愛され悪役令嬢を目指す太田夢莉、陳内将は従者のズレを大切に
──太田さんは6月末から7月頭にかけて上演された舞台「『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』THE STAGE」(以下はめふら、参照:太田夢莉が悪役令嬢に転生!舞台版はめふら開幕、エンディングは5パターン)から悪役令嬢の役が続きますが、悪役令嬢という肩書きのあるキャラクターをただの悪役としてではなく、魅力的に立ち上げるコツなどはありますか?
太田 悪役令嬢って、“誰かから愛されている”っていう役だと思うんです。はめふらで演じたカタリナは周りのみんなから愛されていたし、今回のメアリはアディから愛されている。でも、愛されるにはそれなりの理由があるんですよね。性格はキツいけどドジとか、かわいいものが好きとか。言動がキツいだけの悪役令嬢では何のかわいらしさもないので、ギャップを大事にしていきたいです。
──先ほどもおっしゃられていた、コロッケ好きで庶民的な一面とかですよね。
太田 そうです。メアリって、悪役令嬢だということを思い出して、その没落を目指して活動するところが新しい。「何でだろう?」と考えて深く読んでいくと、家系のこととか、背景にはちゃんと理由があって、中身のある子なんです。前世の記憶があるから人の心もわかるし、人助けをしてしまったりする。放っておけないかわいらしさがあるんですよね。今はメアリを“かわいいなあ”と思ってもらえる声のトーンを探っている状態です。稽古をしてみてかなって考えています。
──陳内さんは演じるアディについて、役作りで考えていることはありますか?
陳内 これは見落としてしまっている人も多いと思うんですが、アディってプロローグでメアリから“ここはゲームの世界である”と教えられてしまった人なんですよ。もともとの純粋なアディはそれ以前の過去をさかのぼったところにしかないっていう、ちょっとズレた面白さがある。その前提は大事にしたいです。お嬢と共に没落を目指してもがきますが、アディにはお嬢に没落してほしくないという人の心もあるから、1つの目線だけではない細かな部分を作っていくのが楽しみです。それに、アディはお嬢に恋心を抱いているけどまったく伝わらなくて、でも自分の中でのヒエラルキーは圧倒的にメアリのお父様が上で、その下にお嬢がいるっていうバランスも面白いし。
──アディはなぜか、“ゲーム内の人間である”という設定を自然に受け入れていますよね。
陳内 そうなんですよ! 普通は1回、疑うよね?
太田 私も不思議に思いました。「え?」とか「いやいやいや!」って否定しそうですけど、スンって受け入れていて、すごい。
陳内 お嬢に対しても、あるところからお嬢の人格が変わっているはずなので「あれ? お嬢がお嬢らしくなくなったぞ」とか「違う中身が入ってんなあ」って絶対思うよね。でも、それを取り返そうとはしない。変な人なんですよ(笑)。
演出家のエピソードに「わあ、ドキドキします」
──演出の中屋敷さんについてもお聞きしたいのですが、中屋敷さんは朗読劇も多く手がけられています。お二人は中屋敷さん演出の朗読劇はご覧になったことはありますか?
陳内 朗読劇はたぶんないですね。
太田 私も、先日の舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」(参照:植田圭輔・佐々木喜英ら出演の舞台「文豪ストレイドッグス」最新作が開幕)を観させていただいただけで。
──陳内さんは2016年の「露出狂」(参照:中屋敷法仁「露出狂」を市川知宏、陳内将、小沢道成らが3チームで上演)でご一緒されて以来ですか?
陳内 お仕事的にはそうですけど……終電ギリぐらいで走ってる中屋敷さんには会ったことがあります。
太田 あははは!
陳内 太田さんは中屋敷さん初めて?
太田 初めてなんです。「いつかご一緒できたら良いな」と思っていた直後にこのお話をいただいて、驚きました! 優しくて良い人っていうお話は聞いたりするんですけど。
陳内 “変な人”とも聞くでしょ?
太田 ……聞きます。
陳内 ピンクのぬいぐるみを持ってる話は?
太田 え、聞いたことないです! 何ですか?
陳内 ピンクパンサーのぬいぐるみをずっと持ってて、落ち着かないときはこう、なでたりして。あと、芝居を作っているときに演出卓じゃなくて、アクティングエリアに上がってきて真横で観ているときもあるから、ビックリするかもしれない。
太田 わあ、ドキドキします(笑)。
──中屋敷さんといえば舞台上の熱量の高さと独特なセリフ回しが印象的ですが、陳内さんは今回の朗読劇でどのようなことが楽しみですか?
