ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ

ヤケクソ! 下ネタ! 与沢翼! 3つの武器が生み出す“時代の音”

ヤケクソじゃなくてクソが出ちゃいました

──ヤケクソとはいうものの、さすが武器の扱いに長けてますよね。特に3曲目の「体内ラブ」の歌詞って本当にすごい発見だと思いますし。例えば西野カナさんはメールを道具に恋人同士が精神的に遠距離恋愛状態にあることを歌っていて、秋元康さんはLINEを道具に女の子と男の子の距離感を歌うHKT48「既読スルー」を書いているんだけど……。

オレらはその道具が「クソ」っていう(笑)。

──「君は小腸 僕は大腸」「クソが通ると僕らはひとつさ」(笑)。

自分の中の魔物を解放したら、ヤケクソじゃなくてクソが出ちゃいました(笑)。

──あはははは(笑)。

この歌詞って2分くらいで書いたんですよ。

──3分以上の曲の詞を2分で(笑)。

柴田隆浩(Vo, G)

ホントなんも考えずに書いたらクソが出てました(笑)。でもね、この曲ってなんか泣けるんですよね。「足りないな 足りないな」って歌ってるとなんか泣けてくる。曲ができあがったばっかりの頃、弾き語りで歌ってたら、そのライブを観たキングコングの西野(亮廣)さんも「泣けるんですよー」って言ってくださったし。

──柴田さんとゲストプレイヤーの玉屋2060%(Wienners)さんのギターカッティングはファンキーだし、梅津(拓也 / B)さんと酒田(耕慈 / Dr)さんのリズムはトライバル。一番踊れる曲なんだけど、確かにどこかセンチメンタルですよね。

ねっ。

──そこで作詞・作曲をしている本人に「ねっ」って言われちゃうと、困っちゃうんですけど(笑)。

あはははは(笑)。でもホントになんでこうなったのかは神様しか知らないんだと思いますよ。たまたまとしか言いようがない。

──マーケティングミュージックだって言ってたのに(笑)。

結局緻密にマーケティングしたり分析したりしてたどり着いた結論が、もう後先とか考えずにヤケクソになって思い付くまま行動するのが一番正しいってことだったんですよね。だから今回は作詞でも作曲でも本当に悩んでない。唯一1曲目の「ばかばっか」の詞だけはしんどかったけど。

1stアルバムの頃とはちょっと違う魔物

──「ばかばっか」の作詞がしんどかったのはなぜなんでしょう?

リード曲だからですね。やっぱりアルバムが世の中に刺さるか刺さんないかってリード次第だと思うんです。で、そのプレッシャーでスゲー怖くなっちゃった。何を書いても「これ、世の中に刺さんないかも」「もっとイケんじゃねえか」って考え込んじゃって、結局なんも書けなくなった。一旦できあがった歌詞をあとから書き換えたりもしてますし。みんなからスゲー怒られながら。あるライブの打ち上げで「『ばかばっか』の歌詞を変えようと思うんだけど」って言ったら、あの温厚な梅津くんがブチギレて。「おい、柴田! てめえ!」「いい加減にしろ! 付いていけねえんだよ!」って(笑)。

──結果、冒頭から「きらきら 輝いて」いる「君」は「彼氏の上にまたがって」いて、一方「好きでもない人で童貞を捨て」た柴田さんはその君と「オナニーでしか」会えなくて、「Tカードお持ちですか」って聞いてくる「コンビニの兄ちゃん」にイラっとする詞ができあがった?

柴田隆浩(Vo, G)

そうそうそう。やっぱりクソみたいなものが出てきちゃった(笑)。歌詞が書けなかった頃「実際のところ俺はそんなこと思ってねえけど、こういう言葉を使ったら世の中ザワつくんじゃねえか」みたいなことも考えたんですけど、それはやっぱりオレたちの武器じゃない。みっともないくらいにヤケクソな勢いで自分の中の魔物を解放するのがオレたちの武器なわけですから。自分らしくない発想を必死で排除した結果、生まれたのがこの詞なんです。ただその魔物っていうのは1stアルバム(2012年3月リリース「忘れらんねえよ」)の頃の魔物とはちょっと違う。今の自分の思ってることがちゃんと描かれてるし、いい曲になったなって思ってます。

──確かにこのミニアルバムって正しくバンドの“次回作”ですよね。例えば「ばかばっか」では「君」のことや「コンビニの兄ちゃん」のことや、「ホームレスにはまるで目もくれない」くせに「絆の歌で泣いて」いる奴らのことを「ばかばっか」って歌ってるけど……。

一番のバカはオレっていう(笑)。

──ええ(笑)。1stアルバムの頃のように一方的に他者にキレはしない。「流行のラーメン屋に並ぶような奴ら」も「ホームレス」も「電話に謝って」いるサラリーマンも「間違っちゃいない」って歌う2曲目の「タイトルコールを見ていた」もそうですし。「体内ラブ」はタイトルからしてラブだし。ルサンチマン全開の1stアルバムと、そのルサンチマンの対象にも音を届けようとする2ndのハイブリッドになっている。

