Awesome City ClubのワンマンライブをWOWOW生中継、自身最大キャパの公演で見せる自由な表現

Awesome City Clubがワンマンライブ「Awesome Talks One Man Show 2021 - to end the year -」を12月8日(水)に東京・東京ガーデンシアターで開催。その模様がWOWOWライブとWOWOWオンデマンドで生中継および生配信される。

今年1月に公開された坂元裕二脚本の映画「花束みたいな恋をした」のインスパイアソング「勿忘」が大きな話題を集め、瞬く間に人気バンドとしての地位を確立したAwesome City Club。音楽ナタリーでは、自身最大キャパの公演を控える3人にインタビューを行い、このライブに対する意気込みについてはもちろん、「勿忘」ヒット後のバンドのモードや心境について話を聞いた。特集の後半では、11月27日(土)にWOWOWプライムでテレビ初オンエアされる映画「花束みたいな恋をした」についても語ってもらった。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 入江達也

「自分たちは必要とされているんだ」と気付けた「勿忘」のヒット

──前回音楽ナタリーでインタビューさせていただいたのが今年の1月で(参照:Awesome City Club「Grower」インタビュー)、ちょうど「花束みたいな恋をした」が公開される直前だったんですよね。あれからバンドを取り巻く環境は一気に変わったと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

atagi 率直に言うと、コロナ禍の影響でライブの本数が減ってしまったというのもあり、大きな変化を実感することはそこまで多くないんですよね。ただ、今までは活動の場が主に音源制作とライブだったのが、テレビをはじめとしたメディアの露出も増えてきて、忙しさの度合いというよりは、仕事の内容が少し変わったのかなと思います。

PORIN テレビに出させていただいたり、タイアップのお仕事をいただいたり、新しい経験はたくさんさせてもらえましたね。最初はすごく不安だったけど、いろんなことを経験させてもらえたので、今は緊張せず楽しめるようになってきてます。

モリシー 僕も心境的にはあんまり変わってないんですよね。確かにテレビ出演は最初のうちは緊張しましたけど、自分が出た映像を見ても「ライブのときとあんまり変わんないな」と思うし(笑)。いい意味でフラットな心境です。でも家族や親戚からお祝いの言葉をかけてもらえるのは、よかったなと思います。

PORIN 私、親戚増えたんだけど(笑)。両親が会うたびにサイン色紙を頼んでくる(笑)。

モリシー でもそういうのもありがたいことだと思いますよ(笑)。

atagi いろんな仕事をいただけるのは本当にありがたいし、うれしいことですね。「自分たちは必要とされているんだ」と思えるのってこんなに幸せなんだなと。そこに関しては自分の精神衛生的にも助かった部分がありました。

atagi

atagi

──仕事の内容が変化することで、新たなリスナーもたくさん付いたと思いますが、そのあたりの実感はありますか?

PORIN それが、ライブやフェスがないから本当に実感が湧かないんですよ。TikTokで自分たちの曲がバズってるのをスマホ越しに見るくらいで。だから、そのへんの変化を感じるのはこれからだと思います。

モリシー でも若いファンは増えた気がする。僕はコーヒースタンド(「MORISHIMA COFFEE STAND」)をやってるんですけど、以前よりも大学生や20代前半の方がよく来てくれるようになったんですよ。「勿忘」で僕らを知ってくれた人もいれば、意外と「前から聴いてました」という人もいて。

PORIN そうか、実はモリシーが一番ファンと接しているのか(笑)。

モリシー コーヒースタンドもリサーチに役立つでしょ?(笑)

「こんなにマスに行けるバンドだったんだ」

──心境的にそこまでの変化はないというお話もありましたけど、やっぱり「勿忘」が、Awesome City Clubが幅広く認知されるきっかけになったことは間違いないですよね。この曲がここまでフィーチャーされることは予測していましたか?

atagi 全然予測してなかったですね。もちろん自分たちの中では大切な曲だったので、いろんな人に聴いてもらえることを願ってましたけど、こんな広まり方をするとは思ってなかったです。なんなら、この曲がどんどん広まっていく光景をドキドキしながら眺めていたくらいで。

──PORINさんは前回のインタビューで「今、バンドに新しい波が来ている感じがすごくあるんですよ」「今までがむしゃらに進んできたことで、なんとなく次のフェーズが見えてきたような」と、まるでこの状況を予測するかのようなことをおっしゃっていました。ご自身の中で予感めいた何かがあったのでしょうか。

PORIN え、私そんなこと言ってました?(笑)

atagi 言ってた、言ってた。「めちゃくちゃ強気なこと言ってるな」と思ってたもん(笑)。

PORIN そっか、そんなこと言ってたのか……(笑)。でも「勿忘」に関しては、みんな手応えを感じていたと思うんですよ。ただ、さすがにここまでのことになるとは思わなかった。だって、3カ月連続で「Mステ」に出たんですよ? 信じられませんよね。この半年くらいで奇跡的な出来事がたくさん起きて、夢のようでした。

