ナタリー PowerPush - 矢野顕子

テクノもボカロも飲み込んで共同作業で「飛ばしていくよ」

曲全体を作る能力

──sasakure.UKさんはボカロPとして知られる方ですが、矢野さんはボカロ曲は以前から聴いていたんですか?

2月17日に東京・WWWで行われたワンマンライブ「矢野顕子 Premium Live “飛ばしていくよ”」の様子。左から矢野顕子、sasakure.UK。

あんまり聴いてないです。ボカロって何?みたいなそういう感じで。だから知識はなくて、いちから聴いてそれが面白いかどうかっていうだけでしたね。

──今ボカロPと呼ばれるアーティストがたくさん活動していますが、中でもsasakure.UKさんに魅力を感じたところはどこですか?

やっぱり曲全体を作る能力があるということだと思います。

──メロディメーカーとしての才能よりも、アレンジメントや楽曲構築の能力を求めてるということ?

そうね。それに今はメロディメーカーみたいな人ってあんまりいないんじゃないの? だってメロディは今あんまり必要とされてないでしょう。流行ってる曲とか聴いてもメロディがないものがすごく多いじゃない? ビヨンセとかもほとんどメロディないですもんね。

──なるほど。

今みたいに自分でコンピュータで音を作っていく中で、メロディ重視でっていうのは決して王道じゃないですよね。私がsasakure.UKさんを面白いと思ったのも、自分の中の世界っていうのが確立していて、思いつきだけではなくちゃんと最初から最後まで作る能力があるっていうところで。それがトラックを聴いてわかったのでお願いしました。

──なるほど。メロディについて言えば矢野さんはライブではメロディをその都度変えて歌うことが多いですよね。今回の制作過程ではどうでしたか?

歌い方は全体のバランスで変わるので、こういうトラックのときに弾き語りのような歌い方はしてないと思いますよ。ですから、わかりやすいと思うのね。

──確かにそうですね。だからポップに聞こえるのかもしれない。

うん、そうだと思います。

ワイルドで好き勝手な作品

──BOOM BOOM SATELLITESが担当した「Never Give Up on You」もユニークな仕上がりになりました。もともとBOOM BOOM SATELLITESは聴いていたんですか?

はい、ファンです。BOOM BOOM SATELLITESの音で歌いたいって思ったんですよね。実際に歌を入れていてすごい楽しかったし。

──吉田美奈子さんに提供した「かたおもい」を矢野さんが歌っているのも驚きでした。

2月17日に東京・WWWで行われたワンマンライブ「矢野顕子 Premium Live “飛ばしていくよ”」の様子。

それはディレクターのリクエストなんです。

──自分がいつか歌おうと思って温めていたみたいなことは?

全然(笑)。ライブでもやったことないですし。でも今回トラックがすごくカッコいいので、やってよかったです。

──「愛の耐久テスト」にクレジットされているMarc Ribot's Ceramic Dogというのはマーク・リーボウさんのバンドの名前になるんですか?

素晴らしいトリオバンドです、ものすごく有機的な。もともとCeramic Dogという名前だったんですけど、たぶんそれだとお客さんがなかなか入んなかったみたいで、今はMarc Ribot's Ceramic Dogになってます。

──マークさんを含め、矢野さんには今まで共演経験のあるミュージシャンがたくさんいますが、特にマークさんと「このアルバムで一緒にやりたい」と思った理由はなんだったんでしょうか? このアルバムにマークさんの音がふさわしいだろうと思った?

そうですそうです。

──では矢野さんがもともと考えていたアルバムのイメージはどういうものだったんですか?

単純に言ってしまうと“ワイルドな好き勝手”ということですね。

──確かにそういうアルバムになってると思います(笑)。

でしょ(笑)。そういうのもたまにあっていいんじゃないかしらね。

──ワイルド志向のきっかけが何かあったんでしょうか?

ううん。特にないし「私はこれからワイルドでいくわ」っていうわけでもないです(笑)。今までだって結局は好き勝手やってきてるわけですから。

ニューアルバム「飛ばしていくよ」/ 2014年3月26日発売 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64141
[CD] 3150円 / VICL-64141
収録曲(カッコ内はトラックメーカー)
  1. 電話線(sasakure.UK)
  2. 飛ばしていくよ(AZUMA HITOMI with Sakana Hosomi)
  3. YES-YES-YES(AKIKO YANO)
  4. リラックマのわたし(松本淳一[MATOKKU])
  5. 在広東少年(砂原良徳)
  6. ごはんとおかず(sasakure.UK)
  7. ISETAN-TAN-TAN(松本淳一[MATOKKU])
  8. 愛の耐久テスト(Marc Ribot's Ceramic Dog)
  9. Captured Moment(sasakure.UK)
  10. かたおもい(AZUMA HITOMI with Sakana Hosomi)
  11. Never Give Up on You(BOOM BOOM SATELLITES)
矢野顕子「飛ばしていくよツアー2014」
  • 2014年5月13日(火)
    愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2014年5月14日(水)
    大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2014年5月21日(水)
    東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2014年5月22日(木)
    東京都 渋谷CLUB QUATTRO
矢野顕子(やのあきこ)

1955年東京生まれのシンガーソングライター。幼少からピアノを弾き始め高校時代にはジャズクラブで演奏する。1972年頃からセッション奏者として活躍し、1976年にアルバム「JAPANESE GIRL」でソロデビュー。1979年から1980年にかけては初期YMOのライブメンバーも務めた。近年はrei harakamiとのユニット・yanokamiで新たな一面を見せるなど、そのチャーミングで独創的なスタイルは、後に続く世代のアーティストたちにも絶大な影響力を誇っている。2014年3月にニューアルバム「飛ばしていくよ」をリリース。