Awesome City Club|新体制初のアルバムで届ける 試練を乗り越え育てた思い

Awesome City Clubが、前作「Grow apart」から1年足らずで早くもニューアルバム「Grower」を完成させた。

昨年8月にドラムのユキエが脱退し3人組となった彼ら。バンドというフォーマットにこだわることなく作られた本作には、エレクトロポップからファンク、フォーク、ネオソウルなどさまざまなアレンジの楽曲が並ぶ。アレンジャー&プロデューサーには、久保田真悟(Jazzin'park)、ESME MORI、永野亮(APOGEE)といった前作の布陣に加え、永井聖一、Curly Giraffe、HIKARI、TOSHIKI HAYASHI(%C)らが参加し、より円熟味を増したメロディと、atagi&PORINの男女混声ボーカルを存分に引き立てている。今回、モリシーのギターがこれまで以上にフィーチャーされているのも印象的だ。

本作のタイトル「Grower」は、直訳すると「栽培者」「育てる人」という意味。未だ予断を許さないコロナ禍で、さまざまな試練を乗り越えながら、彼らはどんな思いを育んできたのだろうか。アルバム収録曲のエピソードを紐解きながら、3人の今の心境に迫った。

取材・文 / 黒田隆憲 撮影 / 斎藤大嗣

メンバー脱退を経て

──昨年8月にドラムのユキエさんが脱退したことは、Awesome City Clubにとって、とても大きな出来事だったと思います。まずは、そこに至るまでの経緯を教えてもらえますか?

atagi(Vo, G)

atagi(Vo, G) この場でどう説明したらいいのか、自分でもまだ明確な言葉が見つからないのですが……昨年はコロナ禍で生活様式が一変した中、自分たちがバンドとしてどこへ向かうのか、どんな景色を見たいのか、どういう音楽を作っていきたいのか、改めて話し合いを重ねてきたんです。その中で、ちょっと皮肉でもあるのですが、前作「Grow apart」のテーマでもあった“すれ違い”のようなものが生じてきて。

──傍から見ていると、それこそ前作「Grow apart」あたりからバンドのアレンジもより自由度が高くなり、リズムのあり方もどんどん変化しているように感じていました。公式サイトに掲載された声明(参照:Awesome City Club からのお知らせ|Awesome City Club オフィシャルサイト)を読むと、そのあたりの葛藤についてユキエさんも率直な気持ちを記していましたよね。

PORIN(Vo, Syn) マツザカが辞めてベースがサポートになり、その都度グルーヴも変わったりして。彼女もつらかっただろうし、バンドとしてもそこで苦しむ部分もあったりしながら、ここ何年か続けてきました。そうした経緯を経て本当に自分たちがやりたいこと、自分たちが輝ける場所をお互い見つけて進んでいこうという話し合いをした結果が、今の形なのかなと思っています。

──声明の中でatagiさんは、「こういう結果に至った事が正解だったのか、という迷いのような気持ちが少しと、こうなった以上、今までユキエちゃんに甘えていた部分も自立しなければ、という気持ちが少し」とも書かれていました。この結果が正解だったか否かは、それぞれが今後どう歩んでいくかで決まるのでしょうね。

atagi そう思います。ここから自分たちが根本的に大きく変わっていくつもりはないのですが、少なくともここにいるメンバーとスタッフが、「これ、いいね!」と言ってくれる音楽を僕は作っていきたい。その気持ちの度合いはこれまで以上に大きくなったし、楽曲としてそれを、ちゃんと落とし込んでいきたいと思っています。

新しい世界に感じる希望

──前回インタビューさせてもらったのが1回目の緊急事態宣言解除直後(参照:Awesome City Club「Grow apart」atagi(Vo, G)&PORIN(Vo)インタビュー)で、それ以降コロナの状況も、それにまつわる社会情勢も刻々と変化していきました。そんな中、皆さんはどんなことを考えていましたか?