──一気にメジャーシーンに躍り出た感じがありましたよね。

PORIN 私たちはもともと自分たちのことを、テレビ出演などには向いてないと思っていたので、「こんなにマスに行けるバンドだったんだ」という驚きがありましたね。

PORIN

PORIN

──PORINさんは、同じく前回のインタビューで「きっと、環境が大きく変わればうれしいことも悲しいこともあるんだろうなと。そんなときでも自分はありのままでいたい」と語っていました。この発言と今の自分を照らし合わせて、いかがですか?

PORIN 「勿忘」がヒットして、テレビに出させていただいたりしてから、私たちに対する接し方が露骨に変わった人とかも中にはいて……(笑)。

一同 (笑)。

モリシー いやいやいや、すごいこと言うね(笑)。

PORIN それが本当に悲しくてしょうがないので(笑)、「自分はブレずに、変わらずに生きていかなきゃ」と身に染みて思いました。

──「ありのままの自分でいたい」という思いは、PORINさんが歌詞を手がけた「夏の午後はコバルト」にも込められていますよね。ご自身の中で大切にしているテーマなのでしょうか。

PORIN そうですね。あまり無理をしすぎると、自分の心がどんどん汚れていきそうな気がするし、周りの人にもいい影響を与えないだろうなと思っていて。本当にいろんな経験をさせていただいて、いろんな人に出会えて、その分いい空気も悪い空気も感じているんですよ。だからこそ、その空気に染まりきらずにありのままの自分でいたいというのは、この半年くらいでより強く思うようになりました。

弱みが強みに転化したタイアップ曲

──「勿忘」のヒット後にリリースされた「夏の午後はコバルト」や「color」は、それぞれタイアップが付いていることもあって、アルバム「Grower」とはモードが違う、開放的なポップチューンに仕上がっています。

atagi やっぱりタイアップ曲を作るうえで一番大切なのは、その作品や商品にリスペクトを持って接することだと思うんです。なので、その2曲に関しては作品や商品から得たインスピレーションがそういう形になって表れたんだと思います。もちろん自分たちが作りたい音楽を自由に作るのも、それはそれで楽しいんですけど、いろんな価値観と自分の考えをすり合わせて形にしていくのは新鮮で面白いし、意外とそういうことをするのに向いているバンドなのかなと。

──確かに「勿忘」のようなバラードもあれば、「夏の午後はコバルト」のようなさわやかなポップチューンもあって。もともと音楽的なアプローチの幅が広いバンドだからこそ、いろんな作品や商品に合わせて形を変えられるという強みがありますよね。

atagi でもそれって、今まで周りの人から弱みとして言われてきた部分でもあるんですよ。「Awesome City Clubは結局何がやりたいの?」とさんざん言われてきましたから。結局強みと弱みなんてものは表裏一体で。こうしていろんなタイアップをいただいたことで、強みの部分を目に見える形で出せるようになったのかなと思います。

──「Grower」についてatagiさんは「部屋の中でくつろいでるようなサウンドを心がけた」とおっしゃっていました。それはコロナ禍の影響がかなり大きかったと思うのですが、この半年でそういった社会への向き合い方に変化はありましたか?

atagi 今でもコロナ禍に対する意識はありますね。周りがどう思っているかというよりは、自分の気分やモードの話だと思うから、「気にせず好きなことをやろうぜ」みたいな勝手なことも言えないし、自分もそういうテンションにはなれないし。ただ「Grower」発売時は、「自分の手の届く範囲の、身の丈に合った幸せや感動に一喜一憂していたい」という気分が確かにあって。そこからは少し変わりつつあるのかな。いろんな仕事をさせていただくことで、「自分たちが本当にしたいことは何なんだろう」と考え直す機会にもなりましたし、そういう先のことを考える余裕が少しずつ生まれ始めているかもしれないです。

モリシー 「Grower」の頃は、やっぱりコロナ禍の影響で、作るものが内省的になっていたというのはあると思います。まあそれはそれでよかったと思いますけどね。コロナ禍のおかげで普段はできないことに取り組んだり、改めて自分を見つめ直す時間が生まれたりして、成長できた面もあると思うので。

モリシー

モリシー

PORIN コロナ禍に突入して最初の頃は精神的に参ってしまう時期もあったんですけど、時間があったおかげでいろんなものを好きになることができて。普段はあまり観ないアニメを観るようになったり、ボカロの曲を聴いてみたり。視野が広がったと思うので、そういう意味では大事な時間だったなと、今になって思います。