末満健一×東啓介 対談
“だましうち”でシリーズ化が始まった「TRUMP」
──シリーズの原点である「TRUMP」は、“擬美少年化芝居”と銘打たれ2009年に初演されました。“ヴァンプ”という題材は、どのようなきっかけで思い付いたのでしょうか?
末満健一 09年頃は若手俳優さんによるキラキラしたお芝居が上演され始めてきた時期で、その波は当時まだ関西まではさほど届いていなかったんですが、「東京では今こういうのが流行ってるらしいぞ」という噂は耳にしていて。そのパロディのつもりで「おっさんたちで美少年吸血鬼ものをやってみよう!」と始めたのが取っ掛かりだったんです。
東啓介 ははは!(笑) そうだったんですね。
末満 おっさんたちが髪の毛をクルクルに巻いたり、ゴシックなメイクをしたり、耽美な衣装を着たり、最初は形から入ったんですが、ストーリーはしっかりしたものがやりたかった。と言うのも、僕は手塚治虫先生の「火の鳥」から影響を受けていて、「自分がもしこういう題材で創作したらどんな作品になるだろう?」ということにずっと興味があったんです。形から入った企画の軸となる要素として、そのテーマに取り組むことにしたのがこの「TRUMP」でした。初演の時点でキャストの平均年齢が30歳を超えていたんですけど、「皆さん、美少年のふりじゃなくて、自分のことを美少年だと思い込んで本気で演じてください」って演出を付けたら思いのほか破壊力が生まれて、ものすごくウケたんですよね(笑)。12年に「TRINITY THE TRUMP」というタイトルで再演したあと、ワタナベエンターテイメントから声をかけてもらって、本当の美少年たちによる「Dステ12th『TRUMP』」が誕生しました。巡り合わせがいいと言うべきか、皮肉と言うべきか……(笑)。
東 “擬美少年化”だったのに“擬”じゃなくなっちゃった、みたいな(笑)。
──「TRUMP」をシリーズ化する構想は当初からあったのでしょうか?
末満 目の前の作品に手一杯で、シリーズ化するなんて考える余裕もなかったんですけど、初演「TRUMP」を上演する中で、「このキャラクターのエピソード、もっと掘り下げられるな」「ここはこうつなげられるな」っていうアイデアが浮かんできて、流れでシリーズ展開していったという感じです。最初にシリーズ化を意識したのは、演劇女子部「ミュージカル『LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-』」(14年)のときですね。最初にプロデューサーから、「『TRUMP』みたいな作品作れない?」と相談されて、「設定だけ流用してやります」と答えたんですけど、蓋を開けてみたらガッツリ「TRUMP」の続編だったっていう。僕以外誰も続編だということは知らない状態で、だましうちみたいな感じでシリーズ化が始まりました(笑)。
東 だましうち……!(笑)
“ポジティブダンピール”はとんちゃんのイメージから生まれたキャラクター
──「TRUMP」の前日譚にあたる「グランギニョル」では、ダリ・デリコ世代に焦点を当てた物語が描かれました。改めて振り返ってみて、「グランギニョル」はシリーズにおいてどのような位置付けの作品になったと思われますか?
末満 「TRUMP」でのダリのキャラクター像について、「ひどいやつだ」「身勝手なやつだ」「お前のせいで息子たちが苦しんでるんだぞ」という意見があったんです。でも自分の中では「たぶんダリって本当は悪いやつじゃないんですよ」っていう感触があって、その弁解を形にしたのが「グランギニョル」ですね(笑)。
一同 (笑)。
末満 初演(09年)、再演(12年)、NAPPOS UNITED版「TRUMP」(15年)のダリは僕が演じていたんですけど、演出家がチラッと出てきて、にぎやかして帰っていくっていうふざけたポジションの役だったのに、まさか染谷(俊之)くんみたいな見目麗しい俳優さんが若き日のダリをやってくれることになるなんて。人生っていうのはわからないものだなって思いましたね。
──(笑)。確かに「グランギニョル」から観た方は、ダリに対してそこまで悪い印象を抱いていないと思います。
末満 そうですよね。「グランギニョル」から入って「TRUMP」をあとに観た人のように、入口が違うからこその見え方の違いも、このシリーズの面白さの1つなのかなと思います。
──東さんは、「グランギニョル」で初めてTRUMPシリーズに出演されましたね。
東 台本を拝見したとき、まず設定や用語が複雑だから勉強しなくちゃと思って。当時、「舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜」(17年)の合間を縫って稽古に行っていたので、足りないところは資料映像を観て補いながら、「グランギニョル」の世界観に溶け込むことに努めました。
──「グランギニョル」のDVD発売記念イベント「ヴァンパイアハンターの宴」でも過去作の映像を参考にしたとおっしゃっていましたが(参照:末満健一のフリで東啓介&松浦司が即興コント披露「グランギニョル」DVDイベント)、どの作品をご覧になりましたか?
