コンドルズ×豊島区民「Bridges to Babylon」の見どころは、なんといっても総勢180人もの公募出演者がコンドルズのメンバーと同じ舞台に立つことだ。“祝祭”をテーマにした今作には、小学生からシニアまで幅広い世代が参加。参加者たちは9月から11月にかけて全5回にわたって実施されるワークショップを通し、大舞台に向けた準備を進めてきた。このコーナーでは、10月下旬に実施された、4回目のワークショップの様子をレポートする。
稽古場に入ると、「1、2、3、4……」とカウントの声に合わせ、黒い練習着姿の公募出演者たちが振りの確認をしている。鏡の前には、この日にワークショップ講師を務めたコンドルズの鎌倉道彦、安田有吾、ジントクが立ち、指導にあたっていた。
今回のワークショップは稽古場の都合で人数を分けての開催となり、約180人の公募出演者のうちおよそ70人が集まった。年齢層は幅広く、小学生から中高年までの参加者が真剣な表情で踊っている。女性参加者の姿が多いが、中には若い男性の姿も。これまでのワークショップでは小中学生と高校生以上の参加者が別々に練習を行っており、子供メンバーと大人メンバーが一緒に踊るのは、この日が初めてとなった。
安田が全体に「不安な人ー?」と呼びかけると、数多くの手が挙がる。とあるシーンの動きについて、ある女性参加者が「どこからどこまでが繰り返しなのか確認したいです!」と声を発し、ジントクのカウントのもと、全員で動きをさらっていく。また「もっと細部まで振りを確認したい」という参加者のリクエストに応え、全員が体育座りで見守る中、鎌倉が1人でお手本を務める場面も。音楽に合わせて鎌倉がのびやかに踊ると、熱心に見入っていた出演者たちからは「フー!」という歓声と拍手が起きる。安田はこれを受け、「あれがプロフェッショナルです(笑)」「決めるとこ決めましょう! メリハリを大事に」と呼びかけ、参加者たちを鼓舞した。
ワークショップは終始、熱気に包まれながらも和気あいあいと進行。最後はすべての参加者が一緒になって、オープニングアクトを稽古する。参加者たちはスピーディーでハードな振りを、表情豊かにこなしていった。額に汗を浮かべた子供から大人までがエネルギッシュに踊りきると、場内には自然と拍手が起きる。最後に安田が「リハーサルはあと1回です。今日のことをよく覚えておいてください!」と呼びかけ、約2時間にわたったこの回の稽古は終了した。
コンドルズ×豊島区民「Bridges to Babylon」には、子供から大人まで幅広い世代が参加している。ワークショップの熱も冷めやらぬ中、さまざまなバックグラウンドを持つ5名の公募出演者に、本公演への熱い思いを語ってもらった。
左から
- 松島進(マツシマススム)
40代、公務員。ダンス経験はないが、学生時代に舞台経験あり。舞台に立つのは約25年ぶり。
- 根本佳加(ネモトヨシカ)
20代。「にゅ~盆踊り」のポスターで情報を見て参加した。
- 道下悠里(ミチシタユウリ)
20代、システムエンジニア。学生時代に舞台経験あり。2019年の公演をきっかけに、コンドルズのファンに。
- 古屋みどり(フルヤミドリ)
40代。小学生の娘と親子で参加。ダンス経験があり、今回約15年ぶりに踊る。
- 八木孝道(ヤギタカミチ)
30代、会社員。「にゅ~盆踊り」にしゃ~隊として複数回参加している。学生時代に舞台経験あり。
私もコンドルズのメンバーになれるじゃん!
──まず、皆さんの参加の経緯を教えてください。
道下悠里 2019年の「Like a Virgin」を拝見してから、コンドルズさんをすごく好きになりました。劇場のワークショップ情報を探していたときに、たまたま黒須育海さんのTwitterを見て、「コンドルズメンバーが目の前にいる環境を体験できるなんて……!」と思って、その瞬間に申し込みました。
八木孝道 実は私は、半分仕事で参加していまして……豊島区役所の4階にあるくらし・しごと相談支援センターで、社会に出る一歩がなかなか踏み出せない皆さんの支援をしています。その一環で何度か「にゅ~盆踊り」に参加していますが、あそこに出ると“覚醒”する方が毎年1・2名いらっしゃるんですね。今年しゃ~隊(編集注:「にゅ~盆踊り」の盆踊りリーダー)に参加したときに今回のチラシをいただき、ダンス部を作りたいという子たちと一緒に応募しました。ただ仕事とはいえ、実は私も踊るのは嫌いじゃないのですが(笑)。
根本佳加 私は以前からコンドルズさんのファン。子供たちが参加している公演もあって、老若男女問わず、シンプルに「身体を動かすことは楽しい」と気づかせてくれるコンドルズさんは素敵だなあと。無理だけど、いつか一緒に踊れたら……なんて考えていたら今回の公演を知り、「コンドルズ(メンバー)になれるじゃん!」と思って参加しました。
松島進 子供が学校からチラシをもらってきたのがきっかけです。初めは子供も一緒にやるはずでしたが、直前で「やっぱりやだ」と言われて、「じゃあお父さんだけ行くよ!」と(笑)。それと、通勤のときに建設中のBrillia HALLを見ていたこともあり、こけら落としに参加できるなんて光栄だと思って申し込みました。ダンス経験はありませんが、学生のときに劇団をやっていて今も観劇は好きです。舞台に立つのは25年ぶりくらいですが、きっと豊島区民なら“おじさん”枠もあるだろうと!(笑)
古屋みどり 私も、子供が学校でもらったチラシで知りました。「にゅ~盆踊り」に遊びに行ったり、夏休みにコンドルズのメンバーの方があうるすぽっとでやる公演は観ていたのですが、なかなか踏み出せなくて……。でも(子供の)お友達のお母さんに後押しされたこともあって、「一緒にやろうよ!」と子供をダシにして(笑)、締切ギリギリで親子一緒に応募しました。
難しい振付に“絶望”のスタート、でも今は……
──ワークショップでのコンドルズの皆さんはどういう印象でしょう?
