音楽ナタリー Power Push - YEN TOWN BAND

小林武史、“あいのうた”から20年

1996年公開の岩井俊二監督による映画「スワロウテイル」の劇中バンド・YEN TOWN BAND。サウンドプロデューサーの小林武史と、バンドのボーカル・グリコを演じたCharaを中心としたこの架空バンドは、映画公開と同年にシングル「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」と映画のサウンドトラックCD「MONTAGE」を現実の世界でリリースしヒットチャートを席巻した。そのYEN TOWN BANDが20年ぶりとなるニューアルバム「diverse journey」を発表。このプロジェクトの首謀者である小林はどういう意図でアルバムを作り上げたのか。本人に聞いた。

取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 小原泰広

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意図はあまりないのかもしれない

──今回のYEN TOWN BANDの復活についてなのですが、先にシングルを2作出しているとはいえ、アルバムを作るまでのプロジェクトだと思っていませんでした。

はははは(笑)。そうですか。

──改めて、YEN TOWN BAND再結成の意図から教えていただけますか。

それほどの意図があるかというとあまりないのかもしれません。でもきっかけになったのは、昨年新潟で行われた「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」というイベントです。

──このイベントで小林さんは、12年ぶりのYEN TOWN BANDのライブを行いましたね(参照:Charaが約12年ぶりYEN TOWN BANDのステージで“グリコ”に、シングル発売決定)。

小林武史

はい。僕は「大地の芸術祭」に影響を受けて来年宮城県石巻市の牡鹿半島で「Reborn-Art Festival 2017」というイベントをやるんですけど、こちらを実施するにあたり「大地の芸術祭」のスタッフの人たちにも協力していただいていて。そのつながりで、去年「大地の芸術祭」で何かやってくれないかと望まれたんです。それで何をやろうか考えた末「YEN TOWN BANDでライブをやるのがいいかもしれない」と思ったんですね。

──「大地の芸術祭」ありきの始動だったんですね。

そうですね。「大地の芸術祭」がなければ思い付かなかったかもしれません。それから僕は僕で「Reborn-Art Festival」でYEN TOWN BANDのライブをするというのを目標みたいなものとして定めたんです。密かにですけどね。

──それからYEN TOWN BANDのボーカルであるグリコ役のCharaさんに声をかけたんですね。

そうですね。

──反応はどういうものでしたか?

なぜ僕がYEN TOWN BANDを始動させようとしたかとか、それについてCharaがどう思っているかとか、そういうやりとりはしませんでした。少なからず唐突だったかもしれませんけど、驚いていたような印象はなかったですね。

──6月に発表されたシングル「my town」についてCharaさんにインタビューをした際、小林さんの「いや、Chara。愛だよ、愛!」という口説き文句でやることを決意したと言ってました(参照:YEN TOWN BAND feat. Kj(Dragon Ash)「my town」特集)。

その話は尾ひれが付いていますよ、Charaが言ったんです。Charaが「愛だ」と言うから、僕も「まあ、愛に決まってる……じゃない?」って(笑)。

「Reborn-Art Festival」に込めたもの

──「大地の芸術祭」は、小林さんにどのような影響を与えたのでしょうか。

地方では、地域の過疎化が進み、経済のスピードという点で都会から取り残されてしまっている現状があります。でもその中に美しさを見出して、地元の人やアーティストたちとの出会いを作っていく。そこに「大地の芸術祭」の意義を感じたんです。

──なるほど。

これまで日本は経済の都合で突っ走ってきて、そんな中で東日本大震災が起こり、福島のことがありました。それでも今はアベノミクスで「へこたれず、やはり経済を発展させていこうよ」という世の中です。それに伴い合理化に拍車がかかってきたからか、わかりにくいものが排除される傾向がずっと続いていると思うんですよね。そのため「なんだかわからないけれど、すごく面白いね」みたいなものに出会う機会が少ないというか。「Reborn-Art Festival」では、僕らなりに「大地の芸術祭」にもらった種を広げていこうと思っています。現代アートの作家も参加するような多様な場にして、多くの出会いを作って。

──そうなんですね。

岩井くんは1990年代にどこまで考えて「スワロウテイル」を作ったのかはひと言で話せることではないけれど、あの当時も、今の時代に似た状況があったと思うんです。少なくとも、まったく違うということはない。

