ズーカラデルの2ndフルアルバム「JUMP ROPE FREAKS」が1月19日にリリースされた。
バンドにとってメジャー移籍後初のフルアルバムとなる本作には、リードトラック「つまらない夜」、ファンキーなサウンドにエキゾチックな歌が乗せられた「どこでもいいから」、ストレートなラブソング「稲妻」、パンキッシュなアッパーチューン「ジャンプロープフリークス」など、多彩な音楽性の楽曲を収録。鍵盤やホーンが積極的に取り入れられ、バンドの新たな表現が切り開かれている。
本作の発売に合わせて音楽ナタリーはメンバー全員にインタビューし、アルバムの制作エピソードや「JUMP ROPE FREAKS」というタイトルに込めた意味について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 大城為喜
コンプレックスであり強みでもあるポップさ
──ズーカラデルがフルアルバムをリリースするのは「ズーカラデル」(2019年7月リリース)以来、約2年半ぶりですよね。「JUMP ROPE FREAKS」はバンドの成長が感じられる素晴らしい作品だと思いました。
吉田崇展(G, Vo) ありがとうございます。僕もマスタリングのときに全曲を通して聴いて「いいアルバムだな」と思いました。
──アレンジ、ソングライティング、バンドのアンサンブルを含め、表現の幅がすごく広がってますよね。
吉田 もともと3人だけで完結できる音源を作ろうとは思ってなかったんです。でも、そこに至る道筋が見えなかったというか、3人以外の音を入れて、どう形にしたらいいかわからなかった。
山岸りょう(Dr) うん。
吉田 この2年間で自分たちもかなり技術力が上がったし、今年の春過ぎにサポートメンバーを迎えてライブをやったことで、さらにアレンジに対する視野が広がって。「こういう選択肢もあるのか」と気付くことが多かったんですよね。それはアルバムの収録曲にも生かされていると思います。
山岸 この2年間は思うようにライブができなかったので、その分、スタジオで曲作りやアレンジを練る時間が増えたんですよね。ワンコーラスだけのデモを含めるとかなりの曲数を作ったし、その中からアルバムの収録曲を選ぶことができて。それも幅が広がった理由なのかなと。
鷲見こうた(B) うん。個人的にはサブスクで音楽を聴くようになったことも大きくて。いろいろなプレイリストを聴いて、今まで知らなかった音楽を聴く機会が増えたし、見よう見まねみたいな感じでサウンド作りやベースラインの参考にしたり。極端に歪んだ音からハイ(高音)を削った音まで、これだけ音の種類があるアルバムも初めてですね。バンドとしてそういう音が合う曲を用意できたということだと思います。
──アルバムを通して、ポップスとしての精度も上がっているように感じました。
吉田 そうですね。ポップなものというか、昔から売れてる曲が好きで。それがコンプレックスでもあり、強みでもあるのかなと。そこもしっかり出せたと思います。
ライブでみんなに歌ってもらいたい
──ではアルバムの収録曲について聞かせてください。1曲目の「まちのひ」は骨太のバンドサウンドと大らかなメロディが印象的でした。
吉田 この曲は音先行というか、「スケールのデカい曲をやりたい」と無邪気な感じで作り始めたんですよ。広い会場で、すごい人数の前で演奏するところを想像して。野外ライブのイメージもありましたね。
鷲見 フェスでいうとヘッドライナーだね。
吉田 そうだね。準備だけはしておこうと(笑)。
山岸 うん。「まちのひ」はアレンジし始めたときから「大きな場所でやる」という思いを持っていました。
──大事ですね、その思い。
鷲見 具体的に「あの会場でやりたい」という目標を掲げているわけではないんですけど、これまでも自分たちが想像もしてなかったようなデカいステージに立たせてもらうこともあったし、単純に大勢の人の前でライブができるのはうれしいですからね。
──「パレードが進む 空を飛んでゆく 飛べないから歩いて追いかけた」という歌詞も印象的でした。理想と現実がせめぎ合ってる感じがリアルだなと。
吉田 結局のところ、何を歌ってるかわからなくなってるんですけどね(笑)。自分の内側にググッと入り込んでる感じがあって、個人的にはかなり気に入ってますが。ライブではみんなに歌ってもらいたいです。
──吉田さんの個性が出ている歌詞だと思います。先行配信された「つまらない夜」は、ズーカラデルのポップな側面が押し出された楽曲で、さわやかで切ないメロディが素晴らしいなと思いました。
吉田 ありがとうございます。個人的にはリード曲は、ほかの曲がいいだろうと思ってたんですけど……でも「つまらない夜」は広がりがある曲だし、前向きなバイブスもあるので、アルバムの序盤に合っているのかなと。
鷲見 アレンジはけっこう難航したんですよ。デモの段階ではホーンを入れる発想もなくて、デモ作りを手伝ってくれる友人を交えて、いろいろ試して。「しっかりポップに振り切ろう」と思ってましたけどね。
山岸 ブレイクスルーした日があったんですよね。吉田がブラスを入れるアイデアを出して、だったらリードギターはこんな感じで……って、どんどん形が見えてきて。あの日は冴えてた(笑)。
吉田 いいイントロも思い付いたし、どんどんアイデアが出てきた日だったね。
──アレンジは基本、そうやって試行錯誤しながら進めているんですか?
