ハッピーなだけの人生はすぐ枯れてしまう
──リード曲「紫苑」は、先ほど古閑さんが話した“人は花のようである”というコンセプトがわかりやすく歌詞に表われた曲ですよね。
紫苑の花言葉“君を忘れない”“遠方にある人を思う”をテーマに歌詞を考えました。歌詞の通りなんですけど、誰しもが自分の感情に背を向けてる気がするというか。前向きに生きれば明るい未来が待っているかもしれないのに、意地を張って感情に背を向けて、暗い気持ちに落ちてしまうというか、世界の中で枯れていってしまうようなことが多いと思うんです。それがなんだか花のように思えたんですよね。
──「背を向ける」を言い換えたような「隠す」という言葉も、今作の全体を通してよく使われていますよね。
1曲目の「あなたは嘘をつく」に出てくる「嘘」もそうだし、そこから連想される「隠す」や「忘れる」という言葉を要所で匂わせるように入れて、そういった言葉が自然と頭に残るような作品にしたいなと思ってました。
──そういう音源全体に関わるコンセプチュアルなアイデアは、それぞれの曲が完成する前の段階で考えているんですか?
そうですね。まず大元のアイデアがあって、その土台が崩れないように手がかりを散りばめる感じです。作るのに頭は使うけど、こういうのを楽しんでやれる人間なので(笑)。ゲームも隠し要素や裏設定があるみたいなやり込めるタイプのほうが好きで、連作とか伏線の回収が美しい作品に惹かれるタイプなので、自分で何か作品を作るならそういう要素を入れたいなと思っていて。ただ制作にすごく余裕があったわけではなくて、「紫苑」が完成したのはレコーディングの3日前だったし、よく間に合ったなという気もしています。
──「紫苑」は今作のリード曲ですし、作品のコンセプトにも合致しているのでもっと早い段階に完成した楽曲だと思っていました。
追いつめられてバッと作った曲が、結果的にいい曲に仕上がることが多いんですよね。ユアネスの代表曲になりつつある「Bathroom」(「Ctrl+Z」に収録)も同じくギリギリで生まれた曲なんですよ。「紫苑」の制作はよりタイトな期間の中、自分たちが出さなきゃいけないものをレコーディングの瞬間にすべて出し切る感じでしたね。制作中はリードになるかどうかもわからなかったんですけど、完成してみて今作の音源が引き締まった感じになったのは「紫苑」があるからだなって。
──「紫苑」の中で歌われている「ずっと快晴じゃ心は枯れ果ててしまう」という歌詞、すごく素敵ですよね。
ずっと楽しい、ハッピーなだけの人生だと、結局はすぐ枯れてしまうと思うんです。悲しいことや不安になることもあるからこそ、人は花のように成長していくんじゃないのかな……という気持ちとか考えとかを表現したくて書きました。僕も気に入ってる部分です。
「人は花のようである」をイラストで表現
──古閑さんがディレクションされた「紫苑」のMVも見応えがありました。
ありがとうございます! 今回もいろんな方の協力を得て、何かと無理を言って思い通りの映像を作らせていただきました。衣装を選ばせてもらったり、撮影地も決めさせてもらったり……細かいところで言えば、女優の夏川アサさんの爪の色も僕が選びました。本当に自分の中のイメージを反映させてもらった映像になりました。
──「紫苑」という曲ができたことで、ジャケットアートワークの色合いも決まっていった感じですか?
振り返ってみるとそう思いますね。ジャケットはイラストレーターのAofuji Suiさんにお願いしました。“人は花のようである”というコンセプトが決まったとき、Instagramの質問箱に「花のイラストが素敵な人を教えてください」という投稿をして、いろんな情報を送ってもらっていたんですよ。そこで知った方なんですけど、Aofujiさんの描かれる花びら1枚1枚の感じがすごく好きで、ジャケットを描いていただけないかなと思ったんです。連絡を取ってみたら、人としてもすごく魅力的な方だったのと、これまでとは違うユアネスを表現してみたい気持ちもあって、ジャケットのお願いをしました。
──ジャケットをお願いする際はどんなオーダーをしたんですか?
まず今作の音源を聴いていただいて、コンセプトも一緒に伝えました。それで感じたAofujiさんのイメージをもとに、イラストを描いていただいたんです。その絵が先行配信されている「紫苑」のジャケットイラストなんですよ。「ES」のジャケットに関しては、一度描いていただいたイラストをもとにお互いの意見を擦り合わせて描いていただきました。色合いとか、花の細部まで描かれている感じがよくて、アートワークとしてすごく気に入っています。
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各メンバーが表現するバンドの新たな一面