「MONTAGE」ジャケット

──「スワロウテイル」では、「経済」「個として生きること」「人と生きること」などが象徴的に表現されていますが、そういったテーマは現在でも有効ですよね。

当時、経済成長や合理化を推し進めていく社会の有りように対して、映画自体もYEN TOWN BANDもカウンター的な立場を取っていたと思うんです。それは録音方法などにも現れていました。音楽って、1980年代を境に機材の進化もあって合理的に作っていけるようになったんです。でもYEN TOWN BANDはニューヨークのスタジオでビンテージ機材を用いてアナログレコーディングで「MONTAGE」を作りました。このやり方はアナログだけに制約も多いけれど、1960~70年代のロックのように、初期衝動的に制作したロックミュージックへの強烈なオマージュを示したかったんですね。

ニューアルバム「diverse journey」 / 2016年7月20日発売 / UNIVERSAL SIGMA
初回限定盤 [CD+DVD] / 4536円 / UMCK-9852
通常盤 [CD] / 3240円 / UMCK-1547
アナログ盤 [アナログ] / 2016年9月14日発売 / 4104円 / UMJK-9064~5
CD・アナログ収録曲
  1. Fantasy
  2. コオルS.O.S
  3. イェンタウンクラブ
  4. EL
  5. 君が好き
  6. I'll Love You So
  7. my town / YEN TOWN BAND feat. Kj(Dragon Ash)
  8. アイノネ(diverse journey mix)
  9. Kiss me with your eyes
  10. オレンジ色
  11. Romance
初回限定盤付属DVD収録内容
  • 「my town」ミュージックビデオ
  • 「大地の芸術祭 2015 YEN TOWN BAND @NO×BUTAI produced by Takeshi Kobayashi」
    • Gold Rush
    • Sunday Park
    • Mama's alright
    • 上海ベイベ
    • My Way
    • She don't care
    • してよしてよ
    • アイノネ
    • Swallowtail Butterfly~あいのうた~

Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016

2016年7月29日(金)宮城県 石巻港雲雀野埠頭(前夜祭)
<出演者>
Bank Band / ウカスカジー / Salyu / 東田トモヒロ / 藤巻亮太 / LEGO BIG MORL
2016年7月30日(土)宮城県 石巻港雲雀野埠頭
<出演者>
Bank Band / ACIDMAN / 大森靖子 / GAKU-MC / 金子ノブアキ / クリープハイプ / 黒木渚 / Cocco / ZAZEN BOYS / Salyu / スガシカオ / SUGIZO / SPECIAL OTHERS / 名越由貴夫 / 七尾旅人 / 藤巻亮太 / Mr.Children / WANIMA / and more
2016年7月31日(日)宮城県 石巻港雲雀野埠頭
<出演者>
Bank Band / 赤い公園 / APOGEE / あらかじめ決められた恋人たちへ / (仮)ALBATRUS / 安藤裕子 / YEN TOWN BAND / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND / GAKU-MC / 佐藤タイジ(シアターブルック) / 佐藤千亜妃(きのこ帝国) / Salyu / SUGIZO / ストレイテナー / 津野米咲(赤い公園) / TOKU / ナオト・インティライミ / ハナレグミ / MISIA / Mr.Children / and more
YEN TOWN BAND(イェンタウンバンド)

1996年に公開された岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」に登場した劇中のバンド。本作の主人公・グリコを演じたCharaがボーカルを、小林武史がプロデュースを担当し、同年にリリースされたシングル「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」とアルバム「MONTAGE」はオリコン週間ランキングでそれぞれ1位を獲得した。2015年9月に新潟・越後妻有で行われた芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」内でおよそ12年ぶりにライブを開催。YEN TOWN BANDがライブを行うのは、2003年10月のイベント出演以来となった。また10月には約19年ぶりの新曲「アイノネ」を、FM NORTH WAVE、J-WAVE、ZIP-FM、FM802、cross fmの5つのラジオ局によるキャンペーン「JFL presents FOR THE NEXT supported by ELECOM」のテーマソングとして発表。同キャンペーンのライブツアー「JFL presents LIVE FOR THE NEXT supported by ELECOM」に参加し、全国5カ所を回る。12月にはシングル「アイノネ」を発売。2016年6月にはKjとのコラボ曲「my town」を表題曲としたシングルをYEN TOWN BAND feat. Kj(Dragon Ash)名義でリリースし、7月20日にニューアルバム「diverse journey」を発売した。