鷲見 はい。「つまらない夜」みたいに、突破口が見えて、波に乗ってくると「バンド、最高だな!」と思いますね。逆にうまくいかないときは雰囲気が暗くなって誰もしゃべらなくなって、自分たちの実力のなさを目の当たりにして落ち込みますけど。
──突破口を開くのは、曲を作っている吉田さんの役割なんですか?
吉田 どうだろう? みんなの曲なので、全員でやってますけどね。ただ、原石の輝きが怪しいというか、もともとの曲がよくないのかもと思ったら、すぐに回収します(笑)。
サポートメンバーを迎えたライブを経て
──「正しかった人」は3ピースバンドとしての魅力がしっかり味わえる曲で、「多分 明るい人にはなれない 別に暗いやつって訳でもない」という歌詞が吉田さんらしいなと感じました。
吉田 自分としても特に新しいことは言ってないというか、スラスラとできたし、素直に書いた歌詞だと思ってます。
鷲見 確かに吉田らしい歌詞ですね。かなり早い段階で歌詞ができていたし、スラスラ書けたということは、らしさが出てるということなのかなと。
──ちなみにこの歌詞、どんなテーマがあったんですか?
吉田 どうだったかな……この曲を書いた頃、よくディスコミュニケーションについて考えてたんですよ。意志の疎通ってなんて難しいんだろうと。あ、バンド内のことではないですよ。
──はい(笑)。メンバー同士は円滑にやり取りしてるんでしょうか?
吉田 そんなに気を遣って話してないよね?
鷲見 傷付けるような言葉は使わないですけど、3人とも「俺はこっちがいいと思う」みたいな意見はしっかり言いますね。音楽以外にも決めなくちゃいけないことはいろいろあって、メンバーが奇数なので、大体、2対1になります(笑)。
山岸 そうだね(笑)。
鷲見 必ずしも意見が一致するわけではないけど、そのたびに話し合って。折れることも大事だなと思っています。
──吉田さんも我を通すタイプではない?
吉田 自分ではそう思ってます。人の目も気になるし、メンバーに曲を聴かせるときも、反応がめちゃくちゃ気になります。
──「どこでもいいから」はファンクテイストを取り入れたグルーヴと、日本的、アジア的な情緒を感じさせる歌が混ざった楽曲ですね。
鷲見 この曲、原型は2年くらい前からあったんですよ。何度も作り直したし、苦節2年にしてようやく形になりました。
山岸 アレンジもいろいろ変わったしね。
鷲見 もともと「ファンクのノリを取り入れよう」という感じではあったんですけど、チャレンジしても誰かの真似事のようになってしまうというか、どうしても自分たちのものにできなくて。そこから吉田が別のアイデアを持ち込んだことで、今の形になっていったんですよ。
──そこでもブレイクスルーが起きた、と。
吉田 いくつかの要素を組み合わせてるんですけど、きっかけとしては、サポートギター、鍵盤を迎えて5人編成でやったライブのリハーサルが大きくて。サポートギターの永田涼司さんと鍵盤の山本健太さんのプレイを聴いて、「これは『どこでもいいから』のアレンジに生かせるかも」と思って。
山岸 うん。方向転換してからはアジアっぽい雰囲気も加わって。それを自分たちの音に落とし込んで、しっかり個性を出せたかなと。
──「ヘイ! タクシー! どこでもいいから」というサビもキャッチ—ですね。この時代感、1980年代くらいですか?
吉田 そうですね。
山岸 実際に「ヘイ! タクシー!」と言っている人は見たことないので(笑)。
吉田 俺も見たことないし言ったこともない(笑)。自分の中ではドラマの「東京ラブストーリー」みたいなイメージなんですよね。
鷲見 トレンディな雰囲気?
吉田 そうそう。まあ、ドラマは観たことないんですけど。「ヘイ! タクシー!」と口に出すと気持ちがいいと思うので、ぜひ歌ってみてほしいです。
──さらにこの曲には、ゲストボーカルとしてFINLANDSの塩入冬湖(G, Vo)さんが参加してますね。
吉田 自分の歌が低いキーで進んでいくので、オクターブ上で女性の声があれば、さらにキラキラした曲になるなと。「塩入冬湖なら間違いないな」と思ったし、実際、ピッタリでした。
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ラウドでロマンティックに響く「ウズラ」