1stアルバムの頃だって人の痛みをまったく知らなかったわけじゃないけど、最初に話したみたいに、ここ数年、自分自身相当痛い思いをしてきたから。おかげで優しくなれたとは言わないけど、確かになんか優しい場所に着地できるようになってはきてますね。

1年経ちゃあいろいろ変わるから

──その最たるものが4曲目の「運動ができない君へ」で。今までの柴田さんには「僕らパンクロックで生きていくんだ」というように、自分のために歌を歌っている印象があったんだけど、この曲は文字通り「君へ」向けて歌っている。個人的な話なんですけど、すごく勇気付けられました。小中学生の頃、“運動ができない僕”だったから(笑)。

あはははは(笑)。オレも運動ができなかったからこの曲を書いたんですけど、ホント学生の頃ってなんで運動ができないだけでクラスの2軍とかに送られなきゃいけなかったんスかね? じゃあなにか? 社会ってのは足の速い / 遅いを基準に動いてるんですか!? 総理大臣や大企業の社長ってのは足が速いから総理大臣や社長になったんですか!?って話じゃないですか。ふざけんじゃねえよ!っていう(笑)。

──まさにそのこと、「運動ができない君へ 伝えたいことがある たぶん世界はずっとでかいんだよ 君が思うより」って声高に叫んでくれる人がいる事実に救われる人って相当数いると思いますよ。

「君へ」って言いながら実は自分に言い聞かせるための曲でもあるんですけどね。今はやっぱり「しんどい」「悔しい」って思うことが多いんだけど、そのたび言い聞かせてるんですよ。「状況って変わるよ」「いやでも、1年経ちゃあいろいろ変わるから」って。実際1~2年前、クリープハイプが武道館2DAYSやるなんてたぶん誰も思ってなかっただろうし。そうやって本当にカッコいい人たちがいい方向にちゃんと変わっていってるのを見てるから。まずは運動ができなくてイヤな思いをしている中学生なんかに聴いてもらいたいんだけど、自分のために歌ってる部分も少なからずありますね。

ミニアルバム「あの娘のメルアド予想する」 / 2014年6月11日発売 / 1620円 / VAP / VPCC-81802
ミニアルバム「あの娘のメルアド予想する」
収録曲
  1. ばかばっか
  2. タイトルコールを見ていた
  3. 体内ラブ~大腸と小腸の恋~(feat. 玉屋2060%、MAX from Wienners)
  4. 運動ができない君へ
  5. バンドやろうぜ
  6. 僕らチェンジザワールド
  7. 僕らパンクロックで生きていくんだ
  8. THANK YOU SEXメドレー(この街には君がいない~北極星~CからはじまるABC)
  9. バンドワゴン
  10. パンクロッカーなんだよ
忘れらんねえよ主催 ツレ伝ツアー
ツレ伝ツアー~あの娘のメルアド予想する編~
2014年6月20日(金)福岡県 DRUM SON
<出演者>
忘れらんねえよ / Wienners
2014年7月3日(木)新潟県 CLUB RIVERST
<出演者>
忘れらんねえよ / The SALOVERS
2014年7月4日(金)石川県 vanvan V4
<出演者>
忘れらんねえよ /The SALOVERS
2014年7月10日(木)大阪府 Music Club JANUS
<出演者>
忘れらんねえよ / asobiusu
2014年7月13日(日)愛知県 APOLLO BASE
<出演者>
忘れらんねえよ / それでも世界が続くなら
BLUE ENCOUNT TOUR2014 DESTINATION IS "PLACE" × 忘れらんねえよ ツレ伝ツアー~あの娘のメルアド予想する編~
2014年6月22日(日)宮城県 HooK SENDAI
<出演者>
忘れらんねえよ / BLUE ENCOUNT
対バン全然決まらんからもうヤケクソでワンマンにしたる「ヤケ伝」
2014年7月25日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
忘れらんねえよ(ワスレランネエヨ)

柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年結成。パンクロック由来のラウドなギターサウンドと、日々の暮らしの中にある喜怒哀楽をリリカルながらも熱量とテンション高く歌い上げる柴田の歌詞を武器に都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年8月、表題曲が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに採用されたシングル「CからはじまるABC」でメジャーデビュー。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」を、6月には同じく會田プロデュースのシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」をリリースする。また同年春から夏にかけて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」「ARABAKI ROCK FEST.13」「ボロフェスタ2013」など、音楽フェスティバルに精力的に出演。若手最注目バンドの一角を担うように。そして2013年10月には2ndアルバム「空を見上げても空しかねえよ」を、翌2014年6月にはメジャーデビュー後初となるミニアルバム「あの娘のメルアド予想する」をリリース。