SUPER BEAVER史上最大キャパの野外ワンマンに向けて──ライブで披露し続けてきた楽曲を語る

SUPER BEAVERが7月22、23日に山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストで開催する野外ワンマンライブ「都会のラクダSP ~ 真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち ~」のうち、2日目の模様がWOWOWライブ / WOWOWオンデマンドで生中継される。

SUPER BEAVERにとってキャリア史上最大キャパシティとなる本公演。当日はメンバー考案メニューが食べられる飲食ブースや縁日ブースを設けたアミューズメントエリア「ラクダランド」も開園する予定で、夏フェスのような雰囲気でライブを楽しめるという。

音楽ナタリーではライブの開催を記念して、SUPER BEAVERの楽曲にフィーチャーした特集を展開。ライブで披露されることが多い楽曲、そして今年公開の映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命- / -決戦-」に提供された主題歌「グラデーション」「儚くない」について話を聞いた。メンバーはどのようなことを考えて楽曲を制作したのか? 過去の楽曲は今のSUPER BEAVERにとってどのような存在になっているのか? 当日どの曲が演奏されるかはわからないが、ぜひインタビューを読んでからSUPER BEAVER史上最大のライブを会場や生中継で楽しんでほしい。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 後藤壮太郎

人の感情が図らずも出てくる瞬間

──SUPER BEAVERは2月7日開催の自主企画「現場至上主義2023」Zepp Haneda(TOKYO)公演から声出しを解禁しています。声出し解禁以降はどんなことを考えながらライブしていますか?

渋谷龍太(Vo) フロアからの声はそもそもあったものなので、完全に見当違いだったけど「あるのが当然」と思っていた節があったんですよ。だけどいざ取り上げられたことで尊さや大切さを実感したし、みんなで声を出すことがライブを構築するうえでのかなり重要な柱の1つになっていたんだとこの3年間で気付かされました。だから今ありがたいと思っているし、あって当然とは思わなくなったし、かなり新しい認識のもと、フロアからの声を受けています。ただ、“戻ってきた”というのは俺たちだけの感覚だから、そういう感覚でいないよう、なるたけ努めているんですよ。

──というと?

渋谷 この3年間で初めてライブに行くようになった人から、「そもそも声出しライブ自体が初めてだ」という声をSNSなどを通してかなりの数聞いたんです。もちろん俺たちと同じように声出しありのライブが“戻ってきた”という感覚を持っている方もたくさんいると思うけど、そうじゃない人もいるということは念頭に入れておかないといけなきゃいけないし、1人ひとりがいろいろなことを考えてライブに来ているということはしっかりと認識しておかなきゃいけないなと。それに、声出しが解禁になっても、別に声を出したくないという人もたぶんいるだろうから。声出しが解禁になったけど、それは出しても出さなくてもいいということで強制ではないから、個人個人が自由に選んでほしいし、僕らからは「こんなふうにしたらもっとライブが楽しくなるかもしれないよ」という提案をしていきたいですね。

渋谷龍太(Vo)

渋谷龍太(Vo)

──楽しみ方を提案するという感覚なんですね。

渋谷 そうですね。コール&レスポンスや手を叩くこと、ジャンプすることを求めるのは「こうしなさい」という意味ではなく、選択肢を1つ増やしているような感覚です。そもそも僕らは音楽でひとつになることを目的にライブをやっているわけではないから、自分たちから一体感を作りにいくのは間違いだと思っているし、個人個人がどうするかに委ねたい。そのうえで、例えば「歌ってください」という場面を作ることによって「歌いたくなっちゃったけど、どうしよう」という感情になった人が歌いやすくなるのであれば、そのための導線だけははっきりと作ってあげたいんです。個人個人が自発的に意思表示することによって結果的に生まれちゃった一体感が気持ちいいのであって、僕らはそれをことさら大事にしたいと思っているので。

柳沢亮太(G) 僕らメンバーも含め、ライブに来た人たちの唯一の共通項ってSUPER BEAVERの音楽をともにするということだけだと思うんですよ。生活も価値観も何もかも違うけど、バンドが鳴らす楽曲だけが唯一の共通項として存在している。だからこそ「思わず歌っちゃった」「なんか拳を突き上げたくなった」「気付いたら笑ってた」「『イェーイ!』って大きな声が出ちゃった」というふうに人の感情が図らずも出てくる瞬間はすごく素敵なものだと思うし、僕らはそういうものがうっかりそろっちゃった瞬間にグッとくるんです。その1つがシンガロングだと思いますけど、そういうことが起こるのは決してアップテンポの楽曲だけとは限らないですよね。例えば、バラードを聴き終わった瞬間にグッと静かになる瞬間もその1つだと思います。「静かにしててね」なんて言っていないのに、誰も手を叩かないし声を上げないから無音になるという。

楽曲インタビュー

東京流星群
2013年4月3日発売のミニアルバム「世界が目を覚ますのなら」収録曲

──では、ここからはSUPER BEAVERのライブで披露されることが多い楽曲、そして新曲について話を聞かせてください。「東京流星群」はライブでシンガロングが起こる曲の1つですが、制作当時はどんな曲にしたいと思っていましたか?

