多田淳之介が総合ディレクションを担当する「演劇のミライ『しるやるかわるいるおどるプロジェクト』」は、自分や他人を知ることにより、共生社会の実現への一歩を踏み出すことを目指すプロジェクト。「演劇のミライ」には、「老いと演劇」OiBokkeShiの菅原直樹、ミュージアムエデュケーションプランナーの大月ヒロ子、美術家のヴィヴィアン佐藤による共生をテーマにしたワークショップドキュメンタリーや、妖精大図鑑の永野百合子が構成・振付を手がけるパフォーマンス「いる・おどるセレモニードキュメント『わんす おぼん な たいむ』」がラインナップされている。ここでは、8月中旬に神奈川・神奈川県立青少年センターで行われた「いる・おどるセレモニードキュメント『わんす おぼん な たいむ』」の撮影風景をレポートする。

いる・おどるセレモニードキュメント「わんす おぼん な たいむ」より。

「いる・おどるセレモニードキュメント『わんす おぼん な たいむ』」のモチーフは盆踊り。“鎮魂”や“人と人とのつながり”をコンセプトに、今“ここにいる”ことを祝うパフォーマンスが展開される。会場に足を踏み入れると、まず、快快の佐々木文美がデザインしたポップなやぐらが目に留まる。竹笹に四方を囲まれたステージには、炎やとうもろこしをモチーフにしたオブジェが配置されており、その中で、カラフルな衣装を身に付けた“盆踊りパフォーマー”たちがスタンバイしていた。盆踊りパフォーマーが着用しているのは、なす、きゅうり、ほおずき、とうもろこし、盆灯籠、そうめん、昆布など、お盆や夏をイメージしたキュートな衣装。東京デスロックの原田つむぎがデザイン・製作した盆踊りパフォーマーの衣装と、大月のワークショップで製作されたアンサンブルの衣装、佐々木による色鮮やかな美術は相性バッチリだ。ステージ横に設置された演奏場所に、木ノ下歌舞伎のやまみちやえ率いる演奏隊が加わり、「うろおぼえおんど」の撮影がスタートした。

やまみちが作曲した「うろおぼえおんど」は、歌舞伎や文楽の風情を感じさせる物語調の祭囃子。やまみちは「うろおぼえおんど」のほかにも、「ゆるびすさびうらんぼんえ」「わんす おぼん な たいむ」の作曲を担当しており、どの曲も、幼い頃から古典文化に親しんできたやまみちならではの楽曲に仕上がっている。

いる・おどるセレモニードキュメント「わんす おぼん な たいむ」より。

盆踊りパフォーマーを率いるのは、多摩美術大学出身の3人組ユニット・妖精大図鑑。今回、構成・振付を担う永野は、「横浜ダンスコレクション2018」コンペティションⅡの新人振付家部門で最優秀新人賞を受賞した気鋭の振付家だ。妖精大図鑑を中心とした盆踊りパフォーマーたちは、“おバカ、なのにちょっと切ない、エキセントリックセンチメンタル”をコンセプトにしたダンスで、撮影現場を見事に盆踊りの会場へと変え、観客の心と身体を盆踊りの輪の中へと誘う。盆踊りパフォーマーたちのしなやかで自由な身体から生み出されるパワーは、ステージと客席、画面の向こう側とこちら側、ひいては彼岸と此岸の境を超えて、異なる世界をつなぐような、そんな力を持っている。撮影に参加するため、舞台袖で見学していたヴィヴィアン佐藤も「ダンサーさんたち、すごい身体能力ね」と目を丸くしていた。

ヴィヴィアン佐藤

盆踊りパフォーマーが中心となるパートの撮影が終わると、アンサンブルを交えたシーンの撮影へ。この場面では、子供から大人まで20人ほどのアンサンブルパフォーマーたちが盆棚をモチーフにしたステージをぐるりと囲み、本格的な盆踊りの体勢を作る。中でも一際目を引くのは、ヴィヴィアンの華やかな装いだ。きらびやかな着流しに、トレードマークの青い唇がキラキラと光る。しる・やる・かわる共生ドキュメント「自分との共生『ヴィヴィアン佐藤氏:名付けられない時間、名付けられない空間、名付けられない自分』」でも語られていることだが、化粧や着飾る行為は、本来の自分に戻る行為であり、隠されている自分自身の大切な一面を取り戻すための営みである。自分自身の在り方と向き合い、“裸”になったヴィヴィアンは、参加者の子供たちと談笑しつつ、楽しそうに出番を待っていた。