東 ヴァンパイアハンターの臥萬里の話が中心になっている「SPECTER」(15年)と、「TRUMP」ですね。僕が「グランギニョル」で演じた李春林がダンピールのヴァンパイアハンターということもあって、ヴァンパイアハンターというのはそもそもどんな存在なのかということを考えながら観ていました。
──春林の役作りについて、末満さんとはどんなお話をされたのでしょう?
東 (松浦司演じる)歌麿とのセット感を大切に、っていうお話をしましたよね。
末満 そうだね。あとは、「グランギニョル」のパンフレットに掲載された短編小説「シモンには動機がない」が春林の過去に言及している作品だったので、参考に読んでおいてって話をしたかな。……でも、自分の役作りの資料として短編小説が来ることってなかなかないよね(笑)。
東 確かに(笑)。「シモンには動機がない」もかなりパンチがある小説で、あの作品を読んだことでもっと役が広がったし、より深められたと思います。
末満 ダンピールって基本的に暗い存在として描かれているんですけど、ダンピールの全員が短命であることを悲観しているわけではなく、死を受け入れている人もいるんじゃないかと思っていて。そこに、とんちゃん(東)の人懐っこくて明るい性格を掛け合わせて、ダンピールなのにポジティブな春林というキャラクターが生まれました。春林の独特な殺陣に関しては、「舞台『刀剣乱舞』」でとんちゃんの太刀さばきを見ていて、長身で手足が長い彼の体型を生かした拳法のようなアクションを見てみたいと思ったので、その要素を取り入れてみたんです。
──ヴァンパイアハンターとしてコンビを組んでいた歌麿役の松浦さんとは、ボケとツッコミとも言える素敵な師弟関係でしたね。
東 まっちゃん(松浦)は稽古場のムードメーカー的な存在で。彼の明るい性格から見えてくるものが、春林と歌麿の役作りに大きな影響を与えてくれたと思います。
──ヘビーな題材を扱いながらも、カンパニーの皆さんが和気藹々と稽古されていたのが印象的でした。末満さんの現場はいつもあんな感じなのでしょうか?
