挫・人間、またもやメンバー脱退……下川リヲは「このまま」でいいのか? (2/2)

布施明さんが「変わった~」なら、僕らは「終わった~」って叫びたい

──「人類終了のおしらせ」は筋肉少女帯を彷彿させる、語りパートを盛り込んだハードな楽曲です。過去の曲だと「人類」「人間やめますか?」「ソモサン・セッパ」に近いですが、このタイプの曲では下川さんの内面や苦悩をテーマにすることがほとんどでした。ところが「人類終了のおしらせ」はタイトルの通り、人類が終わる様子を俯瞰的に見ているような内容で。

「自分のことばかり歌ってても仕方ないな」という気持ちがあったんですよね。いろいろ構想しているうち、えーっと……「君は薔薇より美しい」を歌った方ってどなたでしたっけ?

──布施明さんですね。

そうそう、布施さんの「変わった~」みたいなパンチの効いたシャウトが欲しくて。それを僕らが歌うなら「終わった~」だろうし、「何が終わるんだ?」と思ったとき、これは人類だなって。

──だから「薔薇よりずっと見苦しい」というワードが盛り込まれているんですね(笑)。

「人類終了のおしらせ」は強いて言うと、開き直り系の曲ですね。制作当時バンド内の雰囲気がよかったことがわかるし、僕も鬱屈してない。制作中に怨念みたいなものが溜まっていると、絶対暗い曲になるんですよ(笑)。「こんなのやりたくない」と思っていると八つ当たりで怒り散らかしている曲になっちゃうし。

下川リヲ

下川リヲ

──この曲は「人類が終わります」と言われて「希望の歌とか歌っちゃおー!」「踊るしかやることないんだぜ」とある種ヤケクソとも言えるシチュエーションが出てくる一方、「世界よ!何故踊る?!」と疑問を突き付けたりと、非常に混乱した状況を表すような部分もあります。コロナ禍以降の現実ともリンクしそうな内容ですが、そのあたりの影響はあったのでしょうか?

コロナ禍以前から「人類は終わってる」みたいな気持ちはあって、SNSとかチェックしてるときは特に感じますね。虚無感を抱きながら見ちゃうんですよ。悲観して何もしないのは嫌だと思いつつ、なんらかの活動を起こすわけでもなく……。

──ただ見守っていると。

ええ。そこで僕ができることは何か考えてみたら、「開き直りとか悪ふざけだな」と思い付いたんです。もうちょっと話を広げると、例えば学生時代って教室の中がすべてだと思うけど、学校を出たらいろんなタイプの人がいるもので。卒業していろんな人に出会ったあと、中学時代の同級生に会ったら、まったく考え方が合わなくなっていた、なんてこともありましたし。つまりSNSのような小さいコミュニティの中のことを判断の軸にしてしまうと、広い視点で物事を考えられなくなる可能性がある。だからこそ冷静になるべきだし、一度肩の力を抜くことも大事かもしれない。そういうことを考えて、「人類終了のおしらせ」ではいろんなことへのアンチテーゼを込めたかったんですが、こんなふざけた曲になってしまって(笑)。だけど自分のやっていることが無力だとしても、意味がないとは思わないです。

──となると、ポジティブなメッセージのほうが前面に出ている?

そうですね。ただネガティブ発信のポジティブという、こじれた構図になっていますけど(笑)。「人類が終了している」というネガティブな発想から始まりつつ、「どうせ終わっているなら楽しみは自分で作ろう」みたいな気持ちを表してますね。

下川リヲ

エロ同人用語でシュプレヒコール

──「B・S・S~ボクが先に好きだったのに~」は「ボクが先に好きだったのに」をひたすら言いまくる、夏目さんが制作した「デスサウナ」「童貞トキメキ☆パラダイス」に似た曲でした。

そう思うでしょう? でもこれ、僕がデモを作ったんです。シュプレヒコールみたいなリズムをRamonesっぽく演奏するデモを作って、夏目にアレンジをお願いしたら全然違う曲になったんですよ(笑)。一旦ボツにしたんですけど、レコーディング中に「イメージは変わったけど、オケは完成してるから、歌詞とメロディを付けたら、これもシングルに収録できるよね」という話になって。なんとか12拍のリズムに当てはまる言葉をひねり出して、ようやく思い付いたのが「ボクが先に好きだったのに」だったんです。まあエロ同人でよく使われる用語ですよね。

──まずシュプレヒコールでは使うことがなさそうな言葉になっちゃいましたね……。

あとは咄嗟に思い付いたメロディを加えて、夏目に改めてアレンジをお願いしたので、僕の作業時間は実質10分くらいでしたね。再アレンジのときは電気グルーヴやMassive Attackとかを例に挙げて、キックやアタックの音はあんまりイケイケじゃない、渋いテクノみたいな感じをオーダーしました。

下川リヲ

──サウンドは声児さんのベースがかなり押し出されていますよね。アベさんは細かくパーツを組み合わせるように、ベースの奏法を要所要所で変えていくようなスタイルでしたが、声児さんは曲全体を通して徐々にグルーヴを生み出していく、ファンクのセッション的な要素が強くて。

