ズーカラデル|1stフルアルバム全曲解説で探る、“日常に寄り添う歌”の源泉

ウェイティングマン(M.7)

制作時期:2018年11月 / 初のワンマンツアー「地獄の入り口 TOUR」前

──どうして初ワンマンツアーのタイトルが「地獄の入り口」だったんですか?

山岸 これは僕が最初に言い出したんですけど、「漂流劇団」に「右も左も地獄の入り口」という歌詞があって、それをツアータイトルにしたら面白いかなと。ネガティブな言葉なのに、曲の中で聴くとすごくハッピーに感じられるのが気に入っていたんです。つらいのか、つらくないのかわからないというか……ツアーに対して、「ここが地獄の入り口だ」と思っていたわけではないです(笑)。

鷲見こうた(B)

吉田 「面白いからいい」という感じですね。ワンマンツアーはすごくいい経験になりました。自分たちしか出ないライブを観に来てくれる方がいるということが得難いし、同時に「もっといろんなところに行けるかもしれない」とも思って。

鷲見 会場に来てくれた友達が「ライブはめちゃくちゃよかったけど、MCのところどころに“地獄の入り口”が垣間見えた」と連絡をくれました(笑)。

──(笑)。「ウェイティングマン」は、ツアーで演奏するために作った曲なんですか?

吉田 そういうわけでもなくて、新しい曲を作っていて、「間に合いそうだからセットリストに入れてみよう」という感じでしたね。“ベースのリフで押す曲”というアイデアがあって。

山岸 「マシンガンみたいなスネアを叩いてほしい」というリクエストもありましたね。

吉田 あ、そうだ。マシンガンスネアとベースリフですね。

鷲見 ツアーのあとはベンチに下がっちゃったんですけど(笑)、アルバムのレコーディングのときに再構築して。またライブでもやりたいですね。

吉田 うん。ライブで育つ曲だと思うので。

花瓶のうた(M.1) / リトル・ミス・ストレンジ(M.4) / 青空(M.9)

制作時期:2019年1月 「ズーカラデル」レコーディングに向けて

──ここからはアルバム「ズーカラデル」のために制作された新曲です。アルバム全体のビジョンはどんなものだったんですか?

吉田崇展(G, Vo)

吉田 アルバムには昔の曲も新しい曲も入っているんですが、メンバーには「全部の曲がすごい」というアルバムにしたいと話していたんです。例えばBUMP OF CHICKENだったら「ユグドラシル」、Oasisだったら「(What's The Story) Morning Glory?」みたいなアルバムにしたいなと。

──アルバムの1曲目の「花瓶のうた」からすごくインパクトがありました。ボーカルが耳の近くで鳴っているようなミックスも強烈です。

山岸 そうですよね。これはエンジニアの方のアイデアなんですけど、今回のアルバムは本当にいい音で録れたので、それを1曲目で伝えたいと思って。

吉田 歌詞の方向も今までとは少し違っているんです。以前は「1から10まで全部をわからせたい。わからない瞬間を一瞬も作りたくない」と思っていたんですが、「花瓶のうた」はそういう感じではなくて。ある個人的な出来事があって、そのときに感じた気持ちを濃縮して曲に表すには、どうしたらいいか考えたんですよね。わかりやすさを度外視しているところもあるんですけど、納得できる曲になりました。楽曲の構成も、バンドで作ってるうちに変化してきたんです。最初は同じメロディを繰り返して終わろうと思ってたんだけど、セッション中に「最後に転調してみよう」というアイデアが出て、それがうまくハマって。いろいろと新しいことを詰め込めた曲ですね。

──今のズーカラデルが感じられる楽曲なのかも。「リトル・ミス・ストレンジ」の「間違えているのは世界の方だよ」という歌詞もすごいなと。

吉田 この曲は友達が死んじゃったときに書いたんです。“捧げる”じゃないけど、その人はたぶん、こういう曲が好きだろうなと思って。今思ったんですけど、歌詞はそういう書き方をすることが多いかもしれないですね。人だったりモノだったり概念だったり、いろんなパターンがあるんだけど、何かに対して書くという。

──「青空」の場合は?

吉田 THE BLUE HEARTSの「青空」を聴いているときに思い浮かぶ空をイメージして書いた曲ですね。あの曲では「まぶしいほど青い空の真下で」と歌われていますが、自分はくすんだ空を想像してしまうんですよ。そんなイメージもあって、僕らの「青空」の歌詞ではいろいろと不満を述べているかもしれないです。社会に反発する気持ちもあるんだけど、表面上はそう感じられないところに着地できたところもよかったです。

イエス(M.2)

制作時期:2019年3月 「ズーカラデル」レコーディング終了間際

──リード曲「イエス」はアルバムのレコーディングの終了間際にできた曲だそうですが、この曲があるとないとではアルバム全体の印象がまったく違いますよね。

鷲見 まさにそういう曲だと思います。

吉田 形になるまでに時間がかかったんですよね。「この曲がちゃんと完成しなかったら、アルバムはどうなっちゃうんだろう?」とみんな思っていました(笑)。自分の中にある「こういうシチュエーションで鳴ってほしい」というイメージから始まって、いろんなアレンジを試して……。

鷲見 この曲をリードにするということは決まっていたんですが、アレンジするために設けられた時間がそれほど多いわけではなくて。常にハラハラしながらの制作でしたけど、いい曲になりました。

ズーカラデル

──めちゃくちゃ生々しくて、ライブ感のある演奏ですよね。

吉田 こういう感じの曲、あまりやってなかったんですよ。

山岸 8ビートで押す曲なんですが、そういう曲はこれまであまりなかったので、すごく新鮮でした。グリッド通りに進むというより、かなりブレている部分もあるんですけど、そのままパッケージして。“ズーカラデルのロック”という感じですね。

──最後の「羽根は未だ無いけれど 俺は行かなきゃ ほらイエスと言え」という歌詞も最高ですね。

吉田 ズーカラデルがどういう印象を持たれているかはわからないですけど、この曲に関しては、前向きなことを言いたいと思っていました。「大丈夫、がんばろう」ではなくて、自分自身が聴いて納得できるような説得力を持たせたくて。「ちゃんと地に足を付けて、前を向いていくんだ」ということをしっかり言えたので満足しています。

──セルフタイトルにふさわしいアルバムになりましたね。

鷲見 吉田が「セルフタイトルにしたい」と言ったときに、「フルアルバムを出すって、そういうことだよな」と思ったんです。これまでの期間のベストアルバムにしなくちゃいけないなと。

吉田 そう考えると、フルアルバムをリリースするという決断と「ズーカラデル」というタイトルは関係していますね。僕らはこの前札幌から東京に引っ越してきたんですが、そういったタイミングでもあるし、ここまでのバンドの歴史を表現した作品を出せるのはすごくよかったです。