末満 ……僕の現場はギスギスすることが多いです(笑)。
一同 (笑)。
末満 「グランギニョル」は、それを見越してカンパニー作りをしたところもあって、とても雰囲気のいい現場になったなと感じました。
東 確かに、稽古終わりにみんなでまとまって一緒に飲みに行くことが多かったですよね。
末満 そうそう。行きつけの中華料理屋さんで紹興酒ばっかり飲んでました。でもそのお店、ザラメが置いてなくて。毎日のように行ってザラメを要求してたからそのうち仕入れてくれるだろうと思ったのに、最後まで仕入れてくれませんでした。
東 ははは!(笑)
末満 でも、馴れ合いが作品に対する客観性を見失わせてしまうこともあります。作品が全然ダメなのに「いい現場だ!」みたいな感じで、カンパニーの結束と言うのは諸刃の剣でもあると思っていて。「グランギニョル」に関してはそれがいい方向に作用したと言うか、こんなに暗い内容の芝居で、お客さんからほぼ毎日スタンディングオベーションをいただけたというのは、カンパニーの一体感が作品にグルーヴを生んで、それがお客さんに伝播したところがあったんじゃないかなと思います。
コリウスのイメージは冬彦さん
──「グランギニョル」について振り返っていただきましたが、8月に開幕する、ミュージカル「マリーゴールド」についてもお伺いできればと思います。
末満 「マリーゴールド」は、14年に上演した「LILIUM」の姉妹作のような位置付けになります。「LILIUM」が歌ものだったので、「マリーゴールド」も歌ものでいきたいという思いがあったのと、ミュージカル俳優の方々に出ていただいて、TRUMPシリーズで一度本格的なミュージカルをやってみたいという構想が自分の中にあって。今回念願叶って、元宝塚トップスターの壮(一帆)さんを主演に迎えて実現することができました。
──東さんは今回、壮一帆さん扮する小説家アナベルの担当編集者であるコリウスを演じられます。
東 つい最近、最新稿をいただいたのですが(取材は6月上旬に行われた)、末満さんから「コリウスはとりあえず気持ち悪いキャラだよ」と言われました(笑)。
末満 コリウスはわりと偏執的で、下手したらストーカーになり得るようなキャラクターなんです。僕の中では、ドラマ「ずっとあなたが好きだった」で佐野史郎さんが演じた冬彦さんっていうキャラクターをイメージして書いたところがありました。冬彦さんとはまったく異なるキャラクターになるとは思いますが。
──……さすがに眼鏡はかけていないですよね?
末満・東 かけてます!(笑)
一同 ははは!(笑)
末満 おかっぱで丸眼鏡です。髪型は地毛で作ってもらいました。
東 坊ちゃん刈りでね(笑)。コリウスの役柄や風貌についてお話を聞いて、すごくやりがいを感じました。
末満 コリウスは、言ってみればヨゴレと言われる役なんですよね。でもヨゴレって演じがいがあるんです。昔で言えば、映画「レオン」でゲイリー・オールドマンが演じた悪徳刑事のノーマン・スタンスフィールド。ああいう役って役者冥利に尽きるなと思っていて。コリウスに関しては、善と悪の境目にいるキャラクターですが、ミュージカル「マタ・ハリ」やミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」で好青年を演じた東啓介が、歪んだ青年をどう演じるのかすごく楽しみですね。
──末満さんは、ご自身の演劇人生のおよそ半分となる10年にわたって「TRUMP」を制作されてきました。10周年の節目が目前に迫った今、改めてTRUMPシリーズの歩みを振り返って、どんなことを思われますか?
末満 小劇場で100人、200人のお客さんを入れるのに苦労していた時代からすると、こういう土俵に上げていただいてありがたいですし、やっぱりこのシリーズを育ててくれたお客さんへの感謝の気持ちが強いので、これからも作品でお返ししていけたらいいなと思っています。
- 「ミュージカル『マリーゴールド』TRUMPシリーズ10th ANNIVERSARY」
- 2018年8月25日(土)~9月2日(日)
東京都 サンシャイン劇場 - 2018年9月7日(金)~9日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
- 末満健一(スエミツケンイチ)
- 1976年大阪府出身。脚本家・演出家・俳優。関西小劇場を中心に俳優として活動したあと、2002年に自身の脚本・演出作品を発表する場として、演劇ユニット・ピースピットを旗揚げ。11年、脚本・演出を手がけたTAKE IT EASY!「千年女優」の再演以降、活動の場を東京にも広げる。近年の主な作品に、「舞台『刀剣乱舞』」「舞台『K』」シリーズ、Patch stage vol.10「羽生蓮太郎」(以上脚本・演出)、テレビアニメ「ボールルームへようこそ」(シリーズ構成・脚本)、劇団壱劇屋「憫笑姫 -Binshouki-」(出演)など。
- 東啓介(ヒガシケイスケ)
- 1995年東京都出身。俳優。「ミュージカル『テニスの王子様』」2ndシーズンの千歳千里役でデビューし、「舞台『刀剣乱舞』」の燭台切光忠役、「舞台『弱虫ペダル』」の葦木場拓斗役、「ミュージカル『薄桜鬼』」の原田左之助役などで人気を博す。このほか近年の代表作に、ミュージカル「マタ・ハリ」、ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」など。