Zedd×中田ヤスタカ|エレクトロミュージックがポップミュージックに変わるとき

2018年3月23日に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホール、翌24日に兵庫・神戸ワールド記念ホールで行われた来日公演のチケットがソールドアウトし、いずれの公演も大成功を収めた、ダンスミュージック界の人気者・Zedd。彼が2017年2月に発表したシングル「Stay」は、ここ日本においても異例ともいえる大ヒットを更新している。

音楽ナタリーではZeddの来日タイミングで取材を実施。日本独自企画アルバム「Stay+」にて「Stay」のリミックスを手がけた中田ヤスタカを交えたインタビューを行った。話題は「Stay」についてにとどまることなく、音楽制作者としてのこだわりや変遷する最新のエレクトロミュージックシーンについて、果てはヒット曲のとらえ方など多岐に、世界で活躍する2人のトッププロデューサーが持つ共通意識が浮き彫りとなった。

取材・文 / 伊藤大輔 撮影 / 中野敬久 通訳 / 丸山京子

「Stay」はなぜ世界的にヒットしたのか

──Zeddさんが2017年2月にリリースしたシングル「Stay」はロングヒットを記録し、リミックス曲を追加した「Stay+」も発売されています。この曲が多くの人の耳を捉えた理由はなんだと思いますか?

中田ヤスタカ 世の中にはいろんな音楽ジャンルがあり、それぞれのジャンルに特化したファンもいますが、「Stay」はそういった垣根を越えて“これは好き”と、みんなに共有されている曲だと思います。聴いたら1回で覚えられるような曲だし、すぐに口ずさめるようなメロディでもありますから。

──この曲はどんな背景から生まれたのですか?

Zedd

Zedd 制作は断片的なボーカルデモのアイデアから始まりました。アレッシア・カーラのデモを聴いたときに「この子はいい」と思って、翌週には歌のレコーディングをしたんですよ。その段階でもまだ曲のすべてはできあがっていなかったんですけど、25パターンくらいのメロディのバリエーションを作って、彼女とやりとりしながら作っていきました。そのときに彼女に「コーラスのパートはボコーダーとボーカルだけだけど、何かを付け足したりはしないの?」って聞かれたんです。僕は「いや、このままにしておく。それがこの曲のスペシャルな部分なんだ」って、答えました。

中田 なるほど。その隙間がある感じがこの曲の重要な部分だと僕は思っていたから、今の発言を聞いてなんだかホッとした。

Zedd 今の世の中は音楽が溢れかえっているから、そういった状況で人の耳をキャッチするには一番簡単な方法を取ったほうが有効的だったりもする。流行を意識しつつ何か違うことをしようとすると、なかなかうまいやり方が見つからなかったりもするものなんだ。だからこの曲では余韻を残すことで人の耳を捉えることができたんだと思うね。

中田 最近Zeddは「Stay」のように遅くもなく、速くもないくらいのテンポ感の曲を多くリリースしているけど、その理由は?

Zedd テンポ感と言うよりも「四つ打ちじゃないリズムにしたい」っていうのが今の僕の気分なんだよね。今作っている曲のテンポは165BPMと「Stay」よりもかなり速いけど、ハーフタイムで捉えられるリズムなんだよ。そうやってエレクトロミュージックの新しいパターンにトライしているよ。

楽しんで音楽を作り続けたいから、新しいものを探している

──「Stay」しかりですが、今のダンスミュージックは、全体的なBPMも遅くなりリズムも多様化してきています。こういった音楽スタイルの変容について中田さんはどう捉えていますか?

中田ヤスタカ

中田 僕はエレクトロシーンにいたのでBPM128の曲はいっぱい作ってきました。ZeddはEDMブームやトレンドのど真ん中にいながらもある程度距離を置いて、もともと好きな音楽を忘れずにやっているタイプだと思っていて。僕も同じように自分が元々やっていたジャンルの後に生まれたEDMという言葉によって色々なダンスミュージックがまとめられてここまで世界的なムーブメントになるとは思ってもいなかったです。僕も今は色々なテンポ感なリズムの曲を作っていたから、このタイミングでZeddとこういう話ができてよかったです。

Zedd 人間は同じことをずっとやっていると自然と飽きてしまうもので、これはビデオゲームとも似ていると思うんだ。よく「昔のZeddのようなスタイルには戻らないの?」って言われることもあって。もちろん戻ることもできるけど、僕は楽しんで音楽を作り続けたいから、新しいものを探して作ろうとするんだ。

中田 そうそう、常に同じ気持ち持って音楽に向き合っているからこそ、アウトプットされる音楽の形が変わってくるのは自然だと思う。

Zedd 「Clarity」(2012年発売のアルバム)は2年かけて作ったアルバムだったんだ。時間をかけて作品を作ると、制作中は新しいと感じていても、作品としてリリースされる頃には自分の気持ちがもっと先に行っていることもあるんだよね(笑)。

中田 曲を作るプロデューサーやミュージシャンにとってはスタジオに入ってまさに音楽を作っているときが、自分にとって一番楽しいときでもあるからね。

Zedd「Stay+」
2017年12月27日発売 / ユニバーサルミュージック
Zedd「Stay+」

[CD] 2376円 / UICS-1337

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収録曲
  1. Stay / Zedd & Alessia Cara
  2. Get Low / Zedd & Liam Payne
  3. Break Free feat. Zedd / Ariana Grande
  4. Beautiful Now feat. Jon Bellion / Zedd
  5. Candyman / Zedd & Aloe Blacc
  6. Adrenaline / Zedd & Grey
  7. Ignite / Zedd
  8. Starving feat. Zedd / Hailee Steinfeld & Grey
  9. Stay (Yasutaka Nakata Remix)
  10. Get Low (Kuuro Remix)
  11. Let Me Love You feat. Justin Bieber (Zedd Remix) / DJ SNAKE & Zedd
  12. Zedd Mega Nonstop Mix / Zedd
Zedd(ゼッド)
ロシア生まれ、ドイツ・カイザースラウテルン育ちのDJ、音楽プロデューサー。本名はアントン・ザスラフスキー。両親が共に音楽家だったため、4歳のときからピアノを習い、12歳のときにドラムを始めた。当初はドイツのロックバンド・Dioramicとして活動していたが、のちにJusticeのアルバム「†」を聴いてエレクトロミュージックに目覚める。2010年頃までにBeatportのリミックスコンテストで2度優勝。間もなく、スクリレックスやレディー・ガガらの曲のリミックスで注目を集める。2017年にアレッシア・カーラとコラボしたシングル「Stay」をリリースすると、全米ラジオ・トップ40で初の1位を獲得し、グラミー賞にも2度目のノミネートを果たした。「Stay」はその後も世界的に大ヒット。日本では中田ヤスタカによる「Stay」のリミックスなどを収録した日本独自の企画アルバム「Stay+」を2017年末に発表した。
中田ヤスタカ(ナカタヤスタカ)
音楽家 / DJ / プロデューサー。2001年に自身のユニットCAPSULEにてデビュー。日本を代表するエレクトロシーンの立役者であり、“Kawaiiダンスミュージック”からハードなトラックまで、その独自の感性によって世界中のアーティストから支持を受けている数少ない日本人アーティスト。音楽プロデューサーとしてはPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅなど数々のアーティストを世に送り出し、国内外のポップシーンを常に牽引してきた。国際的なセレモニーへの楽曲提供などパブリックな作品のほか、数々の映画の楽曲制作にも携わっている。2018年2月には初のソロアルバム「Digital Native」を発表し、iTunesアルバム総合チャートで1位を記録した。