松下優也=YOUYA「20230524」インタビュー|世界で活躍するアーティスト迎えた1stアルバム制作秘話から歌唱の分析まで

YOUYAが1stアルバム「20230524」をリリースした。

YOUYAは舞台やミュージカルで俳優として活躍している松下優也のアーティスト名義。1stアルバムのタイトルには彼の33歳の誕生日、そして作品リリース日である日付が冠された。今作はJay Parkが設立したレーベル・AOMGに所属するGrayや、アメリカやアジアを中心に注目を浴びるYultron、韓国の若手注目プロデューサーのAvinなど、世界で活躍するアーティストやプロデューサーが多数参加。ロサンゼルス出身の韓国人ラッパーLos、シンガーソングライターの向井太一が客演で参加している。

1stアルバムのリリースを記念して音楽ナタリーでは、YOUYAとしては初登場となる松下にインタビュー。アルバム完成までのエピソードを中心に、自身のルーツ、歌唱についての分析、YOUYA名義で表現していきたいことなど幅広く話を聞いた。

取材・文 / 宮崎敬太

YOUYA名義ではやりたい音楽性を追求する

──松下さんがYOUYA名義で活動するようになった理由を教えてください。

いくつか理由があるんですが、1つは18歳の頃からお世話になってた事務所を辞めて2019年末に独立したことですね。それまで僕は本名で俳優とアーティスト、両方の活動をしていて。俳優仕事の一環でミュージカルでは歌も歌うんですけど、自分の中では音楽と演技は違うものという感覚があったんです。もちろん何かをクリエイトするという大きな枠組みでは同じなんですが、外から見たとき、名義を変えれば僕が俳優と音楽を違う意識でやってるとより明示できると思ったんです。

YOUYA

──去年、松下優也名義でカバーアルバム「うたふぇち 伝わりますか」をリリースされましたが、どう名義を棲み分けているんでしょうか?

音楽に関しては、基本的にYOUYA名義で活動します。去年のカバーアルバムは、“俳優からアプローチした歌”という軸で制作した作品と位置付けているんです。

──なるほど。

なので、YOUYA名義では僕がやりたい音楽性を追求して、松下優也名義では俳優活動に付随した作品を発表すると思っていただければわかりやすいと思います。

──最新アルバム「20230524」をリリースしたJ.E.T. MUSICとはどのようなレーベルなのでしょうか?

松下優也として音楽活動をしていた頃に、振付やライブの演出、ダンサーをしてくれていたダイキという盟友がおりまして。彼が数年前にダンスイベントの制作会社を立ち上げたんですね。ダイキとはもう10年来の付き合いで、彼のやりたいことも、僕のやりたいこともお互いに理解してる。だから僕が事務所から独立したタイミングで声をかけて、一緒に立ち上げたのがJ.E.T. MUSICというレーベルです。

──2021年発表のEP「OVERTURE」はほぼ英語詞で、過去のインタビューでも英語のほうが歌いやすいと話されていました。ですが「20230524」には日本語詞の楽曲が多数収録されています。これはなぜですか?

「OVERTURE」がほとんど英語詞だったのは、僕が英語ならではの表現方法や情報量の多さに魅了されていたのと、YOUYA名義として一発目のEPだったので、完全にブランディングが切り替わったと示したかったからです。世界でも活躍したいと考えているので。とはいえ僕は日本人で、いくら英語で歌ってもアイデンティティは変わらない。それに僕のライブに来てくれるのは日本人の方たちで、自分としても日本語で書きたくなる曲もあったんですよね。そもそも「OVERTURE」の頃も、頑なに英語詞でやろうとは思ってなかったんです。

YOUYA
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Avinはどんなジャンルでも完璧に打ち返してくれる

──前作「OVERTURE」は“YOUYA像”を印象付けるために制作された部分があると思うのですが、一方で今作「20230524」はどういうコンセプトで作っていったんですか?

わりと最近できた曲を集めた感じですね。あと「OVERTURE」の頃に作って、気に入ってたけど入らなかった曲も入れました。「Angel(Prod. by Stand Alone,Carlos Okabe)」と「Ghost(Prod. by Avin)」はYOUYA名義で最初に作った曲なんです。

──「Ghost」はIVEの「After LIKE」の編曲をしたAvinさんのプロデュース曲ですね。

そうそう。僕の作品は前作「OVERTURE」から彼が中心にプロデュースしてくれています。なんか僕に関わる人はみんな成功していくんですよ。自分だけ置いてけぼり……(笑)。冗談はともかく、彼はやっぱりすごいです。今みたいに有名じゃなかった頃から、僕の「こうしたい」と想像を上回るものを返してくる。僕はバラード、コテコテのR&B、ゴリゴリのトラップとかいろいろやりたいほうなんですが、Avinはどんなジャンルでも完璧に打ち返してくれますね。ホント最強の作家だと思います。

──制作の際は、AvinさんがストックしているトラックからYOUYAさんが選ぶんですか? それともリファレンスから作ってもらう?

両方ありますよ。例えば「Ghost」はストックから選んだ曲に僕がトップラインを付けました。向こうがトップラインまで書いてくれるパターンもあります。

──Avinさんはトラックメイキングだけじゃなく、トップラインまで書けるんですか!

彼は3人くらいの仲間とチームで制作してるから、けっこういろいろできちゃうんですよ。ちなみに前作に入ってる「Dance With Me」という曲はY2KみたいなバイブスのR&Bがやりたかったので、B2Kの曲をリファレンスで送りました。この前Billboard Liveでやったライブでは、B2Kのビートとマッシュアップしてプレイしたんですよ。

YOUYA
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何かの枠にハマりにいくことはしたくない

──少し脱線しますが、YOUYAさんが青春時代にハマったのはどんなアーティストですか?

僕はダンスも歌もやってたから、両方やってるアーティストにハマりましたね。当時だとアッシャー、オマリオン、クリス・ブラウンとか。同時にディアンジェロやミュージック・ソウルチャイルド、エリック・ベネイみたいなラインも大好きでした。ラッパーで一番影響を受けたのはカニエ(・ウェスト)。「Graduation」をめちゃくちゃ聴きました。

──村上隆さんがジャケを描かれた作品ですよね。

そうそうそう。2007年くらいですかね。カニエが日本のブランドの服を着てるのを見て真似したりとか、めっちゃ追っかけてましたよ。あの頃のカニエは自分にとってはスターです。

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──そういえば、以前ダンスもされるシンガーの方に取材したときにも、リスペクトするアーティストとしてクリス・ブラウンの名前が挙がってました。

「お前、どないやねん」って自分で先にツッコんでおきますけど、僕はけっこうタッパがあるのでクリス・ブラウンは一番自分を投影しやすいアーティストでしたね。特に中学時代って人によって成長の度合いが違うじゃないですか。僕は子供の頃から背が高くて、手足も長かったんですよ。でも当時憧れていたアッシャーもオマリオンも身長がそんなに高くなくて、筋肉があった。だから僕は同じように動けるイメージが湧かなくて、手足の長い自分があまり好きじゃなかったんです。そんなときに自分と同じような背格好で華奢なクリスが出てきて、すごいハマったんですよね。あとクリスのちょっと正統派じゃないところも好きです。ラップもするし、歌うし、踊るし、みたいな。いまだにジャンルを飛び越えた活動スタンスなのも超カッコいいと思います。

──確かに今名前が挙がったアーティストたちは、YOUYAさんの活動スタンスに通じるものがありますね。

僕自身、やれることが多いので、全部やっちゃえという感じなんです。できることを制限して何かの枠にハマりにいくようなことはしたくない。