映像ディレクターの「用意、スタート!」の掛け声で撮影再開。初めは散り散りだった個性が、テイクを重ねるごとに寄り集まり、大きなグルーヴを生み出していく。自然とこぼれる彼らの笑顔を、時に近くで、時に離れた場所から数台のカメラが捉える。カットがかかると、パフォーマーたちは安堵の表情を浮かべながら、周囲の出演者と顔を見合わせ、互いの労をねぎらっていた。

新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでのように友人や家族と連れ立って祭り会場へ行き、やぐらを囲むことが難しくなってしまった現在。しかし映像の中で歌い踊る彼らが、あの懐かしい夏の夜空の下へと連れて行ってくれるはず。ぜひ自宅で映像を楽しみながら、一緒に踊ってみてほしい。

いる・おどるセレモニードキュメント「わんす おぼん な たいむ」より。

「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~ カガヤク ミライ ガ ミエル カナガワ 2021」配信情報

全体紹介 各部門ダイジェスト映像

2021年9月4日(土)~

「ダンスのミライ」

総合ディレクション:森山開次

衣装:ひびのこづえ

音楽:川瀬浩介

AR森山開次「心臓」「胆のう」
2021年8月16日(月)~
左から森山開次、大前光市。
新作映像「BODY face | 目と目で向き合う」「BODY resonance | からだの音色」「BODY difference | めぐり逢う内臓」
2021年8月23日(月)~

振付・出演:森山開次、大前光市

LIVE BONE×大前光市より。
新作映像 大前光市×LIVE BONE
2021年8月25日(水)~
ひびのこづえ×ホワイトアスパラガス×川瀬浩介「WONDER WATER」より。(撮影:石川直樹)
パフォーマンス ひびのこづえ×ホワイトアスパラガス×川瀬浩介「WONDER WATER」
2021年9月10日(金)~

「演劇のミライ『しるやるかわるいるおどるプロジェクト』」

総合ディレクション:多田淳之介

左から菅原直樹(撮影:草加和輝)、大月ヒロ子、ヴィヴィアン佐藤(Photo by ANJU杏珠)。
しる・やる・かわる共生ドキュメント
2021年9月6日(月)~
  • 老いとの共生「菅原直樹氏:老いとボケと演劇~認知症の人と“いま、ここ”を楽しむ~」
  • モノとの共生「大月ヒロ子氏:くふうよ!→(きったり・ぬったり・つないだり)→!ようふく」
  • 自分との共生「ヴィヴィアン佐藤氏:名付けられない時間、名付けられない空間、名付けられない自分」
いる・おどるセレモニードキュメント「わんす おぼん な たいむ」より。 妖精大図鑑(撮影:福本剛士)
いる・おどるセレモニードキュメント
「わんす おぼん な たいむ」
2021年9月4日(土)~

構成・振付:永野百合子

音楽:やまみちやえ

作詞:飯塚うなぎ、やまみちやえ

出演:飯塚うなぎ、永野百合子、間野律子、山下恵実、安部萌、齊藤コン、住玲衣奈

特別出演:ヴィヴィアン佐藤 ほか

作調・演奏:やまみちやえ(太棹三味線)、望月左太助(囃子)、藤舎雪丸(囃子)、迎田優香(笛)、西垣秀彦(唄)

「アートのミライ」

2021年9月3日(金)~

キュレーション:藤川悠

津田道子「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」
岩崎秀雄「Culturing <O/Paper>cut」
MATHRAX〔久世祥三+坂本茉里子〕「ステラノーヴァ」
三原聡一郎「空気の研究」
佐久間海土「Ether - liquid mirror -」

「音楽のミライ」

2021年9月6日(月)~

サルサガムテープ「楽しさを分かち合おう!」

出演:サルサガムテープ、大山貴善

三橋貴風「時をかける韻(ヒビキ)~奇蹟の尺八 三橋貴風~」

出演:三橋貴風、福田栄香、外山香、手使海ユトロ ほか

「工芸のミライ」

2021年9月6日(月)~

「青・黄・黒・緑・赤 前田正博作陶50周年 色の風景」

出演:前田正博

トークショー「工芸から見える日本酒のミライ」

出演:前田正博、植野広生、外舘和子、橋場友一