八木 練習中でもエンタテインメントを見せてくれます。緊張してる参加者がいたらパッと声をかけてくれたり。
古屋 皆さん優しくて、楽しい雰囲気を作ってくれます。年齢も経験もさまざまな人たちに教えるのはとても大変だと思うのですが、いつも和やかに笑いを交えて進めてくださるので楽しいです。ワークショップで講師の鎌倉(道彦)さんが踊る順番を説明してくださったとき、「ここは近藤さんのソロです。いいよね、舞台上から観る近藤さんのソロ!」とおっしゃっていて。こういうところが集団として長く続けられる理由の1つなんだなと思いましたし、すごく素敵です。
道下 オープニングアクトの「ウィリアム・テル序曲」は3分半くらいあるんです。子供から大人まで大人数が参加しているのに、3・4回の練習でほとんどみんなが振付を覚えていて、これってすごいことだなと。私は学生時代にミュージカルをやっていて人に振付を教えたこともありますが、振りを渡すって難しいんです。ダンス経験があると擬音を使いがちというか……「スッ」とか言っても、「スッ」っていろいろあるじゃないですか!(笑)
一同 あははは!
道下 でもコンドルズの方たちは「魔法を“かけて”、その次はエンジンを“かけて”」とか、流れを思い出しやすい言葉で教えてくださるんです。
──ワークショップを拝見して、振付の複雑さに驚きました。難しいところや、やっていて楽しいパートを教えていただけますか?
古屋 私より上の世代の方も全部覚えて踊っていて、すごいなと思います。「ウィリアム・テル序曲」の3分半、私は踊るだけでゼエゼエで(笑)。
松島 最後の曲は、本当に気持ちいいです。私は皆さんの中で一番(ダンスの)経験がないですし、シナリオもなく考えながらコンドルズの皆さんがその場で作品を作っていくのを、新鮮に感じていました。でもこれを体感すると、踊りたくなる気持ちがわかります。
根本 舞台で少しダンスをした経験はあったので、その場で振りをなんとなくで覚えながら踊ることもできるのかもしれません。でもワークショップに参加しているとき、“楽しい”のさらに上を目指したい気持ちがいつもあって……さっき講師の鎌倉さんが前で踊ったのを観て、やっぱり「適当に踊るのでは圧倒的にパワーが足りない。舞台でもっと輝きたい、うまくなりたい、みんなで唯一無二の作品を作りたい!」と思いました。
八木 私は学生時代にミュージカルふうの作品に出たことがあって、難しいダンスって最初嫌いなのに、覚えると好きになれたのが印象的でした。今回、手足が左右逆に動く振付があって、多くの人が絶望したと思うんですけど……。
一同 あははは!
八木 でもできるようになるとそこも楽しくて。あとは近藤さんが最初のほうに、「ラストの腕を上げるところは、高揚感が出てくると思う」と言っていたんですが、覚えてみんなで踊ると確かに楽しいです。
道下 ワークショップの2回目くらいまでは、左右逆の動きに皆さんがすごく戸惑ってましたよね。でもだんだん(コンドルズのメンバーから)注意されなくなって、「ああ、この人数が踊れるようになったんだ!」と思いました。ラストは私も好きですね。コンドルズさんの公演で拝見したことがある振付だったので、「これを私も踊れるんだ!」と思ったらうれしかった。
舞台からの景色を目に焼き付けたい
──新劇場のこけら落としということで、歴史に残る公演になると思います。最後に、意気込みをお聞かせください。
松島 皆さんに迷惑をかけない、というだけです!(笑) でもカッコよくそろうところは、しっかりそろえたい。それだけを頭に叩き込んで臨みます。
古屋 舞い上がりすぎず(笑)、振りはしっかりやりながら全力で楽しみたいです!
八木 年齢を重ねるとわくわくすることが減ってくる気がしていますが、今回の公演を心の“ごはん”として持ち帰るつもりで、楽しく挑みます。
道下 今回改めて、ダンスって本当に楽しいなと実感しています。当日はコンドルズさんのお姿を拝みながら(笑)舞台からの景色を目に焼き付け、あとから「よかったな」と思える時間を過ごしたいですね。
根本 私の立ち位置は、子供たちのすぐ後ろです。子供たちやコンドルズさんと一緒に劇場の空気をしっかり吸い込んで、お祭りだと思って楽しみます!