柳沢 まさに“シンガロング”というキーワードのもと、制作していた記憶があります。それまでビーバーにはシンガロングを誘発するような楽曲ってさほどなかったんですよ。だけど日々ライブハウスに足を運んでいる渋谷と「シンガロングがあるから、バンドを観に行くのってたまらないんだよね」という会話をしたことがきっかけになって、シンガロングができる楽曲を作ることにしたんです。シンガロングしやすいよう、あえてサビでは同じメロディをリフレインさせているんですけど、そういう曲ってそれまでは作ってこなかったんですよ。

藤原“35才”広明(Dr) 「東京流星群」は「SUPER BEAVERのライブをもっと楽しくできないか」「曲作りの段階からできることはないか」とみんなで考えていた時期に、ヤナギ(柳沢)が作ってきてくれた曲でした。最初に話していたように、ライブの楽しみ方はいろいろあるけど、フロアにいる1人ひとりが歌で参加するのもその1つで。「東京流星群」を作ったくらいの時期から、ぶーやん(渋谷)が言っていた“導線を作る”ということをバンドとして丁寧にやるようになったのかな。

柳沢 あと、サビでハモりのコーラスを入れるんじゃなくて、渋谷の歌う主旋律とユニゾンするコーラスを入れたのも、俺や上杉や藤原が歌でレコーディングに参加したのも、この曲が初めてだったかもしれません。

上杉研太(B) 当時は4人で歌う曲がここまで増えるとは思っていなかったけど、今では4人の声が合わさったものを聴くたびに「あ、SUPER BEAVERだ」と思ったりするから面白いですよね。当時の自分たちの「こういうふうにライブを運んでいきたい」「こういうふうに曲を届けていきたい」といった考えが、10年後の今、バンドのスタンダードとして浸透しているんだなと。

SUPER BEAVER

SUPER BEAVER

──それにしてもSUPER BEAVERの歌にはパワーがありますよね。渋谷さんのボーカルはもちろん、3人のコーラスにもパワーがあり、聴いていて熱い気持ちになります。

柳沢 実はここ数年で今一度コーラスを強化しました。声は気持ちとともにワッと出ていくものだから、「とにかくエネルギーを届けられればいいんだ」と思っていた時期もありました。だけどコロナ禍に入って配信ライブをしたとき、我々の演奏がより冷静なトーンで届いていくから、コーラスの精度も上げるべきだという話になって。そこからは「ちゃんとそろえよう」とか「しっかりマイクに乗せよう」ということを今一度意識するようになりました。

青い春
2016年3月23日発売のシングル「青い春」表題曲

──続いては、2016年リリースの「青い春」について聞かせてください。

藤原 ライブでは本当に何回もやっている曲ですね。いつからなのかわからないけど、今となっては、ぶーやんのいつものあの言葉(「いつだって始まりは青い春」)がないとカウント入りにくいなって思っちゃうんですよ。

渋谷 あははは。SUPER BEAVERを象徴する曲に育ったと思うし、ライブの運び方を考えるうえで置きどころに困らない曲でもあるし。すごく大事な曲の1つです。

──柳沢さん、「青い春」はどんなことを考えながら作りましたか?

柳沢 自分たちが学生時代によく聴いていた日本語のパンクロックを意識しながら、シンプルで、キャッチーで、わかりやすい楽曲を目指して作りました。Aメロのギターはいわゆるダウンミュート(ブリッジミュート+ダウンピッキング)なんですけど、結成当初に作ったオリジナル楽曲ではだいたいこういうことをしていたんですよ。

上杉 Aメロでミュートしがちだったよね。

柳沢 それ以外の手法を知らなかったから(笑)。「青い春」というタイトルの通り、「バンドを始めた頃に一手目で出てきそうなものを、今の自分たちでやってみたらどうなるだろう?」というテーマがありました。歌詞も青さを思い出すような感覚で書きましたね。ただ、僕らが20代後半に差しかかった頃に制作した曲なので、完成したときに「これ、大丈夫か?」という会話をしたんですよ。「俺たちはもう大人になっているのに、こんなに若い曲を歌っていいのか?」と。

上杉 「ギリギリじゃね?」と言ってたよね。だけどそれを自信を持ってやることに意味があるんじゃないかという結論になって。

柳沢 そうそう。結果的にやってよかったですね。

柳沢亮太(G)

柳沢亮太(G)

──ライブに足を運んでいるファンの皆さんにとっては、イントロが鳴った瞬間、テンションが上がる曲の1つなんじゃないかと思います。

柳沢 ビーバーには珍しい、サビのメロディがイントロになっている曲の1つです。

上杉 イントロに入ると「来た!」「これが聴きたかった!」という反応をしてもらえることが多いし、そういう空気を自分らのツアーだけではなくフェスでも感じるから、「SUPER BEAVERといえばこの曲」と思ってくれている人がたくさんいるんだろうなと感じています。だから今となっては“実家”のような曲になっていますよね。自分たちにとっても、フロアの1人ひとりにとっても。