音楽ナタリー Power Push - 女王蜂
“全員オフェンス”の4人が目指す先
脱退したメンバーのことを初めて歌った歌
──「空中戦」もダンサブルな曲でした。
初めて歌詞で「愛してる」って使いました。今までは「こんな中で愛し合え? 命の尊さ教え合え?」(「告げ口」)とか歌ってたのに。
──そうではない歌を歌いたかった?
この曲は、活動休止中に作った曲で……。ナタリーは縁があっていつも応援してもらってるから、ここだけの話だけど、脱退したメンバーのことを初めて歌った曲。前の子(ギギちゃん / G)が抜けて、今のベースのやしちゃんも抜けるって話に一度なって。私がバンドを壊してしまったんじゃないかって考えて。でも彼女たちは「違うよ 君1人のせいじゃないんだ あのとき意気地がなかったのは」(「空中戦」)って言ってくれて。この曲は私にとって一番大事な曲。スタジオで歌ってるときも涙が止まらなくて、2番に進めなくて。目を開けてるけど暗闇の中にいるみたいにブラックアウトしちゃって。なんとかレコーディングはできたけど、でもそんなふうになったのは初めてで……。
──最後まで歌えたことで、乗り越えた?
ん……達成感とは違うけど、すごいものが作れた。歌詞も自分の中で割り切れる歌詞というか。お気に入りなので。この曲を発表したくて「失神」を出したんです。
──「奇麗」もそうだけれど、「失神」も裏テーマは成就しない恋愛というか……。これはアヴちゃん自身を反映したもの?
そう、あきらめがある。私はあきらめるのが上手な人間だから。あきらめというのは私の中ですごく大事なものの1つ。でも、あきらめた歌詞であきらめたアレンジであきらめた曲を作るよりも、あきらめつつめっちゃ攻めてるというか。「あきらめたからこそ絶対これはつかむぞ」っていう、そういうところに行けてるような気がする。
──それは引きずらないということですか?
小さなあきらめはたくさんしてるのかもしれない。この人のことはすごく好きだけどプラトニックでいようとか。でもあきらめ切れない、そういうものもあるんです。私はいろんな声が出るし、いろんなお洋服が似合うとか、いろんな表情が見せられるというのは強みだと考えてるけど……古着のワンピース着てたまにギター弾いたり、古い曲聴いて、素敵な人と添い遂げてとか、そういう人生を想像して「いいな」と思ったりもするけど、でもあきらめなきゃねっていう思いもあって。そういう翳りのようなものはあるかもしれない。
女王蜂は全員オフェンス
──女王蜂の活動には翳りがあるとは思えないけれど?
今年3年ぶりに全国ツアーができたんだけど、ホントにもうできないと思ってた。バンド組んで1年ちょっとでデビューして、バンバンCD出して、メンバーがブッつぶれて、もう2度とバンドなんて、って思ってたら事務所が「もう1回やってみたら」って言ってくれて。こんなにみんなに思ってもらえてるんや、うれしいなって。あきらめるといいことあるんです。
──潔さと通じますね。あきらめではなく取捨選択ということかと?
そう、女王蜂は「何もかもは叶わない」ということを歌ってるんですね。ひばりくんも音楽をあきらめてたところに女王蜂と出会って、またやれるというところに来た。
──ひばりくんは、なんでもやるから女王蜂に入りたいって来たんでしょう?
そう、それでヘソピ開けて15キロやせて。どんどんきれいになってる。私の美脚メソッドとかダイエットメソッド教え込んでるから。
──それは教わりたい(笑)。
そんな(笑)。私はそういうとき、相手を潰しちゃうんじゃないか、征服しちゃうんじゃないかって気持ちがあったけど、ひばりくんは見事にモノにしてくれるから。女王蜂はみんな美形やから、ホンマに助かってる。音楽の面でも、アレンジも手加減しなくていいし。全員オフェンス。ゴールキーパーも球蹴りに行っちゃうみたいな(笑)、そんな状態です。
──アヴちゃんの作る曲は、例えば「売春」も実は純愛の歌だったり、「折り鶴」も学校が舞台の純愛のようでいて複雑なストーリーだったり。そういうドラマの深さが際立ってますよね。
学校の曲は私の中でテーマで。そういう曲はいっぱいあるんです。でも出せる曲と出せない曲があって。「売春」になぜ純愛があるかというと、私は学生時代に青春を送れなかったんです。バンドを始めてからが青春というか。学生時代とか幼少期に、人に甘えたりできなかったから。その反動かな、今すごく純粋に人と付き合ってる気がします。だから今のタイムラインで作った曲ってすごく純粋な曲で、当時のことを振り返って作ると残酷さが表れるというか。ニュースっぽいのかも、私の曲って。私情が入ってない、岡崎京子的というか。私も岡崎顔だし(笑)、男と女のどっちが強いとかないし、俯瞰で見て書いてる。
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- 「失神」2015年7月22日発売 / 女王レコード / Sony Music Associated Records
- 初回限定盤 [Blu-Spec CD2] / 2000円 / AICL-30010
- 通常盤 [CD] / 1620円 / AICL-2921
初回限定盤収録曲
- スリラ
- 売旬 feat. 篠崎愛
- ギラギラ
- 売旬 feat. 志磨遼平(ドレスコーズ)
- 空中戦
- スリラ(instrumental)
- 売旬(カラオケ version A)
- ギラギラ(instrumental)
- 売旬(カラオケ Version B)
- 空中戦(instrumental)
初回限定盤特典:Blue Spec CD2+スペシャルEPサイズパッケージ+特大ポスター+特大歌詞カード
通常盤収録曲
- スリラ
- 売旬 feat. 篠崎愛
- ギラギラ
- 売旬 feat. 志磨遼平(ドレスコーズ)
- 空中戦
女王蜂(ジョオウバチ)
2009年神戸にて活動開始。2010年「FUJI ROCK FESTIVAL '10」のROOKIE A GO-GOステージに出演し、その衝撃的なルックスとパフォーマンスでオーディエンスの注目を集めた。2011年3月に初の全国流通盤アルバム「魔女狩り」をリリース。同年9月にはアルバム「孔雀」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューを果たす。収録曲「デスコ」は映画「モテキ」のメインテーマに抜擢されたほか、彼女たち自身も本人役として映画に初出演し話題を呼んだ。2012年5月にギギちゃん(G)が利き腕の長期治療に専念するためバンドを“降板”するも、アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)の3人編成に不特定多数の演者を迎える形でバンドは活動を継続。しかし同年12月にバンドは無期限活動休止を発表し、2013年2月のSHIBUYA-AX公演が休止前最後のライブに。このライブの模様はDVD「白兵戦」としてリリースされた。2013年12月に行われたDVD先行上映会の会場にて再始動が発表され、バンドは2014年2月のワンマンライブ「白熱戦」で1年ぶりの復活を果たしている。2015年1月に新ギタリスト・ひばりくんが正式加入。同年3月にドラマ「怪奇恋愛作戦」のオープニングテーマ「ヴィーナス」を収めたアルバム「奇麗」、7月に篠崎愛や志磨遼平(ドレスコーズ)が参加したナンバーを含む5曲入りCD「失神」をリリース。