陳内 確実に身体は使うと思うんで。椅子もあるのかな? 簡易的なセットや椅子で見立てたり、僕なんか従者だからという理由で1回も座れず、立ちっぱなしになることもあるかもしれないです(笑)。
太田 あははは!
陳内 「これやってみようか」って、僕が想像もしてないようなことをおっしゃられると思うんで。一緒にニタニタしながら稽古できたらなと(笑)。(不安そうな太田に向かって)大丈夫、“演劇楽しい”と思っていれば稽古終わるから。
太田 いやあ、楽しみですね。
独特の緊張感、演劇ドMをじわじわさせる朗読劇
──朗読劇は基本的にはセリフのみで表現するスタイルの舞台ですが、朗読劇の魅力はどこにあると感じますか?
陳内 朗読一本で勝負するっていうのはすごくシンプルで、同時に怖くもあって。でも突き詰めていくと、照明チェンジやSEが最小限の中で勝負できるのは、自分自身も役や作品にめちゃくちゃ入り込めるということでもあると思うんです。そこで第六感とまではいかないけど別の感覚、間や音圧、呼吸の浅さ、深さ、自分の声のバランスとかで表現して、「あ、感情が全然違うものになった」とか「今、物語のベクトルが変わったな」って感じられるのは、演劇ドM的な観点から言うとすごくじわじわ、ビンビンくる(笑)。太田さんにも近しい感覚はあるんじゃないかなと。だから怖さが緊張感につながるというか。
太田 そうですね。私にとっての朗読劇は、改めてお芝居と向き合う機会。目の前に台本があって文字を追うことができるので、セリフを覚えなくても良いし、「簡単なんじゃないか?」とやる前は思っていたんです。でも、まったくそうではなくて。当たり前ですけど、行間に生まれるもの、皆さんの空気感を受け止めながらやる、大きく画が変わることがないので、お客様を飽きさせないようにと考えるのには、普通の舞台とは違う、独特の緊張感があります。
──大胆な太田さんと演劇ドMな陳内さん、お二人の掛け合いが今から楽しみです。
太田 今回は、キャラクターの“見た目”になっているので、そこがほかの朗読劇とは違う点だなと思います。でも、だからこそ、原作のファンの方には「それが観たかった!」と楽しんでいただけるように、原作を知らない方にはぜひ原作小説やマンガを読んだり、ボイスコミックを観たり聴いたりするきっかけになれるよう、精一杯努めたいです。
陳内 太田さんとの2度目の共演も楽しみですし、今回は太田お嬢を前に立たせながらも、僕がしっかりとリードを握って、さりげなく導くことができたら、従者としても楽しめるし、役者としても一歩引いて若い女の子が一生懸命やっているところを支えるという成長にもつながるかなと。楽しくがんばれたら良いなと思います。
太田 安心です! 付いていきます。
プロフィール
太田夢莉(オオタユウリ)
1999年、奈良県生まれ。2011年にNMB48 第3期生オーディションに合格し、2019年まで同グループのメンバーとして活動。ABCテレビ・テレビ朝日系列「日暮里チャーリーズ」、TBS系「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」などのテレビドラマにレギュラー出演したほか、映画「せみのこえ」では主演を務めた。近年の舞台出演作に「AI懲戒師・クシナダ」「陰陽師 生成り姫」「フラガール - dance for smile -」「『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』THE STAGE」など。映画「バイオレンスアクション」が8月19日に全国公開される。
太田夢莉 公式サイト Ota Yuuri Official Site
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陳内将(ジンナイショウ)
1988年、熊本県生まれ。2010年、ミュージカル「忍たま乱太郎」再演に善法寺伊作役で出演し、2011年から2014年まで「ミュージカル『テニスの王子様』」2ndシーズンで柳沢慎也役を務める。スーパー戦隊シリーズ「特命戦隊ゴーバスターズ」ではエンター役でレギュラー出演。近年の出演作に舞台「紅葉鬼」シリーズ、「MANKAI STAGE『A3!』」シリーズ、舞台「東京リベンジャーズ」シリーズなど。「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2022~」の東京凱旋公演に8月12日から21日まで出演するほか、28日に「AD-LIVE 2022」、今冬に映画「死神遣いの事件帖 -月花奇譚-」が控える。