確かにアベと声児は全然タイプが違うベーシストですね。声児のベースは打ち込みでは絶対に出せない有機的な音で、この曲では彼のクセがいい感じに生きてます。

──そういった意味では、声児さん加入後の挫・人間のスタイルを確立した1曲と言えるかもしれません。

まさにそうです。僕的にも声児の得意なスタイルがわかったので、今後の楽曲制作がやりやすくなりました。「B・S・S~ボクが先に好きだったのに~」はドラムが打ち込みだから、有機的なリズムの音はベースしかなくて。彼1人でよくここまでグルーヴを出せるなって感心しました。

挫・人間はなぜメンバーが辞めまくるのか?

──冒頭の話に戻ってしまうのですが、この2年間でアベさん、スローセックス石島さん、夏目さんと立て続けにメンバーが脱退しました。なぜこうなってしまったのでしょうか。

3人とも、このバンドのメンバーであり続ける不安があったんだと思います。僕は結成メンバーだからこのバンドを続けられるけど、「俺ずっと挫・人間のメンバーなの?」って考えたら、確かに不安になりますよね(笑)。あとは「下川の人間性が問題」とよく言われるので、それも原因でしょうね。

──ここまでメンバーが辞めてしまう理由を、誰かと話し合う機会はあったんでしょうか?

こないだ大槻ケンヂさんと対談させてもらったときに相談したら、「打ち上げで揉めたりしてない? それがダメなんじゃないか」と言ってて、すごい思い当たる節があるんですよ……。僕の酒癖が悪くてケンカすることもあったので。その一方で、「バンドはメンバーが脱退するのが当たり前」だとも思っているんですよね。それこそ筋肉少女帯もインディーズ時代からメジャーデビュー初期まではメンバーの加入脱退がすごかったし、それに合わせて音楽性も変化していて面白かったですよね。誰かが脱退したら「また新しいことができる」と考えちゃうので。ただ今は脱退メンバーが多すぎて、正直よくわからなくなってます(笑)。

下川リヲ

──下川さんの人間性の問題について、ご自身の中で何か思い当たる節は?

言わなくていいことをすごく鋭い言葉で言っちゃうのがダメなのかもしれないです。あとは自分の気持ちをちゃんとメンバーに話さないのも問題ですね。完全に手遅れになったタイミングでようやく話すので。「自分が背負い込んじゃえばなんとかなるだろう」と思いがちなのに、溜め込んじゃって結局爆発しちゃう。メンバーも「そんなにムカついてたなら言ってよ!」と思ってるかもしれません。

──ある程度把握はしていると。では今後の挫・人間はどうなっていくんでしょうか。

今ドリカム(DREAMS COME TRUE)みたいな編成になっちゃったので、とにかく新しいメンバーを入れないといけないですね。9月に出演する「TOKYO CALLING 2022」はサポートのギタリストが決まったので、なんとかいけると思います。できれば正式メンバーを探したいですけど、夏目の演奏スタイルを前提にして作った曲がとにかく多いので、加入が決まったとしても準備に時間がかかりそうで。でもこれから絶対バンドに変化が起きるので、そこは楽しみですね。

──ちなみにメンバー募集の状況はいかがですか?

TwitterのDMで「お前挫・人間聴いたことないだろ?」って人からたまに連絡が来ます(笑)。「ギター募集してると聞いて応募します。とりあえず聴いてください」みたいな感じで、オリジナル曲を送ってくるんですよ。ある程度フォロワーがいるからしょうがないかもしれないですけど、もう少しちゃんと演奏できて、挫・人間のことを知ってたり、いいと思ってくれている人からの応募が欲しいです……。あとドラマーは全然応募がないので、この際キーボーディストを入れたほうがいいのかも。このまま声児も抜けたらボーカルしかいないバンドになってしまうので、それだけは絶対に避けたいです。世知辛いですね……。

下川リヲ

プロフィール

挫・人間(ザニンゲン)

2008年に当時高校生だった下川リヲ(Vo, G)を中心に結成されたロックバンド。2009年に「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞したことで話題を集める。翌2010年に下川の進学に伴い活動拠点を熊本から東京に移し、同年にアベマコト(B, Cho)、2013年に夏目創太(G, Cho)が加入。長年3人体制で活動を展開してきた。2020年3月の5thアルバム「ブラクラ」リリース後にアベがバンドを脱退。同年11月にマジル声児(B, Cho / 中華一番、百獣)とスローセックス石島(Dr, Cho / ex. ベッド・イン with パートタイムラバーズ)が新メンバーとして加入し、2021年2月にはバンド史上最大キャパとなる東京・USEN STUDIO COASTでワンマン「挫・人間の人生大冒険」を開催した。しかし同年4月には加入からおよそ5カ月で石島が脱退。2022年5月には夏目の脱退も発表され、同年7月以降は2人体制で活動を行っている。