atagi 前作「Grow apart」のテーマとして掲げた“すれ違い”で自分自身が何を描きたかったかというと、自分の中で相反する気持ち……正論で片付けられないようなグレーな気持ちと、どう折り合いをつけるか?ということだったんです。それってまさに、コロナ禍で思っていたこととも通じている気がして。これは僕の個人的な意見ですが、例えば何か1つの考え方に一方的に偏っていくことって非常に怖いことだなと感じたんです。「これが正しいんだ!」と盲信的に言っている人たちこそ、物事に対して懐疑的になるべきじゃないのかなと。そういう意味で、この半年くらいは常にモヤモヤが募っていく状態でした(笑)。

──確かに、「多様性」を謳う一方で自分と異なる意見を排除するような動きが、いろんなところで起きていた印象はあります。

atagi 心が迷ったり不安が募ったりすると、何かを糾弾したくなったり、相手の考えに寄り添う余裕がなくなったりするじゃないですか。それがすごく顕著に出たのがこの半年だったのかなと。そんな中、自分の中に生じた違和感に聞き耳を立て、作品として落とし込んでいけたらいいなとずっと考えていました。

──PORINさんはいかがでしたか?

PORIN(Vo, Syn)

PORIN 2020年は、価値観がガラッと変わった年だと思います。音楽の聴かれ方もそうですし、ヒット曲の系譜もガラッと変わりました。例えば、派手なダンスミュージックよりも、ちょっと切ないバラードが聴かれるようになったのもそうですし。ただ、それはコロナで急に変わったわけではなくて、これまであった流れがどんどん濃くなっていったというか。その決定的な一打がコロナだっただけなのかなと感じています。そんな中、個人的にはこの新しい世界にすごく希望を感じていて。

──希望ですか。

PORIN もちろん、この1年はネガティブな出来事がたくさんありました。今なお生活することすらしんどい人もたくさんいるし、音楽業界もものすごくダメージを受けています。しかも、嘘か本当かわからない情報が毎日のように飛び交っている。ただ、それを取捨選択するのは自分の意思ですし、そんな世界をどうサバイブしていくかも自分次第という状況は、すごく楽しいことでもあるなと思っています。

──前回インタビューさせてもらったとき、PORINさんはコロナへの恐怖を率直に語ってくださいましたよね。今のような、力強く前向きな気持ちを発信できるようになったのは、何か心境の変化があったのですか?

PORIN 世の中の人たちが、ちょっとずつ優しくなっていることに気付いたんです。Instagramを見ていても、急に自然を愛でるようになった人や、料理にハマった人がたくさんいて(笑)。そうやって日常の些細なことにしっかり目を向けているのは素晴らしいことだと思うんです。「人間の本来あるべき姿に戻った」とすら感じていて。私自身も、今までまったく自炊とかしていなかったのに最近はするようになったんですよ。人はこんなに変わるものなのか……と、我ながら驚いています。

モリシー(G, Syn)

モリシー(G, Syn) 僕もコロナ禍で心のヘルシーさを取り戻していきましたね。考える時間がたくさんできたからこそ、コーヒー屋を始めようと思えたわけだし(モリシーは昨年12月にコーヒースタンド「MORISHIMA COFFEE STAND」をオープンした)。経済的には、僕自身も僕の周りのミュージシャンやスタッフも大打撃でした。それを味わったときにヒヤッとしたんですよね。それもあって、「自分でどうにかするしかないよな」というマインドに切り替わったのかもしれない。

atagi いろんな意味で覚悟を問われていた期間だったかもね。

モリシー そうそう。あと、人と接する時間が少なくなった分、より人のことを考えるようになりました。友人や知り合いと連絡をまめに取るようになったし、ちょっとコロナが落ち着いた時期は、友人を家に呼んで一緒に食事をしたりもしていました。そんなこと以前はしたことがないので、「自分、変わったなあ」とつくづく思います。とはいえ、自分自身のAwesome City Clubへの向き合い方は、そんなに変わっていないと思うんですよ。曲作りに関してはatagiとPORINに任せて、「その代わりギターは自由に弾くよ?」という。そこが、以前よりも研ぎ澄まされた感じはあります。